第二章 家族愛
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母親はもったいないが騙しよい。 (「柳多留」作者不詳)
私がもっとも好きな川柳です。「もったいないが」という中七にこめられた愛情が、この川柳の笑いを温かなものにしています。かつての笑いには、どこかこのような温かさがあったのですが、現代の笑いはとげとげしく、他者を傷つける笑いがほとんどです。たとえば、教室で、先生が一人の子供のちょっとした癖や欠点を槍玉にあげて冗談を言う。するとクラス全体がどっと笑い、ネタにされた子供も笑う。こうした風景は良く見ます。だが、その時、笑われた人間の心がどれだけ血を流していることでしょうか。いや、こうした現代批判はやめましょう。ただ昔ののどかな笑いの中に溢れる人間愛を感じれば良いのです。
この川柳には意味の解説は不要でしょう。ドラ息子が金に困って母親を騙し、金を手に入れることは、よくあるものです。しかし、騙しながらも「もったいないが」と思う、その部分に、なんとも言えない愛情と優しさがあるのです。
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