その六十八 神さまの夢
「神ならもちろん知っている。だが、私は神と人間の間にいる者だ。未来を知る力はない。そして、神でさえも、起こったことを変えることはできないのだ。それができるのは、クロキアスというもう一人の神だけだが、クロキアスがその力を使ったことはない」
「では、神は何人もいるのですね」
ハンスが聞くと、天使はにっこりと笑いました。
「いるよ。すべての民族はそれぞれの神がいる。信ずる者のいるところに神は存在するのだ」
「では、神が人間を作ったのではなく、人間が神を作ったのか?」
セイルンが言いました。
「そうとも言えるが、宇宙全体が一つの神でもあるのだ。だから、人間は神によって作られたのだ」
「むずかしくて、よくわからないわ」
アリーナが言うと、天使はこう説明しました。
「まあ、こう考えてごらん。君たちは夢を見ることがあるだろう。その夢を見ているあいだは、それは現実だとしか思っていない。そして、夢からさめれば、それは夢であって、現実とはまったくちがうと思い込む。しかし、夢を見ている間は、それはたしかに一つの現実なのだ。君たちのこの生自体が、神の夢だと考えてもいいのだ。あるいは、夢の結果と言ってもいい」
「見者とは神そのものですか?」
ハンスはたずねました。
「そうとはかぎらない。人間でも、夢に見たことを実現するという意味では、神と同等なのだ。だが、人間は自らを信ずる力に欠けている。そのために、その力はいちじるしく制限されているのだ。さあ、もう行くがいい。お前たち人間の中から、いずれ七つの噴水のある賢者の庭に行き着ける者が現れるだろう。だが、それには長い時間がかかる。人間がみずからの心を探求し、善こそが人間全体の真の利益であり、悪などはその本人にとってすらなんの利益にもならないことを理解したら、そこに地上の天国は現れるのだ。ハンスよ、お前ももう富や魔法のむなしさはわかっただろう。富も魔法も、自分の望むものを容易に手に入れさせるものだ。だが、その容易さこそが人間を堕落(だらく)させるのだ。力をつくして手に入れたものでなければ、本当の価値はわからないものなのだ」
天使はひときわ輝きを増しました。
そのまぶしさに、思わずハンスたちが目を閉じて、もう一度目を開くと、そこは目もくらむようなアトラスト山の山頂でした。つまり、世界のてっぺんです。
目を上げると、一つの光が、あまりに青すぎて暗く感じられるほどの青空の中を遠ざかっていきます。きっと、あれがさきほどの天使でしょう。
「神ならもちろん知っている。だが、私は神と人間の間にいる者だ。未来を知る力はない。そして、神でさえも、起こったことを変えることはできないのだ。それができるのは、クロキアスというもう一人の神だけだが、クロキアスがその力を使ったことはない」
「では、神は何人もいるのですね」
ハンスが聞くと、天使はにっこりと笑いました。
「いるよ。すべての民族はそれぞれの神がいる。信ずる者のいるところに神は存在するのだ」
「では、神が人間を作ったのではなく、人間が神を作ったのか?」
セイルンが言いました。
「そうとも言えるが、宇宙全体が一つの神でもあるのだ。だから、人間は神によって作られたのだ」
「むずかしくて、よくわからないわ」
アリーナが言うと、天使はこう説明しました。
「まあ、こう考えてごらん。君たちは夢を見ることがあるだろう。その夢を見ているあいだは、それは現実だとしか思っていない。そして、夢からさめれば、それは夢であって、現実とはまったくちがうと思い込む。しかし、夢を見ている間は、それはたしかに一つの現実なのだ。君たちのこの生自体が、神の夢だと考えてもいいのだ。あるいは、夢の結果と言ってもいい」
「見者とは神そのものですか?」
ハンスはたずねました。
「そうとはかぎらない。人間でも、夢に見たことを実現するという意味では、神と同等なのだ。だが、人間は自らを信ずる力に欠けている。そのために、その力はいちじるしく制限されているのだ。さあ、もう行くがいい。お前たち人間の中から、いずれ七つの噴水のある賢者の庭に行き着ける者が現れるだろう。だが、それには長い時間がかかる。人間がみずからの心を探求し、善こそが人間全体の真の利益であり、悪などはその本人にとってすらなんの利益にもならないことを理解したら、そこに地上の天国は現れるのだ。ハンスよ、お前ももう富や魔法のむなしさはわかっただろう。富も魔法も、自分の望むものを容易に手に入れさせるものだ。だが、その容易さこそが人間を堕落(だらく)させるのだ。力をつくして手に入れたものでなければ、本当の価値はわからないものなのだ」
天使はひときわ輝きを増しました。
そのまぶしさに、思わずハンスたちが目を閉じて、もう一度目を開くと、そこは目もくらむようなアトラスト山の山頂でした。つまり、世界のてっぺんです。
目を上げると、一つの光が、あまりに青すぎて暗く感じられるほどの青空の中を遠ざかっていきます。きっと、あれがさきほどの天使でしょう。
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