その二十三 ヴァルミラ
「ははは、あんなでかい声で話したら、聞くなというほうが無理(むり)だ」
はっきりとこちらを向いたその客を見て、ピエールとヤクシーは同時に声を上げました。
「ヴァルミラ! なんでこんなところに」
「しっ!」
ヴァルミラと呼ばれた相手は、二人に声を低めるように注意しました。後ろを向いていたときは、身なりから、男だとばかり思ってましたが、女の人です。しかも、大変な美人です。きりりと男っぽい顔立ちですが、日本なら、宝塚の男役みたいな感じで、男にも女にもあこがれられそうなタイプです。ハンスはぼうっとなってその女の人に見とれました。
「その名は言うな。私の名は、ロレンゾということになっている」
「ロレンゾだって? よりによっていやな名を選んだな」
「ほかに思いつかなかったのだ。マルスやピエールよりはグリセリード人らしいしな」
どうやら、この人はマルスのことも知っているようです。そう言えば、マルスのところの赤ちゃんの名前がヴァルミラでした。きっとこの人の名をつけたのでしょう。
「エスカミーリオを殺しにアルカードからここまでやってきたのだが、エスカミーリオは南アルカードの代官になったと聞いて、そこに行くとちゅうだ。あんたたちは?」
「パーリの独立のために、まずグリセリードのようすを調べにきたんだ」
「そうか。エスカミーリオへの復讐(ふくしゅう)が終わったら、あんたたちに協力しよう。どうせ、戦いしか能のない女だ」
「あなたが協力してくれたら百人力、いいえ、千人力よ」
ヤクシーが、ヴァルミラの手を強くにぎって言いました。
ハンスにはさっぱりわけがわかりませんが、この三人が危ないことをたくらんでいることだけはわかります。
その時、三人の話をじっと聞いていたアリーナが、じりじり後ずさりしたかと思うと、ぱっとかけだしました。
「あの子は?」
ヴァルミラがピエールに聞くと、ピエールはとまどうように答えます。
「シルヴィアナ女王の子だと自分では言っているが……。よくわからねえんだ」
「まずい!」
ヴァルミラは疾風(はやて、しっぷう)のように走り出し、五十歩ほど先でアリーナをつかまえました。そのすばやさに他の者はあぜんとしています。
アリーナは、ヴァルミラの手からのがれようとじたばたあばれますが、ヴァルミラががっちりつかまえてにがしません。
「この子が本当に女王の子なら、今の話を聞かれたのはまずかった」
ヴァルミラが、二人に追いついたピエールとヤクシーに、後悔するように言いました。
「ははは、あんなでかい声で話したら、聞くなというほうが無理(むり)だ」
はっきりとこちらを向いたその客を見て、ピエールとヤクシーは同時に声を上げました。
「ヴァルミラ! なんでこんなところに」
「しっ!」
ヴァルミラと呼ばれた相手は、二人に声を低めるように注意しました。後ろを向いていたときは、身なりから、男だとばかり思ってましたが、女の人です。しかも、大変な美人です。きりりと男っぽい顔立ちですが、日本なら、宝塚の男役みたいな感じで、男にも女にもあこがれられそうなタイプです。ハンスはぼうっとなってその女の人に見とれました。
「その名は言うな。私の名は、ロレンゾということになっている」
「ロレンゾだって? よりによっていやな名を選んだな」
「ほかに思いつかなかったのだ。マルスやピエールよりはグリセリード人らしいしな」
どうやら、この人はマルスのことも知っているようです。そう言えば、マルスのところの赤ちゃんの名前がヴァルミラでした。きっとこの人の名をつけたのでしょう。
「エスカミーリオを殺しにアルカードからここまでやってきたのだが、エスカミーリオは南アルカードの代官になったと聞いて、そこに行くとちゅうだ。あんたたちは?」
「パーリの独立のために、まずグリセリードのようすを調べにきたんだ」
「そうか。エスカミーリオへの復讐(ふくしゅう)が終わったら、あんたたちに協力しよう。どうせ、戦いしか能のない女だ」
「あなたが協力してくれたら百人力、いいえ、千人力よ」
ヤクシーが、ヴァルミラの手を強くにぎって言いました。
ハンスにはさっぱりわけがわかりませんが、この三人が危ないことをたくらんでいることだけはわかります。
その時、三人の話をじっと聞いていたアリーナが、じりじり後ずさりしたかと思うと、ぱっとかけだしました。
「あの子は?」
ヴァルミラがピエールに聞くと、ピエールはとまどうように答えます。
「シルヴィアナ女王の子だと自分では言っているが……。よくわからねえんだ」
「まずい!」
ヴァルミラは疾風(はやて、しっぷう)のように走り出し、五十歩ほど先でアリーナをつかまえました。そのすばやさに他の者はあぜんとしています。
アリーナは、ヴァルミラの手からのがれようとじたばたあばれますが、ヴァルミラががっちりつかまえてにがしません。
「この子が本当に女王の子なら、今の話を聞かれたのはまずかった」
ヴァルミラが、二人に追いついたピエールとヤクシーに、後悔するように言いました。
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