第二十八章 風の島ヘブロン
六日目の朝、船の前方にヘブロンの島影が見えた。
朝日を受けて薔薇色に輝く岸壁は、神々しい雰囲気を漂わせている。
ここから見える東側の海岸のほとんどは切り立った岩壁だが、しばらく島に沿って船を走らせると、やや岩壁が低くなったところの下に白砂の海岸が見えた。
ミゼルたちは、船をそこに付けることにした。海の水は完全に透明で、朝の光が縞を作って海底まで届き、群れて泳ぐ魚が無数に見える。海底の珊瑚礁の上には、よく見ると海老や蟹がおり、その上を透明なクラゲが泳いでいる。そして、海草の赤や緑が美しい。
船の碇を下ろしてミゼルたちは上陸した。海に飛び込むと、海水は温かである。
先頭に立って歩いていたピオが足を止めた。
その指さしたところには、人間の背丈ほどもある巨大な蟹の姿があった。
ミゼルたちはぞっとした。
蟹は、侵入者を察知したのか、岩壁に沿って動き、大きな岩の後ろに姿を隠した。
ミゼルたちは、ほっと息をついた。
海岸からしばらく登っていくと、岩壁の上に出た。そこから、さらになだらかに斜面は続いていたが、島の様子はここからでもだいたい分かる。島は、盾を伏せたような形をしており、岸壁の高さは、およそ十メートルから五十メートル、島の上部は起伏こそあるが、全体がなだらかな丘になっていて、地形は単純だ。それでも、一日で回れる大きさではない。丘の蔭には林も小川もあるようである。そして、風の島の名の通り、島全体を涼しい風が吹き巡り、気持ちがいい。
ミゼルたちを見て、野ウサギや鹿が不思議そうな顔をしているが、逃げることもしない。敵を見たことがないのだろうか。
小川の側で、ミゼルたちは一休みした。草の上に身を横たえて、久しぶりの大地の感触を味わう。川の水を手で掬って飲んでみると、なんとも言えない清涼な味がした。
「破邪の盾は、ヘブロンの神殿にあるという話だが、そのヘブロンの神殿は、人の目には見えないそうだ」
ミゼルは、ピオに言った。
「神殿というくらいだから、大きな物だろう。見えないってことは、何かの魔法がかかってるって事かな」
「多分、そうだろうな」
ミゼルが答えると、メビウスが、
「そうとは限らないよ。地下神殿かもしれんしね」
と言った。
「成る程。だが、入り口くらい見つかりそうなものだ」
ピオが頷きながら言った。
「もしも、これまで何人もの人間が、入り口を見つけきれなかったのなら、それは時間帯の問題じゃないかな」
メビウスの言葉に、ミゼルとピオは不思議そうな顔をした。
「どういう事だ?」
「ある一定時間しか現れない入口さ。さあ、そろそろ船にもどろうぜ」
「おいおい、神殿を探すのはどうする」
「その為に船に戻るんだよ」
狐につままれたような顔で、一行はメビウスに従って船に戻った。
浜辺に停泊していた船の碇を上げ、メビウスは島の周囲に沿って船をしばらく走らせた。
「よく岸壁を見ていろよ。海面との境に空洞があったら知らせるんだ」
メビウスは船を操縦しながら、皆に命令した。
海は干潮になってきていた。
「そうか、干潮の時だけ、洞窟の入り口が海面上に現れるんだ!」
マキルが叫んだ。海についての知識の無いミゼルとピオには、まだ何の事かわからない。
船は、島の西側に来ていた。西に傾いた太陽に照らされて、空洞らしい黒い空間が見えたようにミゼルは思った。
「船を止めてくれ! あそこに入り口みたいなものがある」
それは確かに洞窟の入り口だった。しかし、洞窟の下半分は水没しており、船が入れる大きさではない。仕方なく、ミゼルとピオの二人だけで、洞窟の中に泳いで入ることにした。
六日目の朝、船の前方にヘブロンの島影が見えた。
朝日を受けて薔薇色に輝く岸壁は、神々しい雰囲気を漂わせている。
ここから見える東側の海岸のほとんどは切り立った岩壁だが、しばらく島に沿って船を走らせると、やや岩壁が低くなったところの下に白砂の海岸が見えた。
ミゼルたちは、船をそこに付けることにした。海の水は完全に透明で、朝の光が縞を作って海底まで届き、群れて泳ぐ魚が無数に見える。海底の珊瑚礁の上には、よく見ると海老や蟹がおり、その上を透明なクラゲが泳いでいる。そして、海草の赤や緑が美しい。
船の碇を下ろしてミゼルたちは上陸した。海に飛び込むと、海水は温かである。
先頭に立って歩いていたピオが足を止めた。
その指さしたところには、人間の背丈ほどもある巨大な蟹の姿があった。
ミゼルたちはぞっとした。
蟹は、侵入者を察知したのか、岩壁に沿って動き、大きな岩の後ろに姿を隠した。
ミゼルたちは、ほっと息をついた。
海岸からしばらく登っていくと、岩壁の上に出た。そこから、さらになだらかに斜面は続いていたが、島の様子はここからでもだいたい分かる。島は、盾を伏せたような形をしており、岸壁の高さは、およそ十メートルから五十メートル、島の上部は起伏こそあるが、全体がなだらかな丘になっていて、地形は単純だ。それでも、一日で回れる大きさではない。丘の蔭には林も小川もあるようである。そして、風の島の名の通り、島全体を涼しい風が吹き巡り、気持ちがいい。
ミゼルたちを見て、野ウサギや鹿が不思議そうな顔をしているが、逃げることもしない。敵を見たことがないのだろうか。
小川の側で、ミゼルたちは一休みした。草の上に身を横たえて、久しぶりの大地の感触を味わう。川の水を手で掬って飲んでみると、なんとも言えない清涼な味がした。
「破邪の盾は、ヘブロンの神殿にあるという話だが、そのヘブロンの神殿は、人の目には見えないそうだ」
ミゼルは、ピオに言った。
「神殿というくらいだから、大きな物だろう。見えないってことは、何かの魔法がかかってるって事かな」
「多分、そうだろうな」
ミゼルが答えると、メビウスが、
「そうとは限らないよ。地下神殿かもしれんしね」
と言った。
「成る程。だが、入り口くらい見つかりそうなものだ」
ピオが頷きながら言った。
「もしも、これまで何人もの人間が、入り口を見つけきれなかったのなら、それは時間帯の問題じゃないかな」
メビウスの言葉に、ミゼルとピオは不思議そうな顔をした。
「どういう事だ?」
「ある一定時間しか現れない入口さ。さあ、そろそろ船にもどろうぜ」
「おいおい、神殿を探すのはどうする」
「その為に船に戻るんだよ」
狐につままれたような顔で、一行はメビウスに従って船に戻った。
浜辺に停泊していた船の碇を上げ、メビウスは島の周囲に沿って船をしばらく走らせた。
「よく岸壁を見ていろよ。海面との境に空洞があったら知らせるんだ」
メビウスは船を操縦しながら、皆に命令した。
海は干潮になってきていた。
「そうか、干潮の時だけ、洞窟の入り口が海面上に現れるんだ!」
マキルが叫んだ。海についての知識の無いミゼルとピオには、まだ何の事かわからない。
船は、島の西側に来ていた。西に傾いた太陽に照らされて、空洞らしい黒い空間が見えたようにミゼルは思った。
「船を止めてくれ! あそこに入り口みたいなものがある」
それは確かに洞窟の入り口だった。しかし、洞窟の下半分は水没しており、船が入れる大きさではない。仕方なく、ミゼルとピオの二人だけで、洞窟の中に泳いで入ることにした。
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