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天国の鍵 4

その四 見知らぬ国々

「そうだろう。お前たちが考えているということは、そのようにぼんやりとしたものなのだ。そのカエルの体の中まですべて細かく、しかも同時に想像し、そこにあらわれろ、と命令すれば、それはそこに現れる。だが、そんなことは誰にもできぬ。神さま以外にはな」
「ザラストにもできないのですか」
「そうだ」
なあんだ、魔法使いといっても石ころをパンやお金に変えられないんだ。ハンスはがっかりしました。それなら、騎士(きし)にでもなって手柄(てがら)をたてて、お姫様とけっこんしたほうがずっといいや。
「そのほうがいいかもしれんぞ、ハンス」
 またザラストに心を読まれてしまいました。
「だが、石ころをパンやお金に変えることはわしにもできる。見ておけ」
ザラストは机の上の紙をおさえていた小さな重石(おもし)を手にのせて呪文(じゅもん)をとなえました。すると、それはぱっとパンに変わりました。
 ハンスはびっくりしました。
「食べてみろ」
 手にとると、焼きたてのふかふかしたいい匂いのパンです。一口かじると、こんなおいしいパンはこれまで食べたことはありません。
 ……気がつくと、ハンスは石ころを手に持ったまま立っていました。
「こういうのは、ただの目くらましだ。魔法のほとんどはそういうものだが、それでもふつうの人間にとっては危険(きけん)なものだ」
 これなら、やはり魔法を習いたいと思って、ハンスはそれからはまじめに魔法のれんしゅうをしました。そのせいで、軽いものを念力で動かしたり、そよ風をふかせたり、動物と心で話すことはできるようになってきました。
 夏のあついときなど、そよ風をふかせる魔法を知っていると、とてもべんりです。でも、トンボやバッタに命令して動かす魔法は、あまり役に立ちません。せいぜい町の意地(いじ)の悪いおかみさんたちの背中に飛びこませて悲鳴をあげさせるくらいです。動物と心で話すことはできますが、命令するのはかんたんではありません。
「おい、ジルバ、こっちへ来い!」
「いやだね。あんたがこっちへ来な」
こんなぐあいです。
オウムのパロからはいろいろなことを教わりました。なにしろ百年も生きている鳥ですから、あちこちいろんな場所を見ており、いろんなことを知ってます。北の国アルカードの森や湖、雪におおわれた山や氷の川、南の国ボワロンの砂漠や太陽、海をこえた西の島国レントのおだやかで美しい風景(ふうけい)など、ハンスは見てみたくなりました。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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