第五章 晩餐会
ミゼルは御前試合の優勝者として王の晩餐会に招かれた。
「しかし、ミゼル殿ほどの腕前の者が今まで知られていなかったとはな。まあ、その若さでは無理もないことだが」
サムル王は、つくづく感心したように言った。
「もしかして、ミゼル殿は誰か有名な騎士のご子息か」
「父は、マリスと言います。よくは知りませんが、有名な騎士だったようです」
周囲からどよめきの声が上がった。
「何と、あのマリスの子だと! 強いのももっともじゃ」
人々は、互いに言い合っている。
「父は、レハベアムとの戦いで虜になって、まだ生きていると聞きました。ぼくは、父を救うためにレハベアムに行きたいのですが、手段が無いので何とか王にお力添えを頂きたいのです」
「レハベアムに行くだと? それは無謀であろう。ヤラベアムの人間がレハベアムに入れば、すぐに殺されるだろうし、入れたところで、レハベアムの王カリオスを倒さぬかぎり、父を救うことはできまい。そのカリオスは人間の力では倒せぬ魔力を持っておる。王者の剣、破邪の盾、神の鎧兜の三つの武器を身につけた者でないかぎり奴は倒せぬ。その三つの武器は、それぞれ三つの国に分かれて置かれているのじゃ。つまり、お前は世界中を回って三つの武器を手に入れるしかないのじゃよ」
「三つの国とは?」
「このヤラベアムの南、砂漠の果ての火の国アドラム。アドラムの西、海を越えた彼方の風の島ヘブロン。ヘブロンの南西、レハベアムの南にある、密林の島エタムの三つじゃ。砂漠にも、海にもさまざまな怪物や亡霊がうようよいると言う。これまで、三つの聖なる武器を求めてこのヤラベアムの外に出た騎士たちで、生きて戻ってきた者はいない。あきらめたほうがいいぞ」
「父がレハベアムに殺されずにいるのはなぜか、王は御存知ですか?」
「これは噂にすぎぬが、この前の戦いでレハベアムに行く途中、マリスたちは風の島ヘブロンに立ち寄ったそうだ。そこで、何かの力によって彼は不死の体になったという話だ。だから、彼の敵たちも、彼を殺すことはできず、牢獄につないであるだけだという」
ミゼルの顔が明るく輝いた。やはり、父は生きていたのだ。しかも、不死の体ならば、自分が行くまで必ず生きているだろうから、何とかしてレハベアムに行き着きさえすればいいのである。
しかし、ミゼルの有頂天の気分はここまでで、晩餐会の席から退出して、馬を預けてあった王宮の馬小屋に行くと、愛馬ゼフィルは誰かに盗まれてしまっていたのであった。馬番は、ミゼルの代理の者が受け取っていったと言うだけで、押し問答をしても、もはやどうしようもなかった
ミゼルは御前試合の優勝者として王の晩餐会に招かれた。
「しかし、ミゼル殿ほどの腕前の者が今まで知られていなかったとはな。まあ、その若さでは無理もないことだが」
サムル王は、つくづく感心したように言った。
「もしかして、ミゼル殿は誰か有名な騎士のご子息か」
「父は、マリスと言います。よくは知りませんが、有名な騎士だったようです」
周囲からどよめきの声が上がった。
「何と、あのマリスの子だと! 強いのももっともじゃ」
人々は、互いに言い合っている。
「父は、レハベアムとの戦いで虜になって、まだ生きていると聞きました。ぼくは、父を救うためにレハベアムに行きたいのですが、手段が無いので何とか王にお力添えを頂きたいのです」
「レハベアムに行くだと? それは無謀であろう。ヤラベアムの人間がレハベアムに入れば、すぐに殺されるだろうし、入れたところで、レハベアムの王カリオスを倒さぬかぎり、父を救うことはできまい。そのカリオスは人間の力では倒せぬ魔力を持っておる。王者の剣、破邪の盾、神の鎧兜の三つの武器を身につけた者でないかぎり奴は倒せぬ。その三つの武器は、それぞれ三つの国に分かれて置かれているのじゃ。つまり、お前は世界中を回って三つの武器を手に入れるしかないのじゃよ」
「三つの国とは?」
「このヤラベアムの南、砂漠の果ての火の国アドラム。アドラムの西、海を越えた彼方の風の島ヘブロン。ヘブロンの南西、レハベアムの南にある、密林の島エタムの三つじゃ。砂漠にも、海にもさまざまな怪物や亡霊がうようよいると言う。これまで、三つの聖なる武器を求めてこのヤラベアムの外に出た騎士たちで、生きて戻ってきた者はいない。あきらめたほうがいいぞ」
「父がレハベアムに殺されずにいるのはなぜか、王は御存知ですか?」
「これは噂にすぎぬが、この前の戦いでレハベアムに行く途中、マリスたちは風の島ヘブロンに立ち寄ったそうだ。そこで、何かの力によって彼は不死の体になったという話だ。だから、彼の敵たちも、彼を殺すことはできず、牢獄につないであるだけだという」
ミゼルの顔が明るく輝いた。やはり、父は生きていたのだ。しかも、不死の体ならば、自分が行くまで必ず生きているだろうから、何とかしてレハベアムに行き着きさえすればいいのである。
しかし、ミゼルの有頂天の気分はここまでで、晩餐会の席から退出して、馬を預けてあった王宮の馬小屋に行くと、愛馬ゼフィルは誰かに盗まれてしまっていたのであった。馬番は、ミゼルの代理の者が受け取っていったと言うだけで、押し問答をしても、もはやどうしようもなかった
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