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古典の花園5 第一章4

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舞へ舞へかたつぶり。
 舞はぬものならば、馬の子や牛の子に蹴ゑさせてん。踏み破らせてん。
 まことに美しく舞うたらば、華の園まで遊ばせん。(「梁塵秘抄」)

 これは日本のマザーグースと言っていいでしょう。美と残酷とナンセンスが融合した、不思議な感覚がここにはあります。蛇足的な説明をすれば、文末の{~てん。}は、完了の「つ」と意志の「む」の結びついたもので、「~してしまおう。」の意味。舞いを舞わせる対象として、かたつむりほど不適当なものは無いと思いますが、このかたつむりは、舞いを舞わないと馬の子や牛の子に蹴られ、踏み割られることになっています。彼の運命は決まったようなものですが、それでも、奇跡的に、美しく舞ったなら、華の園で遊ばせてくれるというのですから、おそらく彼は必死で舞うことでしょう。詩歌の不思議なところは、ただの仮定として言われたものも、そのイメージは生じるところで、三島由紀夫が「見渡せば花も紅葉もなかりけり。浦の苫屋の秋の夕暮れ」という藤原定家の歌について述べたように、定家のこの歌には、現実には存在しない花や紅葉のイメージが幻想の背景となっています。それと同様に、このかたつむりの謡は、美しく舞うかたつむりのイメージを、読む人、聞く人の心に描き出すでしょう。 

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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