第二十六章 大戦略
レントに着いたマルスとジョーイは、早速アンドレに会った。
「やあ、久し振り。マルスもジョーイも元気そうじゃないか」
アンドレは二人の手を固く握り締めた。
「それにしても、マルスはずいぶんでかく、ごっつくなったなあ。肩幅なんか、私の二倍くらいありそうだ」
ボワロンへの旅の間にまた一回り成長したマルスをアンドレは眩しそうに見た。アンドレの風貌は以前と少しも変わっていない。相変わらず、地上に降りた金髪の天使の風情である。
「オズモンドからの手紙に書いてあったが、マルスたちが見たグリセリード軍がボワロンの海岸に到着するまでに、もうあまり時間は無さそうだな。グリセリードへの間者からの報告では、八百隻の大船団が三週間前にグリセリードを出航しているそうだ。おそらく、マルスの推測通りボワロンの海岸で陸上軍と合流するのだろう。ならば、船には十二万人から二十四万人の兵しか乗っていないはずだ。それだけでも大変な数だが。……もし、それが最初からレントを狙ったら、レントの防衛は難しいだろうな。だが、もしも、船がレントを後回しにして、ボワロンからアスカルファンに向かうのなら、私には秘策がある」
「秘策って?」
ジョーイが聞いた。
「実は今、ジョーイの顔を見て思いついたんだ。その策にはジョーイの力が必要になりそうだ」
アンドレはジョーイに微笑んだ。
グリセリード南岸を出たグリセリードの海軍は、慣れぬ船旅で海岸の浅瀬に乗り上げたり、風に流されて互いに衝突したりして八百隻の船のうちの百五十隻ほどを早くも失っていた。そのため、海岸から離れた所を進み、また互いにぶつからないように離れて進んだため、船団としてまとまっているのは三百隻ほどになっていた。残りはばらばらにはぐれたまま、レント方面に向かっているだけである。
「さすがに八百隻の船を揃えて進めるのは難しいな」
船団の司令官、エスカミーリオ将軍は、船の甲板で風に吹かれながら、副官のジャンゴに言った。
「これでは、デロス大将軍に怒られますかな」
「なあに、あいつが船に乗るのを怖がったから、俺が船のお守りをしてやったんだ。あいつには文句を言う権利など無いさ」
「デロス様の方はどうなっているでしょうな」
「楽な陸上行軍だ。敵がいるわけでもないし、十五万人無事に到着しているさ」
「しかし、八百隻でまだ良かったですよ。これが予定通り千五百隻の船を作っていたら、半分くらい沈没していたでしょう」
「まあな。船の操作がこれほど難しいとは思わなかった。前に船に乗った事がある人間がほとんどいないんだから、当たり前と言えば当たり前かもしれんが、軍を二手に分けたのはいい考えだったようだ」
もちろん、この時点でデロスの陸上軍がマルスたちのために戦力を半分に減らしている事をエスカミーリオたちは知らないのである。
アンドレは、テーブルに地図を広げてマルスとジョーイに自分の「秘策」の説明をした。
「アスカルファンとアスカルファン南の大陸の間にはこのように大きな入り海がある。しかし、この入り海への入り口は、見ての通り小さな海峡になっているんだ。ポラポス海峡と言うんだが、船がバルミアに行くにはこの海峡を通らざるを得ない。つまり、我々は陸上からここを通る船を攻撃することができるんだ」
「なあるほど。そこでこのジョーイの頭が必要になるんだな」
ジョーイが嬉しそうに言った。
「そうだ。お前に、陸上から船を攻撃する機械を作って欲しいんだ」
「だけど、時間がないんだろう?」
「今すぐ工兵や職人たちと船に乗って、ポラポス海峡に向かってくれ。これが攻城用の機械の図だ。これを参考にして投石器などを作ってくれないか」
「敵の船の大きさは?」
「二百人規模の大船だ。それが八百隻」
「八百隻では、難しいな。海峡の陸地はどうなっている? 砂浜か、崖か?」
「崖だ。海からの高さは、そうだな、このレントの宮殿の屋根までの二倍ほどある」
「そいつはいいや。近くに材料になる木は生えているか?」
「崖の後ろはずっと林だ。高木も沢山生えている」
「よし、じゃあ、俺は必要な道具と材料を確認して、すぐにポラポスに行く。クアトロも連れて行っていいかい?」
「もちろんだ」
ジョーイが去った後、アンドレはマルスに、グリセリードとの戦争全体の構想を話した。
「一番困るのは、グリセリードの船団に、直接にレントに来られることだ。レントの南岸なら、上陸できる所は限られているから防衛できるが、北部に上陸されたら対策は難しい。北部までレント軍を集結させるだけでも大変だ。だが、幸い、グリセリードの狙いはレントではなくアスカルファンだ。レント上陸はアスカルファンを征服した後だろう。もちろん、レントに上陸された際の作戦も考えているが、それは後で話す。もう一つの問題は、船団がボワロンに行く前にアスカルファンのどこかに上陸したらどうするか、ということだ。……」
レントに着いたマルスとジョーイは、早速アンドレに会った。
「やあ、久し振り。マルスもジョーイも元気そうじゃないか」
アンドレは二人の手を固く握り締めた。
「それにしても、マルスはずいぶんでかく、ごっつくなったなあ。肩幅なんか、私の二倍くらいありそうだ」
ボワロンへの旅の間にまた一回り成長したマルスをアンドレは眩しそうに見た。アンドレの風貌は以前と少しも変わっていない。相変わらず、地上に降りた金髪の天使の風情である。
「オズモンドからの手紙に書いてあったが、マルスたちが見たグリセリード軍がボワロンの海岸に到着するまでに、もうあまり時間は無さそうだな。グリセリードへの間者からの報告では、八百隻の大船団が三週間前にグリセリードを出航しているそうだ。おそらく、マルスの推測通りボワロンの海岸で陸上軍と合流するのだろう。ならば、船には十二万人から二十四万人の兵しか乗っていないはずだ。それだけでも大変な数だが。……もし、それが最初からレントを狙ったら、レントの防衛は難しいだろうな。だが、もしも、船がレントを後回しにして、ボワロンからアスカルファンに向かうのなら、私には秘策がある」
「秘策って?」
ジョーイが聞いた。
「実は今、ジョーイの顔を見て思いついたんだ。その策にはジョーイの力が必要になりそうだ」
アンドレはジョーイに微笑んだ。
グリセリード南岸を出たグリセリードの海軍は、慣れぬ船旅で海岸の浅瀬に乗り上げたり、風に流されて互いに衝突したりして八百隻の船のうちの百五十隻ほどを早くも失っていた。そのため、海岸から離れた所を進み、また互いにぶつからないように離れて進んだため、船団としてまとまっているのは三百隻ほどになっていた。残りはばらばらにはぐれたまま、レント方面に向かっているだけである。
「さすがに八百隻の船を揃えて進めるのは難しいな」
船団の司令官、エスカミーリオ将軍は、船の甲板で風に吹かれながら、副官のジャンゴに言った。
「これでは、デロス大将軍に怒られますかな」
「なあに、あいつが船に乗るのを怖がったから、俺が船のお守りをしてやったんだ。あいつには文句を言う権利など無いさ」
「デロス様の方はどうなっているでしょうな」
「楽な陸上行軍だ。敵がいるわけでもないし、十五万人無事に到着しているさ」
「しかし、八百隻でまだ良かったですよ。これが予定通り千五百隻の船を作っていたら、半分くらい沈没していたでしょう」
「まあな。船の操作がこれほど難しいとは思わなかった。前に船に乗った事がある人間がほとんどいないんだから、当たり前と言えば当たり前かもしれんが、軍を二手に分けたのはいい考えだったようだ」
もちろん、この時点でデロスの陸上軍がマルスたちのために戦力を半分に減らしている事をエスカミーリオたちは知らないのである。
アンドレは、テーブルに地図を広げてマルスとジョーイに自分の「秘策」の説明をした。
「アスカルファンとアスカルファン南の大陸の間にはこのように大きな入り海がある。しかし、この入り海への入り口は、見ての通り小さな海峡になっているんだ。ポラポス海峡と言うんだが、船がバルミアに行くにはこの海峡を通らざるを得ない。つまり、我々は陸上からここを通る船を攻撃することができるんだ」
「なあるほど。そこでこのジョーイの頭が必要になるんだな」
ジョーイが嬉しそうに言った。
「そうだ。お前に、陸上から船を攻撃する機械を作って欲しいんだ」
「だけど、時間がないんだろう?」
「今すぐ工兵や職人たちと船に乗って、ポラポス海峡に向かってくれ。これが攻城用の機械の図だ。これを参考にして投石器などを作ってくれないか」
「敵の船の大きさは?」
「二百人規模の大船だ。それが八百隻」
「八百隻では、難しいな。海峡の陸地はどうなっている? 砂浜か、崖か?」
「崖だ。海からの高さは、そうだな、このレントの宮殿の屋根までの二倍ほどある」
「そいつはいいや。近くに材料になる木は生えているか?」
「崖の後ろはずっと林だ。高木も沢山生えている」
「よし、じゃあ、俺は必要な道具と材料を確認して、すぐにポラポスに行く。クアトロも連れて行っていいかい?」
「もちろんだ」
ジョーイが去った後、アンドレはマルスに、グリセリードとの戦争全体の構想を話した。
「一番困るのは、グリセリードの船団に、直接にレントに来られることだ。レントの南岸なら、上陸できる所は限られているから防衛できるが、北部に上陸されたら対策は難しい。北部までレント軍を集結させるだけでも大変だ。だが、幸い、グリセリードの狙いはレントではなくアスカルファンだ。レント上陸はアスカルファンを征服した後だろう。もちろん、レントに上陸された際の作戦も考えているが、それは後で話す。もう一つの問題は、船団がボワロンに行く前にアスカルファンのどこかに上陸したらどうするか、ということだ。……」
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