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少年騎士ミゼルの遍歴 3

第三章 テッサリア

 翌日、ミゼルはシゼルに別れを告げて旅立った。
 シゼルは、無邪気なミゼルが一人で旅ができるか、まだ危ぶんでいたが、ミゼルの意志は固かった。シゼルは、ミゼルに、家に秘蔵してあった騎士の鎧兜と剣と槍と盾を与え、ミゼルはそれらを他の荷物とともに馬の背中にくくりつけた。
 愛馬ゼフィルにまたがったミゼルの顔は、まだ少年の顔だったが、その目には、目標を持つ者に特有の力強い輝きがあった。
「気をつけていくんだぞ。旅の間、わしの事は気にするな。さらばじゃ」
 家の前で手を振るシゼルに片手を上げて応え、ゼフィルを歩ませていくと、やがて懐かしい我が家は楡の木の生えた丘の向こうに見えなくなった。
 
ミゼルがテッサリアに着いたのは、それから二週間後だった。テッサリアはヤラベアムの首都で、人口はおよそ一万人。当時としては巨大な町だ。町の中心には王宮があり、その東西に離宮と神殿がある。王宮の正面は大広場になっていて市場がある。民家はその市場の裏側全体に密集している。
 ミゼルは物売りの声などで姦しいテッサリアの賑わいに圧倒されながら愛馬ゼフィルを歩ませた。
 そのゼフィルに目をつけて、じっと眺めているのは、口髭を生やした愛嬌のある浅黒い頑丈な顔に大きな口をし、しなやかでバネの利いた体つきの青年である。彼は民家の壁にもたれて口髭をひねりながら独り言を言った。
「いい馬だなあ。こりゃあ、売ったら五千金は下らねえな」
 その側にいる、十五歳くらいで険のある顔の美少年が、青年の脇腹を指でつつく。
「しっ。壁に耳ありですよ、ピオ」
「なあに、この町に、俺を捕まえられるような気の利いた人間はいやしねえよ。おい、ジャコモ、お前、あの田舎者のガキの後をつけて、どこの宿に泊まるか調べておけ。俺は他の仕事をしてからペネローペの店で飲んでるからな」
 どうやら泥棒らしいこの二人の、そんな会話も知らずに、周りをきょろきょろ眺めていたミゼルは、馬を人にぶつけてしまった。
「いてえな。どこ見て歩いてんだよ、このトーヘンボク」
「あっ、済みません」
 ミゼルは慌てて謝った。相手は十七、八歳の少女である。小麦色の肌をした、なかなかの美少女だ。しかし、口は悪い。
「おや、あんた、もしかして東から来たのかい」
「ええ、そうですね。テッサリアからは東になります」
「そうかい。あんたとはまた会うことになりそうだ」
 少女は、先ほどミゼルにぶつかる前に目で追っていた美しい青年騎士の姿を探して人混みの中に消えた。つまり、この少女がミゼルの馬にぶつかったのは、本当は少女がよそ見をしていたからなのであるが、ミゼルはそれには気づかなかった。
 ミゼルは市場の外れに安そうな木賃宿を探して、そこに泊まることにした。ミゼルの後を追っていたジャコモは、それを確認して、酒場に向かった。
 ジャコモを迎えたピオは、すでに酩酊している様子である。
「おう、ジャコモ、おめえ知ってるか。明日の武芸大会にエステル姫も出るそうだ。こりゃあ、俺も出ていいとこ見せなきゃあな。うまくいきゃあ、姫の婿にでもなれんともかぎらん」
「そんなお伽噺みたいな話は、あり得ませんよ。で、あの田舎者の馬はどうするんです」
「馬なんぞ後回しだ。優勝すりゃあ槍で一万金、弓でも二千金だぞ。さあ、お前も飲め。前祝いだ」

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仙人
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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