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天国の鍵63

その六十三 二つの道

 ハンスたちは洞窟の中を進んでいきました。洞窟の中は薄暗いのですが、まったくの暗闇でもありません。壁自体が、燐光(りんこう)のようなかすかな光を放ってます。
 やがて、洞窟は二つの道に分かれました。
「どこに行こう」
チャックが言いました。
「どこでもいいさ。まちがえたら、ここにもどればいい」
セイルンの言葉に、ハンスたちもうなずきました。ハンスは右の道を選びました。
 どんどん進んで行くと、なんだかまわりが暖かくなってきました。
「暖かくなってきたわね」
アリーナが、ほっとしたように言いました。
「でも、この道は、下に下りているみたいな気がするわ」
「そういえば、そうだな」
ハンスはちょっと不安な気になりました。せっかくここまで上って来たのに、また下がるのはなんだか面白くありません。
 どれほど歩いたでしょうか。やがて前方に明かりが見えました。それも、かなりな明るさです。
 四人は喜んで、足を速めました。
 外に出ました。
 そこは、なんと、明るい緑の平野です。まわりは高い山々にかこまれており、平野の真ん中にはきらきらと輝く美しい河が流れています。でも、どうして、アトラスト山の八合目から、こんなところに出たのでしょう。
 ハンスたちは、地上に出られたうれしさで、野原を走って、河のそばに行きました。日ざしは暖かな春の日差しで、草木のいい匂いがあたりにはただよっています。
 ハンスたちは河岸から河の流れをのぞきこみました。なんと透明で美しい流れでしょう。でも、それだけではありません。河の底はすべてダイヤモンドやサファイアやルビー、エメラルド、水晶などの宝石と黄金なのです。
 ハンスたちがおどろいていると、その時どこからともなく一つの声がハンスの耳に聞こえました。
「ハンスよ。よくここまで来た。だが、この先は人間には許されぬ世界だ。お前がここで引き返すなら、お前には、ここにある宝を欲しいだけやろう。何度でもここに来て、好きなだけ持っていくがいい。だが、お前が洞窟に戻って、左の道を選ぶなら、お前は人間の世界とは永遠に別れねばならない」
 ハンスは周りを見回しました。でも、他の人には、今の声は聞こえていないようです。
 ハンスはアリーナの顔を見つめて、じっと考えました。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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