その二十七 ロドリーゴ
ハンスは、女王の言ったシルベラという名が、アリーナの本当の名前だと直感しました。でも、自分の子供を殺せと命ずる母親がいるでしょうか。女王にそう命ぜられた男もおどろいて女王を見上げました。
「シルベラ様を殺せとおっしゃるのですか?」
男は、七十歳くらいの老人です。身なりは騎士のようです。
「お前の不手際(ふてぎわ、まずいやりかたのこと)のせいでめんどうなことになったのだ。こうなれば、かわいそうだが、あの子を殺すしかなかろう。あの子の存在は世間に知られてはならぬのだ」
「しかし、女王さまにはいまだにほかにお子様はおられぬ身、たった一人のお世継ぎを殺すなどということは……」
「世継ぎ(よつぎ、あとつぎのこと)などいらぬわ。私が死ねば、後はどうなろうとかまわぬ。だれであろうと、この権力(けんりょく、他人や世の中を支配する力のこと)の座(ざ、地位や場所)がほしければ、力で奪(うば)い取ればいいのじゃ」
「ヴァンダロス様がその言葉をお聞きになったら、なげかれますぞ」
「そのヴァンダロスの他の子供たちをみな殺すことで、私はこの地位を手に入れたのだ。そうしなければ、私が殺されていただろうよ」
「しかし、なぜシルベラ様を我が子とお認めにならないのですか」
「もちろん、あの子はカスタネルダの子ではないからだ。夫が死んで六年もたっていたのではな」
「いったい、父親はどなたなのです。ロドリーゴ殿ですか」
「それなら、私はよろこんであの子を娘とみとめていただろうよ。もうよい、お前はさっさとあの子を見つけて殺せば、それでいいのだ」
老臣はふかぶかとおじぎをして立ち去りました。
それと入れかわるように、一人の男が入って来ます。
年齢は六十くらいのようですが、髪も、胸までたらした長いあごひげも黒々としており、頭には金の輪を冠のようにはめています。
「お悩(なや)みのようだな、シルヴィアナ」
女王に向かって、同等の者に対するような口をきくこの男は何者でしょう。
「ロドリーゴか。なんでもない」
「シルヴィアナ、わしに隠し事(かくしごと)は通用(つうよう)せんぞ」
男の言葉に、シルヴィアナはあきらめたように言いました。
「シルベラがエドモンドのところからにげだしたのだ」
女王の言葉に、男は顔色をかえました。
「なんだと?」
ハンスは、女王の言ったシルベラという名が、アリーナの本当の名前だと直感しました。でも、自分の子供を殺せと命ずる母親がいるでしょうか。女王にそう命ぜられた男もおどろいて女王を見上げました。
「シルベラ様を殺せとおっしゃるのですか?」
男は、七十歳くらいの老人です。身なりは騎士のようです。
「お前の不手際(ふてぎわ、まずいやりかたのこと)のせいでめんどうなことになったのだ。こうなれば、かわいそうだが、あの子を殺すしかなかろう。あの子の存在は世間に知られてはならぬのだ」
「しかし、女王さまにはいまだにほかにお子様はおられぬ身、たった一人のお世継ぎを殺すなどということは……」
「世継ぎ(よつぎ、あとつぎのこと)などいらぬわ。私が死ねば、後はどうなろうとかまわぬ。だれであろうと、この権力(けんりょく、他人や世の中を支配する力のこと)の座(ざ、地位や場所)がほしければ、力で奪(うば)い取ればいいのじゃ」
「ヴァンダロス様がその言葉をお聞きになったら、なげかれますぞ」
「そのヴァンダロスの他の子供たちをみな殺すことで、私はこの地位を手に入れたのだ。そうしなければ、私が殺されていただろうよ」
「しかし、なぜシルベラ様を我が子とお認めにならないのですか」
「もちろん、あの子はカスタネルダの子ではないからだ。夫が死んで六年もたっていたのではな」
「いったい、父親はどなたなのです。ロドリーゴ殿ですか」
「それなら、私はよろこんであの子を娘とみとめていただろうよ。もうよい、お前はさっさとあの子を見つけて殺せば、それでいいのだ」
老臣はふかぶかとおじぎをして立ち去りました。
それと入れかわるように、一人の男が入って来ます。
年齢は六十くらいのようですが、髪も、胸までたらした長いあごひげも黒々としており、頭には金の輪を冠のようにはめています。
「お悩(なや)みのようだな、シルヴィアナ」
女王に向かって、同等の者に対するような口をきくこの男は何者でしょう。
「ロドリーゴか。なんでもない」
「シルヴィアナ、わしに隠し事(かくしごと)は通用(つうよう)せんぞ」
男の言葉に、シルヴィアナはあきらめたように言いました。
「シルベラがエドモンドのところからにげだしたのだ」
女王の言葉に、男は顔色をかえました。
「なんだと?」
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