第二章 父マリスの行方
ミゼルが家に着いた時、窓から明かりが漏れていた。いつもなら、日が沈む時が、ミゼルと祖父シゼルの寝る時である。ミゼルの帰りが遅いのを心配して、シゼルが蝋燭をつけて待っているのだろう。
ミゼルがかついでいた狼を床に下ろすと、シゼルはそれを興味深げに見守った。
「狼か。……ほう、四匹も倒したのか。怪我は無かったか」
「いいえ」
「羊は」
「大丈夫です」
二人はほとんど口をきくこともなく、黙々とパンとチーズだけの食事をした。用が無ければ話などしないのは、いつものことだ。この地方の男たちはたいてい無口である。しかし、今日のシゼルの沈黙は、いつもと少し違うようにミゼルには思われた。
食事の後、シゼルは決心したようにミゼルに声を掛けた。
「ミゼル、お前に話したいことがある。マリス、つまりお前の父親のことだ」
シゼルの話したことは、ミゼルには意外なことだった。ミゼルの父のマリスは生きているばかりでなく、その居場所も分かっているというのである。
「本当なら、わしがすぐにでも探しに行かねばならなかった。しかし、お前の母が病気になり、幼いお前を残して亡くなったため、わしがお前を育てねばならなかったのだ」
シゼルは言葉を切り、長い歳月を思い返すように目を閉じた。
「今日、お前が一人で四匹の狼を倒したことで、わしは幼いと思っていたお前がいつの間にか十分に成長していたことに気がついたのだ。お前が大きくなったら、わしはマリスを探して旅に出ようと思っていた。しかし、わしは年老いた。お前は若くて体も強い。マリスを探す旅には、お前の方が向いているかもしれん。どうだ、行ってみるか」
「行きます。で、父上はどこにいるのですか」
「レハベアムだ。十一年前の戦いの時に捕らえられたまま、レハベアムの牢獄にいるということだ。なぜ、殺されもせず十一年も牢獄にいるのかはわからん。もちろん、レハベアムの牢獄からマリスを救い出すのは不可能に近いが、マリスを一生牢獄に入れておくことは、わしには耐えられんのだ。ミゼル、どうかマリスを救いに行ってくれないか」
シゼルの訴えるような目から涙がこぼれた。
「大丈夫です。ぼくが父上をきっと救い出します」
ミゼルは明るい声で断言した。父が生きていたという事実に興奮し、彼は胸に希望の火が燃えるのを感じていた。
ミゼルが家に着いた時、窓から明かりが漏れていた。いつもなら、日が沈む時が、ミゼルと祖父シゼルの寝る時である。ミゼルの帰りが遅いのを心配して、シゼルが蝋燭をつけて待っているのだろう。
ミゼルがかついでいた狼を床に下ろすと、シゼルはそれを興味深げに見守った。
「狼か。……ほう、四匹も倒したのか。怪我は無かったか」
「いいえ」
「羊は」
「大丈夫です」
二人はほとんど口をきくこともなく、黙々とパンとチーズだけの食事をした。用が無ければ話などしないのは、いつものことだ。この地方の男たちはたいてい無口である。しかし、今日のシゼルの沈黙は、いつもと少し違うようにミゼルには思われた。
食事の後、シゼルは決心したようにミゼルに声を掛けた。
「ミゼル、お前に話したいことがある。マリス、つまりお前の父親のことだ」
シゼルの話したことは、ミゼルには意外なことだった。ミゼルの父のマリスは生きているばかりでなく、その居場所も分かっているというのである。
「本当なら、わしがすぐにでも探しに行かねばならなかった。しかし、お前の母が病気になり、幼いお前を残して亡くなったため、わしがお前を育てねばならなかったのだ」
シゼルは言葉を切り、長い歳月を思い返すように目を閉じた。
「今日、お前が一人で四匹の狼を倒したことで、わしは幼いと思っていたお前がいつの間にか十分に成長していたことに気がついたのだ。お前が大きくなったら、わしはマリスを探して旅に出ようと思っていた。しかし、わしは年老いた。お前は若くて体も強い。マリスを探す旅には、お前の方が向いているかもしれん。どうだ、行ってみるか」
「行きます。で、父上はどこにいるのですか」
「レハベアムだ。十一年前の戦いの時に捕らえられたまま、レハベアムの牢獄にいるということだ。なぜ、殺されもせず十一年も牢獄にいるのかはわからん。もちろん、レハベアムの牢獄からマリスを救い出すのは不可能に近いが、マリスを一生牢獄に入れておくことは、わしには耐えられんのだ。ミゼル、どうかマリスを救いに行ってくれないか」
シゼルの訴えるような目から涙がこぼれた。
「大丈夫です。ぼくが父上をきっと救い出します」
ミゼルは明るい声で断言した。父が生きていたという事実に興奮し、彼は胸に希望の火が燃えるのを感じていた。
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