第十章 林の中
さて、フリードとマリアとジグムントはビエンテの町を出て、パーリャに向かった。途中、フリードを悩ませたのは、ジグムントが、休憩の度にマリアを近くの林の中に連れて行くことであった。もちろん、それが何を意味するのか、フリードは分かっていた。
満足そうな顔で戻ってくるジグムントと、衣服を乱し、顔を上気させているマリアの顔を見ると、フリードの胸は嫉妬で一杯になった。ならば、自分もマリアにお願いすれば良さそうなものだが、若い男にありがちなプライドのために、フリードにはそれが出来なかった。
ジグムントの方は、そうしたフリードのお上品ぶりを内心では半分憐れみ、半分嘲笑っていた。彼はもはや、恥や外聞、他人の思惑などというものから超越しており、この年でまだ毎日のように性欲があり、マリアという美しい旅の連れ合いに恵まれた事を幸運としていた。まったく、この世に生まれて、しかもこの年になって、マリアのような美少女と寝られる事くらい幸運な事はあるまい。
しかし、パーリャも近くなってくると、フリードの強情も揺らぎ始めた。もうすぐ、この美しいマリアとはお別れなのだ。
ある日の午後、昼飯のために休憩した時、フリードは顔を真っ赤にしながら、マリアに言った。
「マリア、僕と来てくれ」
ジグムントは、(やっと強情を捨てたか)、という顔でフリードを見た。
マリアは、嬉しそうにフリードに頷いて付いて来た。
「もう私の事を嫌いなのかと思ってました」
林の中で、マリアはフリードに言った。
「嫌いなもんか。だって、君はあの爺さんの相手ばかりしているじゃないか」
「だって、あの人も私の恩人ですもの」
これに対して、フリードは言う言葉が無かった。
「君は、誰の相手でもするのか。そんなの……娼婦じゃないか」
「娼婦とは、マグダラのマリアのような人でしょうか。よくわかりませんが、私はただ、恩を受けた人に恩を返そうと思って……」
「だからって、何も、こんな形でなくたって」
「だって、私にほかに何があるのでしょう。フリード様は私を抱きたくないのですか?」
「そうじゃない、僕は……」
フリードには、これ以上論理的な説明はできなかった。自分がマリアと「したい」と白状する事は、まるで自分が動物的な人間であるかのように聞こえるし、「したくない」と言えば嘘になる。
「僕は……あなたを抱きたいのだ。だが、あなたをほかの奴に抱かせたくない」
「そんなの、無理ですわ。私はあの方を嫌いではないし、あの方が私を求めますもの。私を求める人を、どうして拒めるでしょう」
もはや言葉は無駄であった。フリードは、敗北感を抱きながらマリアと性交し、精神は惨めであったが、この上ない絶頂感を感じて肉体は満足したのであった。
林から戻るとジグムントが皮肉な目でフリードを見た。
「満足したようだな。マリアは満足させたか?」
「はあ?」
女を満足させるなどという考えは、フリードの頭にはまったく無かった。いや、一部の上流階級の漁色家などを除いて、この当時の男のほとんどは、女にも性欲があるなどという考えは持っていなかったのである。
「仕様の無い奴だな。女の体に火をつけたままにしとく気か。どれ、この青二才の後始末をわしがつけてやろう」
ジグムントはマリアの手を引いて、林の中に連れて行った。マリアが嬉しそうにその後を付いて行った事が、フリードに屈辱感を与えた。
やがて、林の中からマリアのすすり泣くような声が聞こえてきた。もちろん、快楽の泣き声である。
フリードは石の上に腰を下ろし、両手で耳を塞いだ。
再び戻ってきたマリアは、顔を上気させ、足元がふらふらしていた。
「私、もうあなた達と離れられない。お願い、私をあなた達の端女にでもして、連れていって下さい」
マリアはジグムントにすがりついて、言った。
「それもいいが、まずは両親に会わんとな」
ジグムントは、優しく彼女の髪を撫でながら言った。
昼食の間、フリードは黙りがちであった。なぜ、この若くたくましい自分よりもマリアはこの年寄りを選ぶのか。そこには、自分の知らない秘密の技術がありそうである。
(畜生、俺は力であらゆる美女を手に入れてやる。女に愛されるのではなく、女を奪うのだ)
屈辱感から、普段の善良さにも似合わずフリードはそんな野蛮な事を考えながら昼食を終えた。善人でも、いつでも善人らしく考えるとは限らないものなのである。
こうしたフリードの鬱屈を晴らす機会は、そのすぐ後に訪れた。
さて、フリードとマリアとジグムントはビエンテの町を出て、パーリャに向かった。途中、フリードを悩ませたのは、ジグムントが、休憩の度にマリアを近くの林の中に連れて行くことであった。もちろん、それが何を意味するのか、フリードは分かっていた。
満足そうな顔で戻ってくるジグムントと、衣服を乱し、顔を上気させているマリアの顔を見ると、フリードの胸は嫉妬で一杯になった。ならば、自分もマリアにお願いすれば良さそうなものだが、若い男にありがちなプライドのために、フリードにはそれが出来なかった。
ジグムントの方は、そうしたフリードのお上品ぶりを内心では半分憐れみ、半分嘲笑っていた。彼はもはや、恥や外聞、他人の思惑などというものから超越しており、この年でまだ毎日のように性欲があり、マリアという美しい旅の連れ合いに恵まれた事を幸運としていた。まったく、この世に生まれて、しかもこの年になって、マリアのような美少女と寝られる事くらい幸運な事はあるまい。
しかし、パーリャも近くなってくると、フリードの強情も揺らぎ始めた。もうすぐ、この美しいマリアとはお別れなのだ。
ある日の午後、昼飯のために休憩した時、フリードは顔を真っ赤にしながら、マリアに言った。
「マリア、僕と来てくれ」
ジグムントは、(やっと強情を捨てたか)、という顔でフリードを見た。
マリアは、嬉しそうにフリードに頷いて付いて来た。
「もう私の事を嫌いなのかと思ってました」
林の中で、マリアはフリードに言った。
「嫌いなもんか。だって、君はあの爺さんの相手ばかりしているじゃないか」
「だって、あの人も私の恩人ですもの」
これに対して、フリードは言う言葉が無かった。
「君は、誰の相手でもするのか。そんなの……娼婦じゃないか」
「娼婦とは、マグダラのマリアのような人でしょうか。よくわかりませんが、私はただ、恩を受けた人に恩を返そうと思って……」
「だからって、何も、こんな形でなくたって」
「だって、私にほかに何があるのでしょう。フリード様は私を抱きたくないのですか?」
「そうじゃない、僕は……」
フリードには、これ以上論理的な説明はできなかった。自分がマリアと「したい」と白状する事は、まるで自分が動物的な人間であるかのように聞こえるし、「したくない」と言えば嘘になる。
「僕は……あなたを抱きたいのだ。だが、あなたをほかの奴に抱かせたくない」
「そんなの、無理ですわ。私はあの方を嫌いではないし、あの方が私を求めますもの。私を求める人を、どうして拒めるでしょう」
もはや言葉は無駄であった。フリードは、敗北感を抱きながらマリアと性交し、精神は惨めであったが、この上ない絶頂感を感じて肉体は満足したのであった。
林から戻るとジグムントが皮肉な目でフリードを見た。
「満足したようだな。マリアは満足させたか?」
「はあ?」
女を満足させるなどという考えは、フリードの頭にはまったく無かった。いや、一部の上流階級の漁色家などを除いて、この当時の男のほとんどは、女にも性欲があるなどという考えは持っていなかったのである。
「仕様の無い奴だな。女の体に火をつけたままにしとく気か。どれ、この青二才の後始末をわしがつけてやろう」
ジグムントはマリアの手を引いて、林の中に連れて行った。マリアが嬉しそうにその後を付いて行った事が、フリードに屈辱感を与えた。
やがて、林の中からマリアのすすり泣くような声が聞こえてきた。もちろん、快楽の泣き声である。
フリードは石の上に腰を下ろし、両手で耳を塞いだ。
再び戻ってきたマリアは、顔を上気させ、足元がふらふらしていた。
「私、もうあなた達と離れられない。お願い、私をあなた達の端女にでもして、連れていって下さい」
マリアはジグムントにすがりついて、言った。
「それもいいが、まずは両親に会わんとな」
ジグムントは、優しく彼女の髪を撫でながら言った。
昼食の間、フリードは黙りがちであった。なぜ、この若くたくましい自分よりもマリアはこの年寄りを選ぶのか。そこには、自分の知らない秘密の技術がありそうである。
(畜生、俺は力であらゆる美女を手に入れてやる。女に愛されるのではなく、女を奪うのだ)
屈辱感から、普段の善良さにも似合わずフリードはそんな野蛮な事を考えながら昼食を終えた。善人でも、いつでも善人らしく考えるとは限らないものなのである。
こうしたフリードの鬱屈を晴らす機会は、そのすぐ後に訪れた。
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