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天国の鍵71

その七十一 話は終わるが、問題は終わらない

「そうよ。だからうちの子供の名前はそれにあやかってオズモンドなの」
マチルダの言葉に、ハンスとアリーナは顔を見合わせました。いったいどうして、国を救った英雄と、国王の妹が、こんな片田舎で、だれからも知られず暮らしているのでしょうか。ロレンゾのさっきの話だけではまだまだよくわかりません。
「いずれその話は、『軍神マルス』という本になるから、それまで待ちなさい。お説教の多い『魔法使いハンス』とはちがって、血湧き肉踊る冒険の本じゃよ」
 ロレンゾはみょうな事を言ってます。なにかの宣伝でしょうか。
「それで、ハンス、この旅はお前の役に立ったかな」
ザラストがハンスに言いました。
「はい、とても勉強になりました。でも、正直言って、善と悪の意味についてはまだよくわかりません」
「それでいい。大事なのは、自分が正しいと思う事を行い、まちがったらすぐに改めて、二度と同じあやまちをしないことだ。そして、先人たちの言葉から多くを学ぶことだ。そうすれば、魔法など使わなくても、人間は自分を幸福にできるのだ。お前は、これからはふつうの人間として生きるがいい」
 ハンスはちょっと考えてしまいました。だって、苦労して身に付けた魔法を捨てるなんてもったいないですからね。
「魔法の力を捨てろとは言っていない。なるべく使うな、ということだ。魔法使いよりも賢者になるがよい。しかし、頭脳を過信して、自然をわすれてはならんぞ。昔、ファウストという博士がいて、あらゆるものを知り尽くして、それでも少しも幸福にはなれなかったと嘆いたことがある。真の賢者は、知識ではなく、知恵を求めるものだ。お前はすでに賢者の見習いにはなった。いまさら、自らの欲望だけのために魔力を求める愚かな魔法使いになってはならん」
「ザラストにしてはいい説教だ。わしも、魔法などほとんど忘れてしまった」
とロレンゾが口をはさみました。だから自分は真の賢者だ、と言いたいのでしょうか。

 さて、これで魔法使いハンスの話はおしまいです。アリーナはマルスの家で好きな動物たちと遊んだり、子供の子守りをしたりしながら楽しく暮らしています。ハンスもマルスの家で農作業の手伝いをしていますが、そのうちまたソクラトンやブッダルタのところに行って、七つの噴水のある賢者の庭をさがそうと思っています。
 もうすぐグリセリードの戦争も終わるでしょう。ピエールやヤクシーやヴァルミラが無事でいればいいのですが、たとえ戦争が終わっても、人間が自分たちのちっぽけな欲望でこの世を動かそうとするかぎり、地上の天国が現れるのは、まだまだ先のことになりそうです。でも、それを作るのは、もしかしたらあなたかもしれません。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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