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易経 4

4 易の基本要素の意味

 前に書いた八つの基本要素の性質や意味を書いておこう。

① 天:尊位。上。指導的。男性的。乾いていること。明るいこと。剛直さ。父。西北の方角。(陰陽では、すべてが陽)
② 地:低い地位。下。従属的。女性的。湿っていること。暗いこと。柔らかさ。母。西南の方角。(陰陽では、すべてが陰)
③ 雷:意外な事件。驚愕。芽生え。生命活動。エネルギー。動き。長男。東の方角。(陰陽では、上から陰・陰・陽。これは陰の中に陽が生じたという芽生えの象である。)
④ 風:速度。拡散。ニュース。従順。出入り。長女。東南の方角。(陰陽では上から陽・陽・陰。これは陽が優勢な中に、陰が生じた象である。)
⑤ 山:停止。険難。少男。東北の方角。(陰陽では、上から陽・陰・陰。これは陰が力を伸ばして、陽が消えかかる象である。)
⑥ 沢:喜び。言説。慰安。少女。西の方角。(陰陽では、上から陰・陽・陽。これは陽が伸びて、陰が消えようとしている象。表面はしおらしいが内面は陽気な少女に似る。)
⑦ 火:飾り。背く。付く。文化・文明。外面的。中女。南の方角。(陰陽では、上から陽・陰・陽。これは内の陰を外の陽が包む象である。つまり、表面的な華やかさ。)
⑧ 水:艱難。難渋。陥る。中男。北の方角。(陰陽では、上から陰・陽・陰。これは外面は柔弱そのものだが、内に力を秘めている、油断のならない象である。)

 見てのとおり、「山」と「水」には悪い意味がある。他の要素との関係で個々の卦の意味は決まるが、概して「山」や「水」を含む卦にはあまり期待できない。これに理屈をつけるなら、次のようなものだ。ただし、これはあくまで我流の解釈である。

 「山」とは、「高さ」なのだが、天や風や雷ほどには高くはない。山より低い地位にあるのが「地」なのだが、地は自らを低いものとする謙譲の徳と、自分の上にあるものを支えようという援助の徳、どこまでも広がる大きさがあるのに対して、「山」は、本来は地の一部、つまり低位グループに属しながら、自らを高しとする「夜郎自大」的な高さなのである。だから、「山」の卦は良くないのである。そもそも山の高さには限界があるではないか。しかも、山に登ることには、常に落下と遭難の危険性があるのである。山とは、易教の思想からすれば、旅人にとっての障害(前に山があれば、そこで止まるので、山の主意は「停止」である。これは、山自身が動けないという意味もある。)であり、己を高しとする傲慢さであり、分不相応な高い地位なのである。
 現代人の感覚では、「水」は生命に不可欠のものだから、良いものと思うところだが、水の意味するのは「川、雲、氷」などいろいろあり、特に雲は「天を覆い隠す」という意味では邪悪な存在であり、旅人の前に流れる大河は、障害そのものである。もちろん、川で溺れるという不幸もある。また、水には低い位置に落ちていくという性質があり、これも小人の特質である。「低きに就く」わけだ。「天」の持つ、上昇しようという陽性の意志に対して、下降の傾向と、熱気を冷ますという性質があるのだから、「水」の卦は、あまり良くないのである。

 その他の卦の特質も、少し説明しよう。
 「火」にはプラスとマイナスの両面がある。火は明るさであり、「文明」を意味する。文明あるいは文化とは人間が自らの生活を楽しむために作り出した様々な装飾だと言える。しかし、装飾も行き過ぎれば虚飾となり、真実を覆い隠すものとなる。また、火は物を焼き、破壊するという一面もある。そこで、離反の意味も出てくる。さらに、火は次から次へ飛び移り、燃え広がるから、「付く」意味もある。つまり、「離れる」「付く」の二つの面がある。
 「沢」は、単独の水とは異なり、「制御可能な水」である。渇いた旅人にとって、水のある沢は救いであり、慰安である。そこで、沢には「喜び」の意味がある。慰安を与えるものとして、「沢(兌)」には若い女性の意味がある。
 「風」もまた火に似て善悪両義的である。暑熱の時の救いとなるそよ風と、人間に災厄をもたらす大風の二面性が風にはある。風ほど絶えず方向を変え、どんなわずかな隙間からでも入り込むようなものはない。そこで、風は変化や出入の卦である。「風化」や「冷却」なども風の属性である。
 「雷」は人を驚かすわりには実害は少ない。大きな音をたてるところから、驚愕的な出来事の卦となる。また、人間から見れば不可知のエネルギーで、火の一種であるから、生命活動を意味する。(生命の特徴が「体温」という隠れた熱にあることを考えればよい。)
 「天」と「地」の象徴するものは、前のリストを見れば十分だろう。基本的に「天」は指導者、リーダー、君主の徳を持ち、「地」は臣下の徳を持つ。

*「天」は別名「乾」、「地」は別名「坤」と言い、ここから「乾坤一擲」という成語ができている。他の卦にもそれぞれ別称があり、「雷=辰」、「風=巽」、「山=艮」、「沢=兌」、「火=離」、「水=坎」である。これらの卦が上卦、下卦のいずれかにある組み合わせ方によって、たとえば「山地剥」とか「山水蒙」のような卦が作られるのである。

 これらの卦を形成する基本要素が「陽」と「陰」の二要素である。「陽」と「陰」の組み合わせで上記の「天・地・雷・風・山・沢・火・水」が出来るわけだ。「陽」は陽気であり、向日的で明るく、積極的なもの。「陰」は陰気で暗く落ち着いたものである。だからといって、陽気が常に良くて陰気が常に悪いわけでもない。休息の時である夜は、まさに陰の気が支配する時であり、この時に陽気なのは自然に背くことだろう。

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