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軍神マルス第二部 32

第三十二章 小休止

「あれはマルシアスか? ちゃんと働いているではないか」
エスカミーリオは船の上から海岸での戦闘を見ながら言った。
「はあ、そのようです。やはり、勇猛さではグリセリードでも一、二と言われた勇者ですからな」
ジャンゴが言う。
「ふむ、デロスの腰巾着かと思っていたが、使える男のようだな」
「ヴァルミラ様が使えないのは残念ですな」
「仕方あるまい。放せば、アスカルファン軍に向かうより、まずこの俺を殺しに来るさ」
エスカミーリオは片頬をゆがめて苦笑した。
 陸上の戦闘は終わろうとしていた。千人のアスカルファン軍は、ほぼ全滅である。
「西に上陸したラミレスの軍と、バルミアを攻めたアルディンの軍はうまくやっているかな」
 エスカミーリオは上陸の準備をしながら言った。
「アスカルファンの主力軍は、いったんここへ引き付けられてからバルミアへ戻って行きましたから大丈夫でしょう」
「後は、アルカードからの援軍が来るのを待つだけだな」
「それと、ボワロンからの後続軍ですな」
「一度兵を下ろせば、何度でも戻って兵を乗せてくればいいだけだ。デロスめは一度の輸送だけの兵力しか考えてなかったが、なあに、多少時間はかかるが、ここで持ちこたえていれば、こちらは数がどんどん増える、向こうは数が限られているということだ」
「まったくその通りで」
エスカミーリオはいったん兵を収めて、バルミアへの偵察兵を出した。

バルミアでの戦闘の間、ピエールはヤクシーと共に、宿屋の二階に寝転がっていた。
「こういう時は泥棒の稼ぎどころじゃないの?」
ヤクシーがからかうように言った。
「火事場泥棒ってのは性に合わねえ。それに、ピラミッドに、一生かかっても使い切れねえ宝を隠しているんだ。小さい仕事はもうやらねえよ」
「こうしているのも退屈だから、ちょっと外に出てみない?」
「よしとけよ。好奇心は猫を殺すって言うぜ。女って奴はつまらん好奇心が多すぎる」
「臆病者!」
「何を!」
ヤクシーに挑発されて、ピエールもしぶしぶ外に出た。
町は戦闘がおさまったらしく、ひっそりとしているが、街路には死体があちこちに転がっている。そのほとんどはマルスに射殺されたグリセリードの兵士である。
「マルスたちはどうしているかな」
死体に突き立った矢を見てマルスを思い出したピエールが言った。
「あらっ」
ヤクシーが足を止めた。
「どうした?」
ピエールが聞くのに答えず、ヤクシーは駆け出した。
ピエールがヤクシーに追いついた時、ヤクシーは、町の四つ角であたりをきょろきょろ見回していた。
「一体どうしたんだよ」
「知った顔を見たの。パーリの人間よ」
「パーリの人間だって? そいつは珍しいな」
「ほら、イライジャの弟子のオマーよ。彼に良く似た顔だったの。服装はアスカルファン風だったけど」
「ほう、妙だな。もしかしたら、ボワロンとパーリの戦争のずっと前からここにいたんじゃないか?」
「かもしれないわ。私はダムカルには数年行っていなかったから、オマーの消息は知らないの」
「で、そいつを見失ったんだな」
「そう。まるで消えてしまったみたい」
 二人はその近辺を探したが、オマーはやはり見つからなかった。

宮殿での戦闘はあっけなく終わった。
宮殿まで迫った敵兵の数は僅か数百人であり、国王の近衛兵だけでも十分に持ちこたえられた。そこにオズモンド率いる親衛隊五百人が救援に来たのだから、形勢は完全にアスカルファンに有利になった。白兵戦に勝るグリセリード軍も、数の不利によって圧倒され、やがて全滅したのであった。
戦闘の終結を見届けたマルスは、戦後処理の仕事に追われるオズモンドを残し、マチルダらの元に戻った。
 この戦闘でのマルスの神がかった働きの噂はローラン家にも届いていた。
 不安な思いでマルスの帰りを待っていたマチルダたちは、マルスの顔を見て飛びついてきた。
「マルス! 無事だったのね」
「怪我が無くて良かったわ」
マチルダ、トリスターナが口々に言う。ジーナもその後ろで笑顔を見せていた。
彼女たちの顔を見れば、自分のあの大殺戮も正しい行為だったとマルスには思われた。

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酔生夢人
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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