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我が愛のエル・ハザード 12

第十二章 ナナミとの再会

 地上に激突する寸前にやっとの事で体勢を立て直し、真たちのところに戻ってきたアフラ・マーンは、目の前で見たイフリータの力を真や藤沢に話した。
「悔しいけど、うちらの力ではイフリータには勝てまへん。この国はもう終わりかもしれまへんな」
「何を言ってやがる。むざむざとあんな奴らに降参するつもりか」
 シェーラ・シェーラが怒鳴った。
「そうしなければ皆殺しやろな。とにかく、うちはこのまま飛んでロシュタルに戻り、イフリータがバグロムの手に入ったことを伝えてくるさかい、あんたらもできるだけ早く戻ってや」
 頷く真たちに軽く手を上げて、アフラ・マーンは再び空中に飛び上がり、南の空に消えて行った。
「あいつ、今の戦いで傷ついて、疲れ果てているだろうに……」
 シェーラ・シェーラが呟き、意外そうに見ている他の三人に気づいて、少し顔を赤くし、えへんと咳払いをした。
「まあ、人に弱みを見せるのが嫌いな奴だからな。いいさ、ほっとけば。我々もさっさと戻ろうぜ」
 それから十日ほどかかって真たちは首都ロシュタルに戻ったが、その頃ロシュタルにはエル・ハザード全土から国王や領主たちがエル・ハザードの危機について話し合うために集まってきていた。
「明日、会議が開かれるそうだ。ついては、真殿にもう一度、パトラ王女に変装して会議に出席して貰いたい」
 侍従長のロンズが真に申し出た。彼は、パトラ王女の失踪について知っている数少ない人間のうちの一人である。
「ええーっ。またですかあ。勘弁してくださいよ」
「いや、今回の会議にパトラ王女がいないと、非常にまずいことになりそうなのだ。おそらく、諸侯たち、諸国王たちは、エル・ハザードの危機に際して、神の目を作動させることを要求してくるだろう。バグロムは、今日届けられた降伏要求に対して三日以内に返事が無いと、イフリータにエル・ハザード全土を破壊させると言ってきている。かつては、バグロムとは戦うだけだったが、人間の言葉で要求を出してきたのは初めてだ。どうやら、あちらに人間の参謀がついているらしい。……それで、神の目を作動させるには王家直系の二人の人間が必要だが、パトラ王女が失踪していることを他の国王たちが知ったら、会議がどういう結果になるのか予想もつかんのだ」
 ロンズの言葉に、真は頷くしかなかった。
「陣内の奴め。とんでもないことをしているなあ」
 ロンズが去った後、真は呟いた。
 藤沢の方は、自分たちの部屋で酒を飲んでいて、まったく頼りにならない。まあ、イフリータのあの力を前にしては、たかだか人間数十人分の力の藤沢では何の役にも立たないだろうが。
 廊下の向こう側から、シェーラ・シェーラが歩いてきた。右手に何かを持って、もぐもぐ食いながら歩いているようだ。しかも左手には大きな箱を抱えている。
「おっ、真。いいところで遭ったな。どうだい、お前も食わねえか」
「それどころやないですよ。世界の終わりだってのに、まったく暢気な。あれ? その食べ物」
「ピザってんだ。ナナミの店と言ってな、最近できた店だけど、大人気でさ。行列をしても中々買えなかったんだが、最近の騒ぎで客がいなくなったんで、一っ走り行って買ってきたんだ。これを食わないままで死んだら、この世に恨みを残しそうだからな」
「ナナミの店? ナナミちゃんだ! 」
「おい、真、どうした! 」
 後ろで叫んでいるシェーラ・シェーラを残して、真は王宮から外に走り出た。
 ナナミの店には、確かに行列が無くなっていたが、それでも二、三人の客はいた。
「いらっしゃあい。今、空いてますよお」
 入って来た真に、キッチンから声が掛けられた。その声は真の聞き覚えのある声である。
「ナナミちゃん! やっぱりここに来てたんか」
「あれ? 真ちゃんじゃない。真ちゃんもエル・ハザードに来ていたの? 嬉しい!」
 二人は再会を祝って、抱き合った。
「おい、おめえら、どういう関係だ? 」
 二人の背後から声がした。
 真が振り返ると、シェーラ・シェーラが二人をジト目で睨んでいる。
「ああ、シェーラ・シェーラさん。この子は僕の同級生の、ナナミちゃんや。僕たちと同じ時に、このエル・ハザードに飛ばされたみたいなんや」
「そうかい。じゃあ、仕方ねえな」
 シェーラ・シェーラは、ぷいと去って行った。
「あの人、真ちゃんのこと好きなの?」
「まさか。友達やけどね」
「真ちゃんは、女の子の気持ちには鈍いからねえ。それより、エル・ハザードが滅びるって本当なの?」
「ああ、そうなるかもしれん」
「ええーっ。折角、ここまで稼いできたのにい」
「残念やけど、お店どころやないな。まあ、ナナミちゃんも王宮に来たらええ。その方が安心やろ」
「そうね。真ちゃんのことも心配だし、店はたたむことにするわ」
 ナナミは店の前に「当分休業します」と張り紙をして、真と一緒に王宮に向かった。
 道々、真の語った話で、今回の騒動に自分の兄の克彦が大きくからんでいることを知って、ナナミは怒り狂った。
「あの、馬鹿兄貴! 前からおかしい奴だったけど、完全にイっちゃったのね」
「まるで、子供に爆弾を持たせたようなもんや。イフリータも可哀相に。あんな奴を主人にしたせいで、自分の意志でもないのに、人殺しをさせられるなんて」
「真ちゃん、そのイフリータってのが好きなんじゃない?」
「ま、まさか!」
「真ちゃんって、気持ちがすぐ顔にでちゃうのよね。でも、相手はロボットなんでしょう? 可哀相も何もないんじゃない?」
「いや、それが、イフリータには感情があるらしいんや」
 最初に遭った時のイフリータの涙を思い出しながら、真は小さく言った。
「感情があると見えるようにプログラムされたロボットなんじゃないの? それに、感情があったところで、ロボットとは結婚できないしね」
 真は自分の胸に顔を埋めた時のイフリータの感触を覚えていた。あれは、どうしても人間としか思えない温かで柔らかな感触である。
 仮に、あのイフリータと、自分と陣内が目覚めさせたイフリータが同じなら、自分が初めて出会った時のイフリータは、なぜあのような目で自分を見て、「後は任せたよ」と言ったのだろう。わからない……。

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考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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