なお、体の異常や身体各部の衰弱は食生活の中に、ある種の栄養分、ビタミンが不足していることから起こることが多いと私は考えている。現在のように野菜・果物価格高騰から起こるのはビタミンCの不足だろう。もともと、ビタミンの大半は水溶性で、つまり調理過程で無くなることが多いので、サプリで接取するのが簡便で確実だと思う。白内障がビタミンC不足と関係があるという意外な話もある。医者から白内障で5年以内に失明確実だと言われた某教授はビタミンC注射で自力で治し、95歳まで矍鑠としていたという話もある。まあ、静脈注射は素人には危険な作業だろうから、普通に食べ物やサプリで摂取すれば十分だろう。
(以下引用)
一昔前までは、「高齢者は食べられるだけで十分である。肉はあまり食べないほうがいい」といわれていたが、現在は肉を食べることが推奨されている。90歳を迎えた今も現役医師として週4日高齢者施設で働いている折茂肇医師は、「好きなものを食べる」がモットーで、とくに肉が好きだという。
折茂医師は、東京大学医学部老年病学教室の元教授で、日本老年医学会理事長を務めていた老年医学の第一人者。自立した高齢者として日々を生き生きと過ごすための一助になればと、自身の経験を交えながら快く老いる方法を紹介した著書『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)を発刊した。同書から一部抜粋してお届けする(第8回)。
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肉を食べることが健康にいいデータを紹介しよう。
食生活が高齢者の健康を維持する上で重要なことはすでに知られていると思うが、なかでも血清中のアルブミン値と総コレステロール値が高齢者の栄養状態を示す指標として極めて重要だ。ごく簡単に言うと、アルブミン値はたんぱく質の摂取量を、総コレステロール値は脂肪の摂取量を反映したものである。
東京都小金井市の70 歳以上の在宅高齢者について10年間という長期にわたってこれらの値を調査した結果、血清アルブミン値が高い人ほど、10年生存率が上昇することがわかった(*1)。
また、約600人の在宅高齢者の食生活と生活機能の関連について2年間の追跡調査をした結果、「肉類・牛乳・油脂類をよく食べる習慣」の人は、「ご飯・漬物・みそ汁をよく食べる習慣」の人に比べて生活機能が高く保たれている(自立性を低下させる危険率が低い)ことがわかった(*2)。
これらのデータは、高齢期の健康を維持するためには、食生活において肉類・牛乳・油脂類をとることがいかに重要であるかを示している。
肉を食べられるかどうかは、健康のバロメーターの一つになるのではないだろうか。
■食事は細かいことを気にせず「好きなものを食べる」
さて、これまで老年医学の立場から高齢者の食事についてみてきたが、ここから食事に対する私の見解に関して述べておきたい。私は、「好きなものを食べるのがいい」と考えている。
私自身は食べることがなにより大好きで、とくに肉が好きだ。それほど多くの量を食べるわけではなく、ステーキならせいぜい200g ぐらいだ。もともと肉が好きだったので、肉が健康にいいとわかって食べているわけではない。
食べる楽しみは、人間にとってすごく大事なものだ。私の性格上、「どの栄養素はどれくらい」「糖質は何g まで」「塩分は何g 以内」などと細かいことを言われたら食欲がなくなってしまう。日々、食事をおいしくとるために働き、食欲が自然にわいてくるようにしたいと思っている。無理して食べるようになることほど、悲しいことはない。だから、私は、細かいことは気にせず、食べたいものを食べている。ただ、食べすぎはよくないと思うので、腹八分目にするようにはしている。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」ともいわれるので、食べすぎないように、ほどほどを心がけている。
私は糖尿病があるが、食事の糖質制限などはしておらず、血糖値もあまり気にしていない。基本的には、ここまで述べてきた理由によるところが大きいが、もう少し医学的な理由を紹介しておく。一つは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病は75歳を境にその基準が緩くなる。75歳以上になると、心臓や血管の病気による死亡リスクが軽度になる。
もう一つは、糖尿病においては治療薬により血糖値を下げすぎることに起因する低血糖の問題も指摘されている。低血糖によりめまい、ふらつきなどの症状が起き、転倒につながるのだ。
国立長寿医療研究センターの調査では、高齢糖尿病患者さん300人を対象に転倒あり群94人、転倒なし群206人の転倒要因を検討した結果、転倒と有意な関連性がある項目として、年齢と低血糖が抽出された(*3)。転倒が高齢者にとっていかに危険かは別途述べるが、加齢とともに血糖値が高くなること自体は自然なことで、低血糖のほうが問題なのだ。
*1 柴田博編著:中高年の疾病と栄養 建帛社 1996
*2 熊谷修ほか:老年社会科学16:146-155 1995
*3 サブレ森田さゆりほか:日本転倒予防学会誌1:37-43 2014
※『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)から一部抜粋
≪著者プロフィール≫
折茂肇(おりも・はじめ)
公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。