その一 魔法使いハンス
ハンスは魔法の練習(れんしゅう)をしていましたが、うまくつかえません。お師匠(ししょう)、つまり先生のザラストは何も教えてくれないのです。
落ちてくる木の葉に念力をかけて右に行け、と命令すると左に行くし、左に行け、と命令すると右に行きます。下に行け、というと下に行きますが、これはあたりまえ。
ハンスは十歳です。
生まれた国はアスカルファンという長い名前の国です。地理にくわしい人は、今のヨーロッパぜんたいだと思ってください。そこの真ん中のトエルペンという町に生まれたのですが、両親の顔は知りません。生まれてすぐに教会の前にすてられ、それを見つけたお坊さんに十歳までそだてられました。
十歳になると、鍛冶屋(かじや)さん、いろんな鉄の道具を作る人ですが、その鍛冶屋さんのところではたらかされることになりましたが、ハンスははたらくのが嫌いなので、そこを逃げ出しました。
逃げ出してもお金がないので、何も買うことはできません。
道端(みちばた)でおなかをすかせてすわりこんでいると、通りかかった一人の老人がハンスに声をかけました。
「ハンスよ、どうしたのだ」
ハンスは、この老人がなぜ自分の名前を知っているのだろう、とふしぎに思いましたが、答えました。
「おなかがすいて動けません」
「先のことも考えず、鍛冶屋を飛び出したりするからじゃよ。お前は、その無考えのためにこれからも苦労するぞ」
どうやら老人は自分にお説教か忠告をしているようですが、今のハンスにはちっともありがたくありません。それより、お金でも食べ物でもめぐんでほしいところです。
「金がほしいか。ならあげよう。ほら」
老人は、ハンスの考えていることがわかるようです。老人の手から受け取ったお金は一リム、日本のお金なら千円くらいです。
ハンスは大喜びしました。これまでハンスは五十エキュ、つまり五百円くらいしか手にしたことはないのです。一リムもあれば、三日くらいは生きのびられそうです。でも、その先は?
「ありがとう。でも、おじいさん、なんでぼくの考えていることがわかるの?」
ハンスの言葉に、老人はちょっと間をおいて答えました。
「わしは魔法使いなのじゃよ」
「魔法使い! ならば、ぜひぼくを弟子(でし)にしてください」
弟子とは生徒のことです。
ハンスは魔法の練習(れんしゅう)をしていましたが、うまくつかえません。お師匠(ししょう)、つまり先生のザラストは何も教えてくれないのです。
落ちてくる木の葉に念力をかけて右に行け、と命令すると左に行くし、左に行け、と命令すると右に行きます。下に行け、というと下に行きますが、これはあたりまえ。
ハンスは十歳です。
生まれた国はアスカルファンという長い名前の国です。地理にくわしい人は、今のヨーロッパぜんたいだと思ってください。そこの真ん中のトエルペンという町に生まれたのですが、両親の顔は知りません。生まれてすぐに教会の前にすてられ、それを見つけたお坊さんに十歳までそだてられました。
十歳になると、鍛冶屋(かじや)さん、いろんな鉄の道具を作る人ですが、その鍛冶屋さんのところではたらかされることになりましたが、ハンスははたらくのが嫌いなので、そこを逃げ出しました。
逃げ出してもお金がないので、何も買うことはできません。
道端(みちばた)でおなかをすかせてすわりこんでいると、通りかかった一人の老人がハンスに声をかけました。
「ハンスよ、どうしたのだ」
ハンスは、この老人がなぜ自分の名前を知っているのだろう、とふしぎに思いましたが、答えました。
「おなかがすいて動けません」
「先のことも考えず、鍛冶屋を飛び出したりするからじゃよ。お前は、その無考えのためにこれからも苦労するぞ」
どうやら老人は自分にお説教か忠告をしているようですが、今のハンスにはちっともありがたくありません。それより、お金でも食べ物でもめぐんでほしいところです。
「金がほしいか。ならあげよう。ほら」
老人は、ハンスの考えていることがわかるようです。老人の手から受け取ったお金は一リム、日本のお金なら千円くらいです。
ハンスは大喜びしました。これまでハンスは五十エキュ、つまり五百円くらいしか手にしたことはないのです。一リムもあれば、三日くらいは生きのびられそうです。でも、その先は?
「ありがとう。でも、おじいさん、なんでぼくの考えていることがわかるの?」
ハンスの言葉に、老人はちょっと間をおいて答えました。
「わしは魔法使いなのじゃよ」
「魔法使い! ならば、ぜひぼくを弟子(でし)にしてください」
弟子とは生徒のことです。
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