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天国の鍵66

その六十六 天使のテスト

「天国の鍵とは、見者の夢の中にしか存在しないものなのだ。お前の持っているこの指輪は、太古の神々を呼び出す力を持つ不思議な指輪だが、天国の鍵ではない。それに、お前の持っているもう一つの指輪は、悪魔をも従わせる恐ろしい力を持った、ダイモンの指輪だ。そのどちらか一つでも持っていたら、お前は地上すべてを支配する大王になれる。もしもお前が地上をそのまま天国にしたいのであれば、この二つの指輪で地上をお前の好きなように作り変えればよいではないか」
 天使の言葉に、ハンスは考えこんでしまいました。その時、ハンスの心に浮かんでいたのは、ソクラトンの部屋で見た、あの印です。あの印は、永遠の未完成としての人間を表していたはずです。ハンスは自分自身をふりかえってみました。そして、これを読んでいるみなさんなら、思わずハンスに向かって、「この間抜け!」と言いたくなるような返事をしました。
「この指輪は二つともお返しします。一人の、ふつうの人間がそんな力を持てば、その人自身が大魔王になってしまうでしょう。この指輪は、人間が持つべきものではありません」
天使は、その返事を聞いて、にっこり笑いました。
「お前は正しい答えをした。たいていの人間なら、この誘惑(ゆうわく)に負けて、私の提案を受け入れただろう。その場合、その者は、永遠に地獄に落とされることになっていたのだ。お前は、自分自身を知るという、最高の課題を克服したのだ」
この言葉に、思わずチャックが、問い詰めるように口を出しました。
「天使のくせに、嘘をついたのか?」
「おや、お前は悪魔の一族ではないか。嘘ではない。私の言った事をたしかめるがよい。私は、この指輪の力を話し、ハンスに、この指輪を使ってみろとすすめただけだ。そうすればどうなるとは言わなかったはずだ」
「ちえっ。天使ってのがソフィストだとは知らなかったぜ」
と言ったのはセイルンです。ソフィストとは、哲学者の一派で、口先たくみに相手をだますような議論をする人たちです。
「お前も、竜のくせに人間の世界で暮らして、人間のような考え方をするようになったようだな、セイルン」
天使はセイルンを見て、にっこり笑いました。
「では、天国には入れてもらえないのですか」
ハンスはがっかりして言いました。
「そうだ。だが、ここまでやってきたお前たちの努力には報いてやろう。こちらにきなさい」
 天使は後ろを向いて歩き出しました。
 ハンスたちは、その後をついて行きました。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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