第十五章 パトラ王女の救出
「ガレフの奴、こんな所に入り込んでいたのか!」
シェーラ・シェーラが叫んだ。肩口の傷は、ミーズ・ミシュタルの治癒の法術で応急処置が取られ、ふさがりつつある。
「パトラ王女様が中にいるなら、人質に取られて手が出せなくなる。早く行かないと!」
真の言葉に他の者たちは頷いた。
ガレフが逃げ込んだのは、王家の墓所であった。暗い中に永遠の燐光が光り、無数の墓を静かに照らし出している。
「お前たち、それ以上近づいたら、パトラ王女の命は無いぞ」
墓所の奥に進み、ある部屋に入ると、そこにガレフはいた。ガレフだけではない。三人の幻影族の人間がいて、その者たちは、部屋の中央の奇妙な機械を操作していた。その機械の中心の椅子には、長い黒髪以外は真と瓜二つの美少女が、気を失ったまま縛り付けられている。
「パトラ様!」
ロシュタリアの者たちは悲痛な声を上げた。
「もはや、こうなっては、我々の野望は潰えた。おい、神の目を始動させろ!」
ガレフは部下らしい幻影族の三人に命じた。
「ガレフ様?」
「し、しかし、そうすると神の目は暴走しますが?」
「かまわん!」
しかし、ガレフの部下は、スイッチを入れるのをためらっていた。
「おい、ガレフ、あんた何を考えてるんや! この世界を破滅させる気か」
真の言葉にガレフは凄みのある微笑を浮かべた。
「その通りだ。我々幻影族は子孫を増やす手段を持たない。一代に一度の分裂で、自分と同じ個体を残せるだけだ。事故や病気で死ねば、その分だけは減っていくしかない。つまり、我々は最初から破滅を運命づけられた種族なのだ。私は、神の目を動かすことで始原の時間に戻り、我々の運命を変えるつもりだった。それが駄目になった今、全エル・ハザードを道連れに破滅するのも悪くない」
ガレフは部下に向かって頷いたが、部下はまだためらっている。
「ええい、俺がやる。どけい!」
その瞬間が、シェーラ・シェーラの狙っていた瞬間だった。彼女は、ベルトにつけていた短剣を抜き、ガレフめがけてそれを投げた。
短剣は、見事にガレフの胸に突き刺さった。
「ぐあっ!」
ガレフは声を上げて倒れた。
「お前たち、まだやる気か?」
シェーラ・シェーラが言うと、ガレフの部下たちは首を横に振って機械の前を離れた。
真と藤沢は、機械中央の椅子に縛りつけられたパトラ王女を助けだした。
墓所から外に出ると、明るい世界が広がっている。しかし、パトラ王女は麻薬で眠らされているらしく、目を開かなかった。
「パトラ王女様! アレーレ、心配しましたわ!」
パトラ王女が目を覚ますと、その前にはアレーレの心配そうな顔があった。
「おう、アレーレではないか。私は助かったのじゃな」
「はい、この方たちのご活躍で」
パトラ王女はベッドの周りの人々を見たが、ルーン王女、侍従長、親衛隊長、幕僚長、大神官以外に、見慣れない顔が三つある。真、藤沢、ナナミの三人である。
「この者たちは?」
「真様は、パトラ様がいらっしゃらない間、代役を務めていらっしゃったのですよ」
「何と、この私に良く似ておるのう。美しい娘じゃ」
「あのう、僕、男なんやけど」
「な、何い。私の代役に男だと? けしからん、誰がそんな事を許したあ」
麻薬で眠らされている間は、楚々とした美少女だったが、目が醒めたところは案外、何だかなあ、の性格である。
「パトラや、目が醒めたばかりで申し訳ないけど、今、エル・ハザードは危機的状況にあります。神の目を動かさねばならないのです。手伝ってくれますね」
「神の目をですか? それは大変だ」
ルーン王女は、パトラに状況を説明した。
「仕方ありませんな。バグロムたちにこの世界を支配されるよりは、危険でも神の目を動かすしかないでしょう」
「神の目を動かすと、どうなるんです?」
真はルーン王女に聞いてみた。
「人間の精神エネルギーを強大な物質エネルギーに変えて、目指すものを破壊するのです。おそらく、イフリータでもこれにはかなわないでしょう」
「イフリータを破壊するんですか?」
「当然です。そうしなければ、こちらが破滅します」
「でも、イフリータは自分の意志で動いているわけやないんですよ。可哀相や」
「真ちゃん、あんたやたらとイフリータの肩を持つわねえ。やっぱり、本気であの美人の戦争人形に惚れているんじゃないの?」
我慢できなくなって、側からナナミが突っ込む。
「い、いや、僕はただ……」
言いながら、真は、ナナミの言う通りかもしれない、と思っていた。しかし、人間でもないものに恋するなんて、そんなことがあるものだろうか。
「ガレフの奴、こんな所に入り込んでいたのか!」
シェーラ・シェーラが叫んだ。肩口の傷は、ミーズ・ミシュタルの治癒の法術で応急処置が取られ、ふさがりつつある。
「パトラ王女様が中にいるなら、人質に取られて手が出せなくなる。早く行かないと!」
真の言葉に他の者たちは頷いた。
ガレフが逃げ込んだのは、王家の墓所であった。暗い中に永遠の燐光が光り、無数の墓を静かに照らし出している。
「お前たち、それ以上近づいたら、パトラ王女の命は無いぞ」
墓所の奥に進み、ある部屋に入ると、そこにガレフはいた。ガレフだけではない。三人の幻影族の人間がいて、その者たちは、部屋の中央の奇妙な機械を操作していた。その機械の中心の椅子には、長い黒髪以外は真と瓜二つの美少女が、気を失ったまま縛り付けられている。
「パトラ様!」
ロシュタリアの者たちは悲痛な声を上げた。
「もはや、こうなっては、我々の野望は潰えた。おい、神の目を始動させろ!」
ガレフは部下らしい幻影族の三人に命じた。
「ガレフ様?」
「し、しかし、そうすると神の目は暴走しますが?」
「かまわん!」
しかし、ガレフの部下は、スイッチを入れるのをためらっていた。
「おい、ガレフ、あんた何を考えてるんや! この世界を破滅させる気か」
真の言葉にガレフは凄みのある微笑を浮かべた。
「その通りだ。我々幻影族は子孫を増やす手段を持たない。一代に一度の分裂で、自分と同じ個体を残せるだけだ。事故や病気で死ねば、その分だけは減っていくしかない。つまり、我々は最初から破滅を運命づけられた種族なのだ。私は、神の目を動かすことで始原の時間に戻り、我々の運命を変えるつもりだった。それが駄目になった今、全エル・ハザードを道連れに破滅するのも悪くない」
ガレフは部下に向かって頷いたが、部下はまだためらっている。
「ええい、俺がやる。どけい!」
その瞬間が、シェーラ・シェーラの狙っていた瞬間だった。彼女は、ベルトにつけていた短剣を抜き、ガレフめがけてそれを投げた。
短剣は、見事にガレフの胸に突き刺さった。
「ぐあっ!」
ガレフは声を上げて倒れた。
「お前たち、まだやる気か?」
シェーラ・シェーラが言うと、ガレフの部下たちは首を横に振って機械の前を離れた。
真と藤沢は、機械中央の椅子に縛りつけられたパトラ王女を助けだした。
墓所から外に出ると、明るい世界が広がっている。しかし、パトラ王女は麻薬で眠らされているらしく、目を開かなかった。
「パトラ王女様! アレーレ、心配しましたわ!」
パトラ王女が目を覚ますと、その前にはアレーレの心配そうな顔があった。
「おう、アレーレではないか。私は助かったのじゃな」
「はい、この方たちのご活躍で」
パトラ王女はベッドの周りの人々を見たが、ルーン王女、侍従長、親衛隊長、幕僚長、大神官以外に、見慣れない顔が三つある。真、藤沢、ナナミの三人である。
「この者たちは?」
「真様は、パトラ様がいらっしゃらない間、代役を務めていらっしゃったのですよ」
「何と、この私に良く似ておるのう。美しい娘じゃ」
「あのう、僕、男なんやけど」
「な、何い。私の代役に男だと? けしからん、誰がそんな事を許したあ」
麻薬で眠らされている間は、楚々とした美少女だったが、目が醒めたところは案外、何だかなあ、の性格である。
「パトラや、目が醒めたばかりで申し訳ないけど、今、エル・ハザードは危機的状況にあります。神の目を動かさねばならないのです。手伝ってくれますね」
「神の目をですか? それは大変だ」
ルーン王女は、パトラに状況を説明した。
「仕方ありませんな。バグロムたちにこの世界を支配されるよりは、危険でも神の目を動かすしかないでしょう」
「神の目を動かすと、どうなるんです?」
真はルーン王女に聞いてみた。
「人間の精神エネルギーを強大な物質エネルギーに変えて、目指すものを破壊するのです。おそらく、イフリータでもこれにはかなわないでしょう」
「イフリータを破壊するんですか?」
「当然です。そうしなければ、こちらが破滅します」
「でも、イフリータは自分の意志で動いているわけやないんですよ。可哀相や」
「真ちゃん、あんたやたらとイフリータの肩を持つわねえ。やっぱり、本気であの美人の戦争人形に惚れているんじゃないの?」
我慢できなくなって、側からナナミが突っ込む。
「い、いや、僕はただ……」
言いながら、真は、ナナミの言う通りかもしれない、と思っていた。しかし、人間でもないものに恋するなんて、そんなことがあるものだろうか。
PR