第十八章 イフリータの最後
外に出た真を待ち受けていたのは、藤沢、ナナミ、ミーズ、アフラ・マーン、アレーレの五人だった。
「真様あ、いったい、私たちどうなっちゃうんですかあ」
アレーレが心配そうに聞いた。
「大丈夫や。きっと何とかなるて」
アレーレに笑いかけた後、真は藤沢たちに言った。
「先生、ナナミちゃん、僕、神の目に乗り込んで止めてきます。あのままにしておくと、世界中を破壊しかねませんから」
「乗り込むって、お前、大丈夫か?」
「大丈夫です。どうやら、僕はここでは、機械の心が分かる不思議な力があるみたいなんや。多分、神の目を止められるのは、僕だけでしょう」
「なら、仕方ないか……」
「真ちゃん、本当に大丈夫よね。あんたを好きな女の子がたくさんいるんだから、死んだら承知しないわよ」
「大丈夫、大丈夫。じゃあ、アフラさん、すまんけど、神の目の中まで、僕を運んでくれませんか」
「分かりました。あんた、みかけは女みたいやけど、大変な男やな」
上空の神の目は、今や、誰の目にもはっきりと分かる異常な気配を見せていた。まるで、空中放電の実験のような火花があちこちから出ているのである。
「じゃあ、行きますえ。覚悟はよろしゅうおすな」
真は、頷いた。
その時、空中からひらりと降り立ったのは、イフリータであった。
「真、神の目に入るのは、私の仕事だ。私は、もともと神の目と一体となって作られた存在なのだ。だから、神の目のことは私は良く知っている」
「イフリータ! しかし、神の目に入ったら、君は時空の彼方に飛ばされるかもしれんのやで!」
「おそらくそうなるだろう。だから行くのだよ、真。そうして、私はお前に会うのだ。行かせておくれ。そうしなければ、私はお前に会えないのだから。お前に会うために、一万年の彼方へ私は行こう」
「でも、君の体はもうぼろぼろなんや。一万年も、持つんかいな」
「持つさ。きっと私はお前に会うのだから。大丈夫だよ」
イフリータは、手にしていた杖を真に渡した。
「これを、真。これは私の体の一部だ。これを持っていれば離れていても私と交信できる。私が神の目の中に入るまで、これを持っていておくれ」
「でも、これがなきゃあ、君を動かす人がいなくなる」
「私はもう自由なんだ。お前が私にそれを与えてくれた。さようなら、真」
イフリータはふわりと空中に浮かび上がった。そして、神の目の中に吸い込まれるように消えて行った。
イフリータの心は、しかし、真の手の中の杖を通して、真と交信していた。
(「真、お前に会うまでは、私にはたった一つの思い出さえなかった」
「思い出さえ? なら、僕が君にそれを上げよう」
「えっ?」)
イフリータの心には、真の様々な思い出が流れ込んだ。高校の入学式、夏休み、運動会、授業風景、……。そして、その一つ一つの思い出の中の真の側には、高校生となっている美しい、しかし普通の人間であるイフリータの姿があった。
初めてのデート、並んで眺めた夕焼け、秋の爽やかな風の声を聞く二人、
それらは真が作り上げた幻想であっただろう。しかし、イフリータには、それは現実の思い出と同じだった。
イフリータは涙を流していた。
「真、真、ありがとう……」
そして、イフリータの姿は神の目の中枢に消えた。
やがて、一瞬の閃光があり、神の目は再び上昇していった。エル・ハザードは、イフリータの犠牲によって救われたのであった。ロシュタル近郊に迫っていたバグロム軍は、イフリータを失って、自分たちの森に向かって引き上げた。
太陽に輝きながら青空の中に昇っていく神の目をみつめて、真は呟いた。
「イフリータ。いつか、僕は必ず神の目の秘密を解き明かし、君のところへ行こう」
外に出た真を待ち受けていたのは、藤沢、ナナミ、ミーズ、アフラ・マーン、アレーレの五人だった。
「真様あ、いったい、私たちどうなっちゃうんですかあ」
アレーレが心配そうに聞いた。
「大丈夫や。きっと何とかなるて」
アレーレに笑いかけた後、真は藤沢たちに言った。
「先生、ナナミちゃん、僕、神の目に乗り込んで止めてきます。あのままにしておくと、世界中を破壊しかねませんから」
「乗り込むって、お前、大丈夫か?」
「大丈夫です。どうやら、僕はここでは、機械の心が分かる不思議な力があるみたいなんや。多分、神の目を止められるのは、僕だけでしょう」
「なら、仕方ないか……」
「真ちゃん、本当に大丈夫よね。あんたを好きな女の子がたくさんいるんだから、死んだら承知しないわよ」
「大丈夫、大丈夫。じゃあ、アフラさん、すまんけど、神の目の中まで、僕を運んでくれませんか」
「分かりました。あんた、みかけは女みたいやけど、大変な男やな」
上空の神の目は、今や、誰の目にもはっきりと分かる異常な気配を見せていた。まるで、空中放電の実験のような火花があちこちから出ているのである。
「じゃあ、行きますえ。覚悟はよろしゅうおすな」
真は、頷いた。
その時、空中からひらりと降り立ったのは、イフリータであった。
「真、神の目に入るのは、私の仕事だ。私は、もともと神の目と一体となって作られた存在なのだ。だから、神の目のことは私は良く知っている」
「イフリータ! しかし、神の目に入ったら、君は時空の彼方に飛ばされるかもしれんのやで!」
「おそらくそうなるだろう。だから行くのだよ、真。そうして、私はお前に会うのだ。行かせておくれ。そうしなければ、私はお前に会えないのだから。お前に会うために、一万年の彼方へ私は行こう」
「でも、君の体はもうぼろぼろなんや。一万年も、持つんかいな」
「持つさ。きっと私はお前に会うのだから。大丈夫だよ」
イフリータは、手にしていた杖を真に渡した。
「これを、真。これは私の体の一部だ。これを持っていれば離れていても私と交信できる。私が神の目の中に入るまで、これを持っていておくれ」
「でも、これがなきゃあ、君を動かす人がいなくなる」
「私はもう自由なんだ。お前が私にそれを与えてくれた。さようなら、真」
イフリータはふわりと空中に浮かび上がった。そして、神の目の中に吸い込まれるように消えて行った。
イフリータの心は、しかし、真の手の中の杖を通して、真と交信していた。
(「真、お前に会うまでは、私にはたった一つの思い出さえなかった」
「思い出さえ? なら、僕が君にそれを上げよう」
「えっ?」)
イフリータの心には、真の様々な思い出が流れ込んだ。高校の入学式、夏休み、運動会、授業風景、……。そして、その一つ一つの思い出の中の真の側には、高校生となっている美しい、しかし普通の人間であるイフリータの姿があった。
初めてのデート、並んで眺めた夕焼け、秋の爽やかな風の声を聞く二人、
それらは真が作り上げた幻想であっただろう。しかし、イフリータには、それは現実の思い出と同じだった。
イフリータは涙を流していた。
「真、真、ありがとう……」
そして、イフリータの姿は神の目の中枢に消えた。
やがて、一瞬の閃光があり、神の目は再び上昇していった。エル・ハザードは、イフリータの犠牲によって救われたのであった。ロシュタル近郊に迫っていたバグロム軍は、イフリータを失って、自分たちの森に向かって引き上げた。
太陽に輝きながら青空の中に昇っていく神の目をみつめて、真は呟いた。
「イフリータ。いつか、僕は必ず神の目の秘密を解き明かし、君のところへ行こう」
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