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天国の鍵69

その六十九 二万メートルのダイビング

 ハンスとチャックは、空中浮遊の術を使って、山頂から飛び下りました。ハンスはアリーナを、チャックはセイルンを抱えています。(ここは、あまりに高すぎて、雲すら存在しないのです。空気はわずかにあります。科学的に言えばまちがいかもしれませんけどね)
 空中浮遊と言っても、しばらくはただ落ちているだけですから、いわばスカイダイビングですね。高度二万メートルからのスカイダイビングです。やってみたいですか? 平均時速百キロでも十二分かかりますから、たっぷり楽しめそうです。でも、本当にやったら、重力加速度のために途中から大変なスピードになって、ロケットの地上突入みたいに、空気摩擦で燃えてしまうでしょうね。
 ハンスとチャックは科学など知りませんから(実は作者もですけど)加速度も空気摩擦も関係ありません。なにしろ魔法の世界ですからね。途中からは空中浮遊の術で、落ちるスピードをゆるめて、のんびりと下降していきます。そして、雲のあるところまで来たら、セイルンは口笛を吹いて雲を呼びました。
「ちぇっ、悪魔なんかの助けを借りてしまった」
雲に四人が乗った後で、セイルンはいまいましそうに言います。
「結局、天国の中には入れなかったわね」
アリーナが言いました。
「うん、でも、いろんなことを知ったから、ここまで来てよかったよ」
ハンスは答えました。じっさい、この旅のあいだにハンスが得た物は、魔法だけではありません。アリーナやピエールたちとの出会い、五人の賢者や魔法使いとの出会い、そして、自分の中に生まれた知恵や勇気、それこそがこの旅で得た本当の宝でしょう。
「じゃあ、ぼくはここでお別れするよ。いつか人間が本当の善に目覚めるまでは、ぼくはこの世の大きな一要素でいられるわけだ」
チャックが三人からはなれて、ふわりと浮かび上がりました。
「あまり悪い事はするなよ。君とは敵になりたくないからな」
ハンスが言うと、チャックはにやっと笑って、すばやく体をアリーナに近づけ、そのほほにキスしました。アリーナはびっくりして顔を赤くしました。
「いずれまた会おう」
そう言ってチャックは手を振り、そのまま飛んで行きました。
「もうすぐカザフだ。君たちを下ろしたら、ぼくもグリセリードに帰ろう」
セイルンが言いました。アトラスト山からはアスカルファン側に飛び下りたのです。
 カザフの村が見えます。いつの間にか世の中はすっかり春になっていたらしく、ぽかぽかと暖かく、山村のカザフののどかで美しい風景が、なんだかひじょうに懐かしいものに思えます。セイルンは、ハンスとアリーナをマルスの家の前に下ろしました。
「じゃあな。戦が終わったら、そのうちまたグリセリードに遊びに来な」

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HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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