第十七章 涙のキッス
真たちがイフリータを連れてロシュタル宮殿に戻った時には、神の目はもはや宮殿の上空百メートルくらいのところまで降りていた。
「何でや! 神の目を動かすのは、今日の正午のはずやったろ!」
真は藤沢を捕まえて問い詰めた。
「うーん、しかし、神の目を動かすには、それに乗り込まんといかんらしいから、早目に動かす必要があったらしいんだ」
「王女たちは?」
「王家の祭壇にいる。面会謝絶だ」
真は、イフリータをベッドに寝かせて、シェーラ・シェーラ、アフラ・マーン、ナナミと一緒に王家の祭壇に向かった。
王家の祭壇の前は数十名の護衛兵で守られていた。
「そこを通してください。大事な用があるんや!」
「真殿、王女たちは今、誰にもお会いできない状態なのです。お引取りください」
「もう、神の目を動かす必要なんかないんです。イフリータはこちらの味方になりましたから」
「イフリータが? まさか」
「時間が無い! ここを通してください」
「できません!」
「真の言うことは本当だぜ。ここを通さないと、大変なことになるんだ」
「シェーラ・シェーラ様の言うことでも、王女のご命令にそむくことはできません」
「仕方ねえ、強行突破だ!」
シェーラ・シェーラは、炎の法術を使う構えをした。
「お待ち、それは危なすぎます」
いつの間に来ていたのか、ミーズ・ミシュタルが背後から声を掛けた。
彼女の呪文とともに、激しい水流が、扉を守っていた衛兵たちを吹っ飛ばした。
「事情は、アフラ・マーンから聞きました。ここは私に任せて、中に行きなさい」
「すまねえ」
真、シェーラ・シェーラの二人は、建物の中に入った。
道は途中で、王家の墓所の方面と、王家の祭壇の方面の二つに分かれる。
「しまった! 王家の祭壇の中には入れねえ」
「なんでや!」
「王家の血を引く者以外には扉が開かないようになっているんだ。どういう仕組みかは俺にも分からねえ」
祭壇のある部屋への扉は、頑丈な金属でできていた。
その中央に、青い宝石がはまっている。
真は、イフリータの眠っていた洞窟の扉のことを思い出した。
真はその青い石に手を触れた。石は光を発し、扉が開き始めた。
「ま、真、おめえ、王家の血を引いていたのか?」
「わかりません。でも、これが僕の能力のようです」
最後の部屋の扉が開いた。
その部屋では、ルーン王女とパトラ王女が、それぞれ黒曜石のような台座に手を置いて、祈っていた。
「何者です! 祈りの邪魔をすると許しませんよ」
足音に気づいて、ルーン王女が二人に顔を向けた。
「王女様、もう神の目は動かす必要はないんです。イフリータは僕らの味方になりました。もう、神の目を動かすのはやめてください」
「嘘じゃ、お前はバグロムの手先にでもなったのであろう!」
パトラ王女が叫んだ。
「いえ、真の言うのは嘘ではありません。私が証人です」
シェーラ・シェーラが大声で言った。
「シェーラ・シェーラがそう言うのなら、本当であろう。パトラ、神の目を動かすのはやめましょう」
「お姉さまがそうおっしゃるのなら」
しぶしぶと頷いて、パトラは台座の上の手を持ち上げようとした。
「手が、手が動かない! 台座から離れない!」
ぎょっと驚いて、ルーン王女は自分の手を離そうとしたが、こちらも動かない。
「駄目です! 神の目を止めることはできません」
真とシェーラ・シェーラは操縦席に上って二人の王女の手を台座から引き離そうとしたが、動かない。
「それじゃあ、神の目に乗り込むというのは、どうなるんだ?」
シェーラ・シェーラが真に聞いた。
「きっと、ここで操縦している人間とは別の人間が乗り込むんやな。よし、僕が乗り込もう」
「真様、それは危険です。神の目は、時空を越える力を持っています。操作を間違えば、あなたご自身が、時空の彼方に飛ばされてしまいます」
ルーン王女の言葉に、真は微笑んだ。
「どうせ、僕らは他の世界から来たんや。これでもとの世界に戻れるかもしれませんて」
「真、お前、ここが良かったんじゃないのかよう」
シェーラ・シェーラは情けない顔で顔一杯に涙を流しながら言った。
「ああ、大好きやで。でも、誰かが行かなきゃあならないなら、それはきっと僕なんや。シェーラ・シェーラさん。楽しかったなあ。これでお別れや」
「真う、行かんでくれよう」
真はその頬に軽くキスして、操縦席の階段を駆け下りた。
シェーラ・シェーラは、その後ろで、床に座り込み、恥も外聞も無く、大声を上げて泣いていた。
真たちがイフリータを連れてロシュタル宮殿に戻った時には、神の目はもはや宮殿の上空百メートルくらいのところまで降りていた。
「何でや! 神の目を動かすのは、今日の正午のはずやったろ!」
真は藤沢を捕まえて問い詰めた。
「うーん、しかし、神の目を動かすには、それに乗り込まんといかんらしいから、早目に動かす必要があったらしいんだ」
「王女たちは?」
「王家の祭壇にいる。面会謝絶だ」
真は、イフリータをベッドに寝かせて、シェーラ・シェーラ、アフラ・マーン、ナナミと一緒に王家の祭壇に向かった。
王家の祭壇の前は数十名の護衛兵で守られていた。
「そこを通してください。大事な用があるんや!」
「真殿、王女たちは今、誰にもお会いできない状態なのです。お引取りください」
「もう、神の目を動かす必要なんかないんです。イフリータはこちらの味方になりましたから」
「イフリータが? まさか」
「時間が無い! ここを通してください」
「できません!」
「真の言うことは本当だぜ。ここを通さないと、大変なことになるんだ」
「シェーラ・シェーラ様の言うことでも、王女のご命令にそむくことはできません」
「仕方ねえ、強行突破だ!」
シェーラ・シェーラは、炎の法術を使う構えをした。
「お待ち、それは危なすぎます」
いつの間に来ていたのか、ミーズ・ミシュタルが背後から声を掛けた。
彼女の呪文とともに、激しい水流が、扉を守っていた衛兵たちを吹っ飛ばした。
「事情は、アフラ・マーンから聞きました。ここは私に任せて、中に行きなさい」
「すまねえ」
真、シェーラ・シェーラの二人は、建物の中に入った。
道は途中で、王家の墓所の方面と、王家の祭壇の方面の二つに分かれる。
「しまった! 王家の祭壇の中には入れねえ」
「なんでや!」
「王家の血を引く者以外には扉が開かないようになっているんだ。どういう仕組みかは俺にも分からねえ」
祭壇のある部屋への扉は、頑丈な金属でできていた。
その中央に、青い宝石がはまっている。
真は、イフリータの眠っていた洞窟の扉のことを思い出した。
真はその青い石に手を触れた。石は光を発し、扉が開き始めた。
「ま、真、おめえ、王家の血を引いていたのか?」
「わかりません。でも、これが僕の能力のようです」
最後の部屋の扉が開いた。
その部屋では、ルーン王女とパトラ王女が、それぞれ黒曜石のような台座に手を置いて、祈っていた。
「何者です! 祈りの邪魔をすると許しませんよ」
足音に気づいて、ルーン王女が二人に顔を向けた。
「王女様、もう神の目は動かす必要はないんです。イフリータは僕らの味方になりました。もう、神の目を動かすのはやめてください」
「嘘じゃ、お前はバグロムの手先にでもなったのであろう!」
パトラ王女が叫んだ。
「いえ、真の言うのは嘘ではありません。私が証人です」
シェーラ・シェーラが大声で言った。
「シェーラ・シェーラがそう言うのなら、本当であろう。パトラ、神の目を動かすのはやめましょう」
「お姉さまがそうおっしゃるのなら」
しぶしぶと頷いて、パトラは台座の上の手を持ち上げようとした。
「手が、手が動かない! 台座から離れない!」
ぎょっと驚いて、ルーン王女は自分の手を離そうとしたが、こちらも動かない。
「駄目です! 神の目を止めることはできません」
真とシェーラ・シェーラは操縦席に上って二人の王女の手を台座から引き離そうとしたが、動かない。
「それじゃあ、神の目に乗り込むというのは、どうなるんだ?」
シェーラ・シェーラが真に聞いた。
「きっと、ここで操縦している人間とは別の人間が乗り込むんやな。よし、僕が乗り込もう」
「真様、それは危険です。神の目は、時空を越える力を持っています。操作を間違えば、あなたご自身が、時空の彼方に飛ばされてしまいます」
ルーン王女の言葉に、真は微笑んだ。
「どうせ、僕らは他の世界から来たんや。これでもとの世界に戻れるかもしれませんて」
「真、お前、ここが良かったんじゃないのかよう」
シェーラ・シェーラは情けない顔で顔一杯に涙を流しながら言った。
「ああ、大好きやで。でも、誰かが行かなきゃあならないなら、それはきっと僕なんや。シェーラ・シェーラさん。楽しかったなあ。これでお別れや」
「真う、行かんでくれよう」
真はその頬に軽くキスして、操縦席の階段を駆け下りた。
シェーラ・シェーラは、その後ろで、床に座り込み、恥も外聞も無く、大声を上げて泣いていた。
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