第三節 ロシア連邦
首都モスクワ 人口1億4723万人 人口密度9人/平方キロ
① 国土、地形、気候
世界最大の国で、日本の45倍の面積がある。東側は中央シベリア平原から西シベリア低地に続き、ウラル山脈を境に首都モスクワを含む東ヨーロッパ平原が広がる。さらにその西はフィンランドなどの北欧諸国や、白ロシア、ウクライナを挟んでポーランド、ルーマニアなどに接している。東ヨーロッパ平原の南は黒海やカスピ海を挟んでトルコ、イラン、アフガニスタンにつながる。一般に寒冷な気候で、モスクワは年平均気温が4.9度C、もっとも暑い7月でも平均気温は18.2度Cでしかなく、1月の平均気温は-9.2度Cである。
② 略史
862年のスウェーデン・バイキングの侵略でできたノブドロゴ公国がロシアの起源という。13世紀にはモンゴルの侵攻でキプチャク汗国の支配下に入る。16世紀、イワン雷帝がツァーを名乗り、専制政治を行なう。1613年に始まるロマノフ朝は、1917年の三月革命で終わる。22年、世界初の社会主義国家が生まれる。レーニンの死後、独裁体制を固めたスターリンは、計画経済で後進国ソ連をアメリカと並ぶ経済大国にするが、その一方で反対者たちを粛清し、恐怖政治を行なう。やがて経済活動が複雑化するにつれて、計画経済は現場から遊離した不合理なものとなり、官僚主義の弊害もあってブレジネフの時代からソ連の生産活動は低下し、ゴルバチョフの時代にさまざまな改革が行なわれるが、どれも功を奏さず、1991年、ソビエト連邦は解体し、ゆるやかな国家連合体である独立国家共同体(CIS)が発足し、ロシア連邦がその中心となる。現在の大統領プーチンは、もとKGB(ソ連の秘密情報局)出身で、そのアメリカに対する妥協的態度は、かつてのソ連なら失脚確実だが、権力を維持しているのは、何かの秘密がありそうである。
③ 産業、経済
社会主義経済によって生産手段が国有化され、1928年の第一次5ヵ年計画から1980年に終了した第10次5ヵ年計画まで、重工業中心の計画経済が行なわれてきた。しかし、そのために消費財生産が圧迫され、国民は苦しい生活を強いられてきた。さらにアメリカに対抗するために拡大してきた軍事費も政府財政を圧迫し、ゴルバチョフによるペレストロイカ(改革、立て直し)が図られたが、それも失敗してエリツィンに政権は渡った。エリツィンによる経済の自由化、市場経済への移行もうまくいかず、経済問題はロシアの最大の問題となっている。
石油、石炭、天然ガスなどのエネルギー資源にも、鉄鉱石や銅鉱石などの鉱物資源にも恵まれており、適切な指導体制があれば、世界の経済大国に復帰できる可能性が高い。
機械化された農業は、世界有数の生産高を持っている。水産業は、日本に次いで世界第二位の水揚げ。国土の5分の2を森林地帯が占め、木材伐採高は世界1。
④ 社会
社会主義国家末期の失政で、国民の8割が貧困状態にある。ソ連邦を形成していた小国家群も独立の意思が強く、CISは常に分裂の危機にある。
第四節 イスラエル
首都エルサレム 人口565万人 人口密度278人/平方キロ
① 国土、地形、気候
地中海の東に接する南北に細長い国で、レバノン、ヨルダン、エジプトなどに隣接する。
周辺地域との紛争の結果、国土拡大を続けており、国境は不定である。たとえば、シナイ半島はエジプトに属していたが、第三次中東戦争の敗北でイスラエルに領有され、79年の和平合意で再びエジプトに返還されている。
北、中部は温暖な地中海性気候で、南部は乾燥した砂漠気候。
② 略史
19世紀末からユダヤ人国家建国運動(シオニズム)が起こったが、第一次世界大戦中のバルフォア宣言によって現イスラエルに建国する権利を手に入れたと称するユダヤ人たちが1948年、勝手に独立を宣言。もとからこの地に住んでいたパレスチナ人たちを追い出したため、以後アラブ世界との抗争が続くことになった。エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3宗教の聖地であり、アラブ人たちにとっては領土問題であると同時に宗教戦争でもある。テロ事件は日常的にあるが、中東戦争は4度起こっている。和平合意に達しようとする度にテロや暗殺事件が起きて和平は失敗に終わる。犯人不明のテロに関しては、イスラエルに対するテロでも真犯人がアラブだと即断しないほうがいいだろう。
③ 社会
住民の8割がユダヤ人で、残りはアラブ系パレスチナ人。ただし、ユダヤ人とは「ユダヤ教を信ずる者」とか、「ユダヤ人ないしユダヤ教に改宗した者を母として持つ者」というあいまいな定義しかなく、実際には、人種的にはヨーロッパ系の民族がそのほとんどである。これらをアシュケナジー系ユダヤ人と言い、アラブ系ユダヤ人は社会的に下層に置かれている。
日常的に戦争状態にあるイスラエルが国家として成り立つのは不思議であるが、その理由の一つは、海外からの資金援助である。たとえば、アメリカは、貿易赤字、財政赤字で膨大な借金を抱えているが、それにもかかわらず毎年30億ドル平均のイスラエルへの膨大な資金援助をしており、しかも近年はそれが借款ではなく贈与になっている。1949年以来1989年までの総計は、借款と贈与合わせて460億ドルという恐るべき金額であるが、これはもちろんアメリカ国民の税金から出ているわけである。(あるいは日本が買っている米国債から出ているわけである。)
また、イスラエルの主要産業であるのはダイヤモンド加工業であるが、ダイヤモンドに手が出せるのはユダヤ人富豪グループだけであることから、イスラエルのスポンサーはそうしたユダヤ人富豪であると分かる。イスラエル人の庶民は、子供の頃からアラブ人との戦いを必然的なものと考え、戦いに駆り出されることが常態であるが、これもまた敵への憎しみを育てる「教育」の成果だろう。
第五節 中国(中華人民共和国)
首都北京 人口12億2774万人 人口密度128人/平方キロ
① 国土、地形、気候
アジア大陸東側中央部全域を占める、面積では世界第3位の広大な国土。南はヒマラヤ山脈でアジア南部と区切られ、西はカラコルム山脈、テンシャン山脈で中東とさえぎられ、北はゴビ砂漠を間にモンゴルと接している。
「南船北馬」と言われてきたように、南の地方には川や湖が多く、北は平野部が広がっている。内陸部は乾燥地帯が広がっている。気候は、冷帯から温帯、亜熱帯まである。
② 略史
紀元前3000年の黄河文明以来、5000年に渡る文明の地である。主な王朝は、殷、周、秦、漢、隋、唐、宋、元、明、清で、その間幾つかの国に分裂していた時代などもある。清の後が現在の中華民国である。清の時代に欧米諸国や日本の侵略を受け、老いた巨象のように食い荒らされたが、中華民国となってからは世界の大国の一つとして世界にその存在感を見せている。
中華民国建国の際に、国民党が共産党との主導権争いに敗れて台湾に逃れ、そこに政府を置いたことで「二つの中国」を生じ、どちらに正統性があるかで世界を混乱させたが、現在でも中国は、台湾を自国の一部だと主張している。
③ 産業
社会主義国家として、農牧業は人民公社を中心に集団生産を行い、工業は重工業中心に発展をはかってきたが、1978年の、農業・工業・国防・科学技術の「4つの近代化」という自由化政策、経済改革で資本主義国家に転換しつつある。
④ 社会
沿岸部では経済特区を中心に工業化と資本主義化が進み、農業中心の内陸部との経済格差が広がっている。人口問題と食糧問題は中国につきまとう問題で、「一人っ子政策」で産児制限を行なってきたが、そのため日本以上の速さで高齢化社会が到来する可能性が高い。また、チベットやウィグルなど、辺境少数民族問題も難問である。毛沢東が政権の中心にいた時代に、「文化大革命」によって知識人が迫害され、中国の文化的伝統は死に絶えた。これは、秦の始皇帝の「焚書坑儒」の20世紀版である。
日本にとっては、漢字という素晴らしい文化を貰った恩人の国であり、第二次世界大戦では迷惑をかけた相手でもあるのだが、右翼的人間(実は、ほとんどがアメリカの手下)には、「なぜか」中国嫌いが多い。最近、日本の親中国派の政治家が意味不明の事件で失脚することが多いのは、明らかにアメリカの意図によるものであろう。古い話だが、田中角栄の失脚は、彼がアメリカの頭越しに親中国的政策を取り、また、アメリカに依存しないエネルギーの入手先を求めていることがアメリカの逆鱗に触れたからであった。つまり、日本の総理大臣など、その程度の存在なのである。
第六節 日本
首都東京 人口1億2557万人 人口密度332人/平方キロ
① 自然
北の端から南の端まで細長く伸びた列島。そのため、気候も多彩である。国土は狭く、その七割が山地のため、居住空間や農地面積が小さい。モンスーン気候のために水に恵まれている。
② 人間社会
古代王朝の時代から貴族政治、武家政治を経て1868年の明治維新で近代国家の仲間入りをする。しかし、第二次世界大戦の敗北でアメリカの占領下に置かれ、形式的な独立後も政治的にはアメリカの支配が続いている。
戦後の経済発展で、アメリカをもしのぐ輸出国になったが、貿易黒字が国民生活の向上にほとんど役立たないという不思議な国である。産業面では中国や韓国、東南アジア諸国に追い上げられ、近いうちに追い越される可能性が高い。
国民のほとんどが政治に不満をもちながら、国政選挙では常に保守政党が勝つという不思議な国である。まあ、この国の野党の評価がそれほど低いということだが。それに、野党とは言っても、そのほとんどは野党の隠れ蓑を着た与党分派にすぎない。
国民の学歴水準は高いが、知的水準は低く、マッカーサーの名言によれば、日本人の精神年齢は十二歳であるということである。(今の十二歳は、大方の大人より知的水準が高いのではないかと思うのだが。)大人でも政治的関心が低く、社会事象についての判断力は小学生レベルの人間が多い。学校教育が、こうした家畜的人間を作るのに大いに役立っている。その意味では理想的にコントロールされた社会である。
世間体を気にし、家族への影響を重視する国民性があり、自ら欲望を制限する傾向が強いため、犯罪の発生率は低いが、社会上層部の無道徳さを見習って、国民も無道徳になりつつある。
第七節 ドイツ(ドイツ連邦共和国)
首都ベルリン 人口8214万人 人口密度230人/平方キロ
① 自然
北部の北ドイツ平原から中部の丘陵、南部は高原からアルプスへと続く。全体としては穏やかな大陸性気候で、冬が長く、年平均気温は9.4度C。
② 人間社会
9世紀のフランク王国分裂による東フランク王国に始まり、神聖ローマ帝国(ドイツの元首がローマ教皇から加冠されたため、そう名乗ったもので、本来のローマ帝国とは別。)つまり第一帝国の時代を経て、プロイセン王国を前身とする統一国家ドイツ帝国(第二帝国)の誕生、第一次世界大戦後に台頭したナチス(自称、第三帝国)支配の後、第二次世界大戦での敗北、東西ドイツへの分割、1990年のドイツ再統一へという歴史を持つ。
東西ドイツの統一は、大量失業、増税の原因となり、また共産主義圏の崩壊によって東欧諸国からドイツに流入した難民、トルコからの移民などが社会問題となっている。しかし、欧州連合(EU)の中ではフランスと並ぶ指導的立場にあり、政治的な発言力は高い。
世界有数の精密な工業技術を持ち、特に自動車ではBMW,ベンツ、フォルクスワーゲンなどは高く評価されている。日本のように量を売るよりも、質で勝負という性格である。
すぐれた音楽家と哲学者、文学者を生み出した国だが、現在は世界の中での存在感が薄い。というより、日本のマスコミがアメリカ以外の国の文化的情報をほとんど伝えないのだが。
第八節 フランス(フランス共和国)
首都パリ 人口5862万人 人口密度108人/平方キロ
① 自然
ヨーロッパ中央の広大な平野を占め、陸地の北から東回りにベルギー、ドイツ、スイス、イタリアと接し、地中海海岸部を経て南西部はピレネー山脈を境にスペインに接する。北部海岸は、狭いドーバー海峡を隔ててイギリスがあり、フランスは、昔からイギリス、ドイツとの間で戦争が多かった。全土の6割が平地かなだらかな丘陵地で、地味は肥沃。農業大国である。気候は、西・北部は西岸海洋性気候、東部は大陸性気候、南部は地中海性気候と変化に富む。
② 人間社会
フランク王国、西フランク王国、カペー朝、バロワ朝、ブルボン朝の後、フランス革命で共和制となり、その後ナポレオンの帝政、ブルボン朝復活、第2共和制、ナポレオン3世の帝政、第3共和制、第二次世界大戦後に第4共和制、58年にはドゴールによる第5共和制と、近代になってからは政治体制の変化が激しい。
芸術と文化への理解が深く、国家的な保護を与えてきた。フランス料理やワインなどの食事も含め、生活そのものを楽しむ姿勢は、大人の国と言える。フランス革命のような急進性もあるが、政治的に困難な地理条件によって生まれた現実主義的思考のほうが強い。
ドイツ同様に、現在はフランスについての文化的情報が少ないので、(要するに、現在のマスコミは、文化面では国内とアメリカの情報しか流さないのである。)フランスが現在どのような社会であるかは判然としない。
第八節 イラク(イラク共和国)
首都バグダッド 人口2222万人 人口密度51人/平方キロ
① 自然
北はチグリス、ユーフラテスの二つの大河を含む平原、南は砂漠地帯である。南はサウジアラビア、西はシリア、北はトルコ、東はイランに接する。中東では水資源に恵まれた国であるが、亜熱帯性乾燥気候で、夏季にはほとんど降水がない。
② 人間社会
古代にはメソポタミア文明が栄え、アケメネス朝ペルシア、ササン朝ペルシア、イスラム帝国の後、オスマン・トルコの支配、英国の委任統治を経て1932年、王国として独立、58年に共和制に移行。80年から88年には対イラン戦争があった。90年、フセイン大統領によるクウェート侵略は米国を中心とする国連軍によって阻止される。これが湾岸戦争である。2003年には、アメリカがイラクを「侵略」するが、一般的には、これはなぜか侵略とはされていない。二十年後の歴史では確実に侵略戦争と定義されるはず。
湾岸戦争後の経済制裁で国民生活は窮乏を強いられているが、それまでは中東でもっとも豊かな国の一つであった。医療が無料で行なわれるなど、社会福祉にも目を向けた国でもあった。
石油埋蔵量はサウジアラビアと並ぶとされており、アメリカのイラク侵略戦争の理由はそれだと考えるのが、一番納得がいく説明だろう。ただし、ブッシュ大統領は中東全体の「民主化」を叫んでおり、それは中東全体の「日本化」、つまりすべてをアメリカの支配化に置くということである。
第九節 イラン(イラン・イスラム共和国)
首都テヘラン 人口5773万人 人口密度38人/平方キロ
① 自然
イラン高原を中心に、国土の半分が高原で、乾燥地が多い。大陸性気候で寒暑の差が大きい。
② 人間社会
アケメネス朝ペルシア、ササン朝ペルシアの後、イスラム帝国、セルジュク=トルコ、チムールの支配下に置かれ、1500年サファビー朝、1906年に立憲君主制となり、35年に国名をイランに変更。79年、ホメイニを指導者として宗教を政治の指導原理とするイスラム革命が起こり、近隣諸国や欧米諸国に衝撃を与える。80年から88年にかけてイラクとの間に戦争が起こるが、それは「革命の輸出」を恐れた「米国の代理人」フセインがイランに仕掛けたものである。89年のホメイニの死後は、イランは穏健路線をとり、湾岸戦争時には中立の姿勢を取った。
2005年現在、キリスト教国家によって、世界的にイスラム教への敵意を醸成するプロパガンダが行なわれている。おそらくそれは、イラク戦争の次に、イランやサウジアラビアへの戦争をするための布石である。
第十節 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)
首都平壌(ピョンヤン) 人口2432万人 人口密度198人/平方キロ
① 自然
朝鮮半島の付け根の部分、つまり北半分を占める。国土の半分は高原で、大陸性気候。1月の平均気温は-7.8度C。
② 人間社会
1392年から1910年まで、李氏朝鮮による長い統治があったが、1910年、日本に併合される。45年、日本の敗戦に際し、朝鮮半島北部はソ連、南部は米国に軍事占領され、分断される。48年、ソ連、中国に支援された金日成によって朝鮮民主主義人民共和国が建国される。50年、朝鮮戦争勃発。53年休戦。67年から自主外交、自主経済の「主体思想」の方針を打ち出す。94年、金日成死去。息子の金正日が国家指導者の座を受け継ぐ。社会主義国家としては恥ずべき国家の世襲である。
国家元首への個人崇拝を強制し、それを利用して国民を統治していく愚劣な社会体制の国であり、国家指導者グループに国家経営能力が無いことは、現在隣国の韓国の14分の1以下の所得水準や、国民の間に広がる飢餓状態で示されている。日本との間には、日本人誘拐(拉致)事件という道義的な問題もあるが、しかし、原爆製造能力を持つと思われる相手であり、また、相手国民への人道的配慮も必要であり、理性的な対応が求められる。
歴史的に日本が北朝鮮や韓国に与えてきた苦痛への謝罪を求められることに対し、右翼的人間たちはいらだち、逆に攻撃的な発言をして国家関係を悪化させている。過去の悪事は悪事として認めた上で、相手側の非も指摘し、友好的な関係を結ぶ努力をすることが、同じアジアの近隣国としての理性的な対応だろう。