警官が案外法律に弱い、というのは何となく分かる。専門家はたいてい素人相手に、専門知識をちらつかせて威圧することを主武器とするもので、実力は案外たいしたことはない「プロ」も多い。
(以下引用)
ならば職質はどこまで認められるのか。
警察法では、職質対象者が職質に応じない場合であっても、判例や学説をもとに、説得や一定の限度の実力行使も認められるケースまたは限界について、説明している。現場の警察官の職質の実態を知るうえでも参考になるので紹介しておこう。
(1)停止、以下は許される
・逃げ出した不審者に質問を継続するため、腕に手をかけて呼び止める。
・逃走しようとした者の前面に立ちふさがる。
・酒気帯び運転の疑いのある者が自動車に乗り込んで発進しようとしたときにエンジンスイッチを切る。
(2)質問、以下は許される
・刑事訴訟法の取り調べではないから、供述拒否権の告知はしない。
・不審点が解明されれば、質問は終了する。
・疑いが強くなった場合、ある程度の実力を使っても、立ち去ろうとする相手を引き止める。
(3)所持品検査
・所持品を提示させ検査することは、実務上職質に付随して、相手の承諾の下に行われている。所持品検査は任意活動として、必要かつ相当な範囲で行うことができる。
・所持品を外部から観察し、質問することは許される。
・承諾なしに着衣や携帯品の外側から手を触れる行為は許容されやすい。
・高度の必要性があるときに限って、承諾なしにバック等を開けることも認められる。
・承諾なしにバック等から所持品を取り出す行為は、必要性、緊急性が一層高度な場合等、極めて限られたときにしか認められない。
(4)同行要求
・実力を用いたときには、身柄の拘束や連行という形態に当たり、違法とされることが多い。
・実力行使は軽くその方向を向かせるといった程度を除き認められない。
・警職法2条の要件を満たしていない同行要求(任意同行)も、相手方が承諾する限り適法である。
(5)凶器捜検
・刑事訴訟法の規定で逮捕されている者についてのみ認められる。
・証拠品の収集のために身体検査を行うときには、差押許可状や身体検査令状が必要だ。
自動車検問はどこまで許されるか
さらに、自動車検問についても、具体的に規定した法律はないとしながら、2つに区分して可能であるとしている。
(1)当該車両について具体的異常を外部から現認できる場合、警職法2条の職質の要件があるから、合図を送って停止を求めることができる。以下の行為は適法である
・自動車の運転席ドアに手をかけて制止する。
・自動車等を用いて追跡し、道路端に誘導停止させる。
・前後からはさみ打ちにして停止させる。
・自動車の窓から手を入れスイッチを切る。
(2)外部から何ら異常が現認できない場合、警職法2条の職質の要件がないものの、以下の条件の範囲で認められる。ただし、応じない車両は不審車両として、職質の要件を満たすことになるから、停止を求めることができる。
・検問実施の相当性があること
・強制にあたらないこと
・相手方の自由意思に基づく任意の協力を求める形で行われること
・相手方に過重な負担をかけるものではないこと
現実には警察OBの筆者でさえ、相当の職質には威圧を感じたことがある。職質を強制と思い込んでいる市民の多くは、警察官の言われるままに対応してしまうに違いない。
そこで、職質は強制手段ではなく、身柄の拘束や強制連行、答弁強要は許されないことをしっかりと理解していただくために、対応の心構えについて説明したい。
任意か確認、手を触れてはいけない
(1)「これは職務質問ですか?任意ですね」と確認する
警察官は、どんなときでも、それが任意であるとは口にしない。こちらから切り出すことで、強引な職質にブレーキをかける。
(2)冷静に対応する。警察官と口論したり、手を触れてはならない
興奮して余計なことを口にすると、警察官はそこを突いてくる。警察官の身体に少しでも触れると、「公務執行妨害」で逮捕する口実を与える。警察官の挑発に乗らないことも大切だ。
(3)警察手帳の提示を求め、警察官の所属・階級・氏名を確認する
警察官はいつも組織に守られて仕事をしている。個人の名前等を知られることを極端に嫌う。警察官は1人になると極端に弱い特性を持つ。
(4)声をかけた理由の説明を求める
意外に警察官は法律に疎い。職質の要件を記憶し理解している警察官は多くない。限界があるとは知っていても、判例などを研究してない。こちらが法律に詳しいことをちらつかせることも効果的である。
(5)所持品検査には応じない
所持品検査に法律上の根拠はない。警察官に所持品を見られるだけで、不愉快になるのであれば、以下を実行するべき。
・バック等を渡さない、開けさせない、探させない、中を見せない。
・ポケット内の物を出さない、手を入れさせない。
・車のトランクやダッシュボードは開けない。
(6)同行要求には応じない。その場で終わらせる
同行要求は、人目があったり、寒暑や風雨のとき、交通の妨害になる場合など、職質を受けている側の都合で許される。警察官の都合や思惑で同行を求めることはできない。警察官は自分の領域に何とかして連れて行きたいもの。求められたら「いや、結構です」と断ろう。
(7)できれば警察官とのやり取りを録音する
今はほとんどの人が録音機能付きのスマートフォンや携帯電話を持っている。その機能を使って警察官とのやり取りを録音する方がよい。警察官はそれを取り上げたり止めさせたりすることはできない。録音は警察署に抗議したり、訴訟のときに役に立つ。
以上である。職質を含め、警察組織や刑事訴訟法の問題については、拙著『警察捜査の正体』(講談社現代新書)に記した。参考にして頂きたい。