(以下引用)
第二部 世界地理
地理というと、国土や山や川や海などの自然についての学問というイメージがあります。また、季節風や海流など、地学と重なる部分もありますが、私たちにとって本当に重要なのは、政治経済と結びついた地理です。なぜなら、政治経済は、私たちが生きていくための基盤だからです。これまでの地理が退屈な教科だった一番の理由は、我々の生活と無縁な、人間不在の、些末的知識の習得が強制されていたところにあります。
ですから、これまでの地理を解体して、必要なところ、興味深いところだけを学ぶことにしましょう。たとえば、気候区分だとか地図の分類とか、村落や都市の形成の話は、かなり退屈です。ところが、地理のテキストの大半は、そうしたうんざりするような話を前に持ってきて、私たちが本当に知りたい世界の現実については後回しになっています。その順序を変えるだけでも地理は学びやすくなるでしょう。
この本では、世界の現実を知るために必要な基礎知識としての地理だけをまとめます。それを土台として、後は自分で興味を持った部分をもっと調べ、あるいは他の本で大学受験などに必要な知識を補えば、それでいいのです。
第一章 人種・国家・国土
初めに、クイズを出しましょう。キリストは白人でしょうか、黒人でしょうか、黄色人種でしょうか。
我々のイメージするキリストは、西洋絵画に出てくる金髪碧眼の美青年です。しかし、キリストの生まれたのは、中東の、現在はイスラエル領土となっているエルサレムです。してみると、当時そこにいたのは、アラブ系住民か、北アフリカ系の住民だけだったはずです。キリストの肌色は黒褐色で、髪の色も目の色も黒く、場合によっては髪は縮れていたというのが、事実でしょう。キリストが白人であったというのは、我々が西洋文明の迷信的、あるいは意図的宣伝の伝統を疑問なく受け入れてきたからにすぎません。
もう一つ、クイズです。イスラエルはどんな民族の国でしょうか。「もちろん、ユダヤ人の国さ!」ブ・ブー、はずれです。答えは、ヨーロッパ人の国です。人種的に言えば、イスラエルの住民の大半はヨーロッパ系人種であり、それをユダヤ人としているのは、「ユダヤ教を信じる者はユダヤ人だ」という名目にしかすぎません。本来の民族としてのユダヤ人は、中東のアラブ系民族ですから、白色人種ではありえません。紀元前に中東のユダヤ人がイスラエルを自分の物としていたからと言って、ヨーロッパ人がそこを自分の領土だと主張することは本当は不可能な話なのです。まあ、そんな大昔のことを盾に所有権を主張されたら、土地の所属問題は滅茶苦茶になるはずですが、政治の世界では、どんな無茶苦茶な理屈でもこじつけられるのです。政治の世界の原則は、「勝てば官軍」「力は正義なり」ですから。
世界の人種は、大きく白人種、黒人種、黄色人種に分けられます。アメリカ・インディアンを赤色人種などと言うこともありますが、彼らはモンゴロイド、つまり我々と同じ黄色人種です。モンゴロイドはアジアと北米大陸を居住地域としていた人種です。黒人種は、アフリカを居住地域としていた民族で、人類の祖先はアフリカ人だと言われています。白人種はヨーロッパに居住していた人種です。これらの人種は黒人種から派生したというのも、一つの説でしかありません。あるいは、人類は最初から幾つかの種類に分かれて発生したのかもしれません。
国土は国家の領有する領域で、「領土・領海・領空」の三つを含みます。領海は海岸線から12海里(1海里は1,850メートル)まで、経済水域(その範囲では優先的に漁業などの操業が認められる範囲)は200海里とされています。領空は、領土と領海の上空、大気圏内をさすと一般的にはされています。
国家は国土と国民と政府の三つの要素からなり、独立国と非独立国に分かれます。独立国は、統治形式から分類すれば、(A)君主国[主権が君主にある国で、君主の地位は世襲されるのが普通です] と(B)共和国[主権在民の国。首長は選挙などで選ばれ、一定期間国政を担当します] に分かれます。非独立国の中には、形式的な主権は本国の主権者にあるが、自治が認められ、国際法上は独立国であるイギリス連邦自治領のカナダ、オーストラリア、ニュージーランドのような国もあります。
国には、単一民族に近い国と、複数民族を抱える国があり、それぞれの国で民族同士の対立による民族問題があります。アメリカ、南アフリカ、チェコスロバキアなどはその代表であり、また、国の成立や国境をめぐって対立するイスラエル問題や、インド・パキスタン紛争などが長い間続いています。世界中でこの種の民族問題は無数にあり、国際政治の問題の大部分は民族問題と関連します。ところが、こうした紛争は、紛争当事者の双方に武器を売る武器商人たちにとっては飯の種であり、西欧諸大国は、一方では紛争解決に努力するようなポーズを見せながら、その一方では政治家の関係する軍需産業が金儲けをしているという裏の姿を持っているのです。つまり、戦いあう人々は、他人の金儲けのために互いに殺しあっているというのが現実です。
武器商人だけでなく、軍隊そのもの(と言っても、最前線で戦う兵士たちではなくて、自分たちは安全な後方にいて勝手な作戦命令を下すお偉方のことですが)にとっても、世界が平和になれば軍事費は削減され、軍隊のリストラが行なわれますから、世界に日常的に危機があったほうがいいのです。だから、危機が無ければ危機を作り出す必要があります。世界の危機の多くはそうして意図的に作り出されたものです。
世界を政治と地理の複合として見ることで、見えてくるものがあります。
たとえば、アフガニスタンにはどのような政治的意味があるのでしょうか。なぜ、あのような貧しい国が何度も政治的紛争の舞台となってきたのでしょうか。もちろん、その意味は時代によっても違ってきます。まず、古い時代では、ヨーロッパからインドに至る途中に塞がるスライマン山脈とヒンズークシ山脈の境にあるカイバー峠が、山越えの要所だったことがあります。アレキサンダー大王が東征したときも、このカイバー(カイバル)峠を越えました。また、アフガニスタン自体の地理的な位置も重要です。というのは、ロシアや中国というアジア大陸の北部と、それらとはヒマラヤ山脈で区切られた、インドを中心とするアジア大陸南部、それに中東の西端(昔のペルシア、現在のイラン)の地理的な結節点がアフガニスタンなのです。ここを支配すれば、軍事的に全アジアに睨みを利かせることができるというのが、西欧各国がアフガニスタンにこだわる真の理由でしょう。仮に、ここにミサイル基地を作ったなら、ロシア、中国、インド、中近東諸国からヨーロッパまでが射程距離に入るでしょう。現在では、イギリスやアメリカの傀儡国家であるパキスタン(これは私の判断です。)とカスピ海油田を結ぶパイプラインを敷設する計画が進行中ですから、その意味でもアフガニスタンは重要です。これで、9・11事件の後、アメリカが意味不明のアフガニスタン爆撃をした理由も分かるでしょう。いったい、正体不明のテロリスト集団がある国にいるかもしれないという理由で、その国に爆撃をするなどという無茶な話があるでしょうか。しかし、その爆撃も、タリバン政権を破壊し、パイプラインを敷設するための基礎工事だと考えれば、成る程、と思います。それで死んだ人々は浮かばれませんが。
第二章 世界のエネルギー問題
エネルギーとは仕事をする能力のことで、未使用の力が物質などの形で存在しているものと考えればいいでしょう。もちろん、単なる位置も位置エネルギーを持っていますが、それはここでは無視します。エネルギーには、石油、石炭、天然ガスなど、燃焼によってエネルギーを得るものや、それ自体がエネルギーである水力、風力、地熱などの1次エネルギーと、1次エネルギーを変形して用いる電力などの2次エネルギーがあります。
現在の世界で最も重要なものは石油です。(石油は、安価で輸送が簡単であり、熱効率の高いエネルギー源であるだけでなく、プラスチックなど、現代社会に不可欠な製品の原料でもあります。)世界の石油埋蔵量のおよそ65パーセントは中東地域にあり、アメリカの石油埋蔵量は世界のおよそ3パーセント弱にしかすぎません。しかも、石油消費量では、アメリカは1国で世界の25パーセント程度を消費しています。(我が日本は世界第二位の石油輸入国で、世界の石油生産の7パーセントを消費しています。)アメリカは高度消費社会であり、その社会は石油の大量消費によって成り立っているのです。このまま行くと、アメリカは、あと10年以内に国内の石油をすべて使い尽くすことになります。そのことにおそらくアメリカは強い危機感を持っているはずです。
アメリカの石油消費量の異常な高さは、アメリカが自動車依存社会であることに原因があります。アメリカでは鉄道は貨物輸送手段として使われ、人間の移動手段にはほとんど自動車しか使いません。毎年のように新型車が生産され、数年で買い換えられ、日常的にガソリンを購入する自動車の方が、鉄道よりは消費を促すため、一部資本家や政治家の策謀で(そのために、鉄道を買収したあとでそれを潰すことを繰り返し、鉄道網を発達させなかったのです。)アメリカは自動車社会になってきたのですが、アメリカ人自体が自動車が好きでしょうがないという体質になっているので、この状態は変わることはないでしょう。ちなみに、1989年度調べの鉄道輸送量は、日本が3,688億人キロであるのに対し、アメリカはわずかに94億人キロでしかありません。(人キロは、1人を1キロ輸送することです。)いかにアメリカ人が交通手段として鉄道を使っていないかがわかります。
世界の石油は、かつてはメジャーと呼ばれる国際石油資本(資本とは、企業と同じだと思ってください。)によって支配されていましたが、メジャーに対抗して1957年に発足した石油輸出国機構(OPEC)や、そこから南米のベネズエラを外したアラブ石油輸出国機構(OAPEC)が現在は中東の原油価格や原油生産量を決定しているため、先進諸国は産業の首根っこをつかまれたような状態でした。その状態を変えようとして起こされたのが1991年の湾岸戦争でしょう。表向きはイラクのクウェート侵攻への対抗として起こされた戦争ですが、その結果は、アメリカ軍のサウジアラビア常駐というものです。つまり、アラブ諸国は、アラブ世界の中に、イスラエルという、仮面をかぶったヨーロッパ国と、世界最強のアメリカの軍隊の二つを抱えることになったわけです。これは、自分の国の中に米軍基地を持つ日本と同じことで、中東産油諸国はアメリカに対し、反抗することはできなくなったわけです。つまり、湾岸戦争でアメリカは中東の石油の支配権を握ったわけです。イラクのフセイン大統領が、アメリカの代理人であったとしたら、湾岸戦争後にフセインの裁判や処刑を行なわなかったことに、合理的な説明がつきます。実際、クウェート侵攻前に、フセインはアメリカの許可を取っていたと言われています。
2003年のイラク戦争は、子ブッシュによる、親ブッシュのやり残したことの総仕上げ、アメリカの世界支配の完成ということになります。
ある事情通によれば、この戦争の真の原因は、マスコミに流された「イラクの大量破壊兵器」云々といういい加減な理由ではなく、フセインがアメリカに反旗を翻し、石油代金の支払いをドル建てからユーロ建てにしようとしたことだそうです。これも十分にうなずける考えです。つまり、ドル建ての支払いなら、いくらでもドルを印刷して渡せばいいわけで、アメリカは印刷機を回すだけでいくらでも石油が使い放題だったのが、これで危なくなったわけです。あるいは、単にイラクの石油が欲しかっただけかもしれません。アメリカが、フセイン大統領を捕獲したあとも、フセインへの裁判も何も行わないのは、それをやれば、フセインがもともとはアメリカの代理人であったことなど、アメリカにとって都合の悪いさまざまな事実が出てくるからでしょう。彼を裁くとしても、秘密の軍事裁判でしか裁けないはずです。あるいは、監獄の中で原因不明の急死をするか、アメリカから金を貰って南米にでも逃げて、優雅な老後を過ごすか。
9.11事件以後にアメリカが戦争をする口実にしているアルカイダとかいう、その存在すらはっきりしないテロ組織など、アメリカの世界戦略のためのダミー以外の何物でもありません。いや、アルカイダ自体が、もしかしたらCIAの指示で動いている可能性もあります。世界のマスコミは、世界政治支配層によってコントロールされていますから、マスコミから正しい情報を得ることは、ほとんど不可能でしょう。しかし、合理性というレンズを通して見れば、政治現象に対する正しい「解釈」も可能です。
現代の世界では、産業はエネルギーによって動いているわけですから、世界の政治経済の目的の一つは、資源とエネルギーの争奪にあります。そのような視点で眺めた時、意味不明の政治的行動も、意図が見えてくるでしょう。もちろん、これらの「解釈」は私の妄想かもしれません。でも、世界政治を推理するのは、政治を無味乾燥なものとしてまったく興味を持たないのに比べれば、ずっと楽しく、有益だと思います。間違えば、修正すればいいだけのことです。
石油と並ぶエネルギーとして原子力エネルギーがありますが、世界の大勢は原子力を使わない方向に向かっています。その理由は、核分裂や核融合のコントロールは非常に難しく、いったん事故が起こった時の被害が巨大であること、また、核廃棄物の放射能は強い毒性を持ちますが、その放射能は、半永久的に無くならないことなどがあります。つまり、核廃棄物の安全な処理方法は無いのです。(原子力発電所を「トイレの無い住宅」だと表現するのは、まったくもっともです。)
安価な石油が使える間は、原子力に頼る必要は無いということで、今の世界は石油に頼っていますが、その石油もおそらく今世紀中にはすべて無くなります。それまでに石油に代わる、安価で有効な新エネルギーを開発するのが世界の課題です。
第三章 世界の食糧事情
先進国では家畜の飼料として穀物を用い、その肉を食糧にしますが、畜産物1カロリー分のためには5~7カロリーの穀物が必要だとされています。言葉を換えれば、先進国の人間は、後進国の人間の5倍から7倍のカロリーを無駄に消費しているのと同じだということです。
先進国の人間が(ペットに至るまで)肥満に悩みダイエットにいそしんでいる間も、発展途上国では多くの人が慢性的なカロリー不足、たんぱく質不足の状態、つまり貧困と飢餓に苦しんでいます。自国内で商品作物を作って得た金で食糧を買おうにも、そうした作物はあまり高い金では売れません。(高い金で売ろうとしたら、先進国は、もっと貧しい他の国にその作物を作らせるだけのことです。)こうした状態を抜け出すには、鎖国でもして、自国内の食糧は自国内で作るという方向に持っていくのがいいのですが、そうした貧しい国でも上位階層の人間は商品作物の輸出で得た金を自分の物にしますから、今の状態を変えることはしません。
アフリカでは、森林伐採、家畜の過放牧、降雨による土壌流出などのために進行した砂漠化と、人口増加や休閑期間の短縮による地力低下などのために食糧の自給はままならない状態です。それに、常に国際的な価格競争にさらされる商品作物の栽培は、それに携わる労働者の生活をけっして向上させるものではありません。
日本は世界最大級の食糧輸入国で、その大半はアメリカからの輸入です。つまり、日本は政治的にも経済的にもアメリカに依存しており、その意向に逆らうことは実質的に不可能だということです。だから、日本の官僚や政治家が常にアメリカの意向を伺い、自分の意思で判断することはしないのも当然の話なのです。ただし、ここでいう経済的な依存とは生命を維持する上での依存の意味であって、金だけで考えれば、実はアメリカこそが日本に依存しているのですが、そのことは政治経済の項目で話しましょう。
第四章 世界と主要国
さて、ここから世界の主要な国々についての各説になりますが、地理は空間的な教科ですから、文章だけで理解するのには限界があります。そこで、地図帳などを使ってイメージ的に把握しなければなりませんが、なるべく自分の手で略図を書くか、白地図に書き込むなどして、体で覚えるようにしてください。
その前にまず全体的概念から。世界は大きく、七つの大陸(アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極)と四つの海(太平洋、大西洋、インド洋、北極海)からできています。アジア大陸とヨーロッパ大陸は一つにして、ユーラシア大陸と呼ぶこともあります。
政治的には、イギリスと、(アメリカを含む)その旧植民地が現在の世界政治を実質的に動かしていると言えるでしょう。別の言い方をすれば、かつてイギリスを支配していた階級が、現在はアメリカをも支配し、イギリスの旧植民地や日本をも支配しているということです。ただし、真の支配者は歴史の表舞台に姿を現すことは無いでしょう。単なる一時的政権担当者にすぎない大統領や首相、あるいは国王が支配者なのではないということです。しかし、とりあえず、日本の政治を考えるなら、アメリカの意思が何かを考えればいいわけですから、ある意味では非常に分かりやすい面もあります。そして、アメリカの意思とは、アメリカ経済界の意思ですから、何がアメリカ経済支配層にとっての利益であるかを考えれば、政治の行方は見えてくるということです。
地理は政治と経済の舞台、または土台です。地理を学ぶのは、政治経済について知るためだ、という根本を忘れることなく、多少は退屈な話にもつきあってください。(以下の記述は、些末的な事象が多いので、表記を簡略にするため文体を常体にします。)
第一節 アメリカ合衆国
首都ワシントン 人口2億6784万人 人口密度29人/平方キロ
① 国土、地形、気候
世界第四位の面積の国土。北はカナダと接し、南はメキシコと接している。独立戦争の時を除いては自国領土を他国に攻められた経験はほとんどない。そのことが、戦争に対する無神経で傲慢な国民性を作っている。東西約4、300km,南北約2、200km。東西の長さのために東端のワシントンと西端のサンフランシスコやロサンゼルスでは約3時間の時差がある。(時差は、15度で1時間)
東側海岸部に平野が広がり、中央には平原と砂漠地帯、西側には北にロッキー山脈とコロラド高原があり、西の海岸線にも狭い平野部がある。カリフォルニアなどの太平洋岸南部は地中海性気候。
② 略史
16世紀初頭、大西洋を越えて、ヨーロッパ人の渡来始まる。ワシントン・アーヴィングの「スケッチ・ブック」には、ハドソン川周辺のオランダ人入植者社会が描かれている。当時のニューアムステルダムが、後のニューヨークである。16世紀末、イギリス人が東部海岸に植民地を開き、南部のバージニアではイギリス貴族の投資によって煙草栽培のプランテーション農業が発達する。18世紀、本国イギリスの支配を嫌って独立戦争を始めた米植民地は、1776年、13州が独立する。(星条旗の13本の横線はこの13州を象徴)19世紀、奴隷制度に支えられたプランテーション農業にとって有利なイギリスとの間の自由貿易を望む南部は、北部で発達し始めた商工業保護のための保護貿易を望む北部と対立。南部諸州は合衆国を脱退し、アメリカ連邦を結成。南北戦争が始まる。この戦争を奴隷解放の戦争とするのは、勝者を美化しすぎている。1861~65年の5年間の戦争は、北部の勝利で終わる。南部を中心にこの時代を描いた小説が「風とともに去りぬ」である。南北戦争の後、多くの大陸横断鉄道の敷設によって西部開拓が進む。第一次、第二次世界大戦でいずれも勝者の側に属したアメリカは、20世紀の最強国として世界に君臨するが、日本や東南アジア諸国の経済発展によって産業の面では製品輸入国になり、巨額の貿易赤字と政府財政赤字に苦しむようになる。しかし、世界の機軸通貨であるドルの威力と軍事力をバックに、世界に対する有無を言わせぬ支配力を維持している。アメリカの一極支配を公然と世界に向かって宣言したブッシュドクトリン以後は、ただのゴロツキ国家である。
③ 産業・経済
農牧業は、世界最大の生産量で、農産物の輸出大国。広大な土地を生かした粗放農業、単一耕作が中心。とうもろこし、小麦、大豆、果実、綿花、牛肉、豚肉などの生産が多い。
工業は、大量生産方式によって世界の工業をリードしてきたが、近年は工業の花形の自動車工業で日本に負けている。カリフォルニア近くのシリコンヴァレーは、コンピュータ研究の中心。ハード機器の製作はアジア諸国に任せ、ソフト面で稼いでいる。ウィンドウズのマイクロソフト社がその代表。
鉱産資源に恵まれた国だが、あまりに消費が大きいため、輸入大国である。
軍需産業と政治が結びついた軍産複合体がアメリカの病根であり、アメリカの対外政策の異常さの多くはここに原因がある。
④ 社会
銃の所持が許された社会で、毎年何万人もの人間が銃で死んでいるが、全米ライフル協会という強力な圧力団体のために、銃が規制されないようになっている。
麻薬大国であり、CIA自体が麻薬を資金源としているという話は、信憑性が高い。麻薬犯罪の首謀者として「アメリカに」逮捕されたパナマのノリエガ将軍は、CIAの手下だった人間である。(その当時のCIA長官が現在のブッシュ大統領の父ブッシュ。そのブッシュが大統領としてノリエガ逮捕を命令し、その際、民間地区爆撃で大量の死者を出したことは、日本ではあまり知られていない)中南米の政変の多くでアメリカが糸を引いているのは公然の秘密。
いわゆる人種のるつぼと呼ばれる多民族国家で、黒人、白人、アジア系移民、メキシコや南米からの移民など、さまざまである。黒人の大半は貧しい。また、かつてのアメリカの本来の所有者だったインディアンの多くはアルコール中毒か麻薬漬けにされている。世界でもっともユダヤ人が多い国で、政財界の主導的立場に立っている人間も多い。米国の親イスラエル政策には、このユダヤロビーの力が大きい。
政治は、共和党と民主党の二大政党制で、共和党は産業界や金持ち優先政策が多く、中流以上の保守主義者に支持されており、民主党は福祉中心でやや革新的な政策が多く、貧困層や黒人の支持が多い。そのため、選挙の時には共和党によって、黒人が選挙に行けないようにさまざまな手段で妨害されることも多い。大統領選挙の集計自体が民間会社に委託されていると言うとんでもない国である。選挙の集計が信頼に値しないことは、2000年度と2004年度の大統領選で実証済み。
政治経済的支配者たちは情報操作に長けており、新聞やテレビをうまく利用して自分たちに都合のいいように世論を誘導することが多い。したがって、アメリカのジャーナリズム経由のニュースは、日本の記者クラブ経由のニュースと同じことで、信頼に値しない。9・11事件以降、「愛国者法」などで、物の言えない最悪の社会になりつつある。
一般的な教育水準はそれほど高くなく、文盲者も案外多い。スポーツマンが尊敬され、金持ちが尊敬され、自己主張が弱く競争を好まない人間は「負け犬」扱いされる社会である。離婚率が非常に高く、片親世帯が多い。レーガン時代以降、貧富の差は拡大する一方である。キリスト教信者が多い割には、殺人事件の多さ、モラルの低さ、富者の優遇など、もっとも非キリスト教的社会である。
様々な欠点はあるが、第二次大戦後の日本にとっては精神的な父親であり、現代日本の風俗のほとんどはアメリカの影響を受けている。また、日本に民主主義を教えた恩人である。もっとも、その民主主義が本家のアメリカでも機能しているかどうか疑問だが。
第二節 イギリス(グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国)
首都ロンドン 人口5892万人 人口密度241人/平方キロ
① 国土、地形、気候
ヨーロッパ大陸からドーバー海峡を隔てて西に位置する島国で、国土面積は日本のおよそ3分の2、ゆるやかな高地と丘陵が大部分を占め、冬温暖夏冷涼な西岸海洋性気候である。政治体制は、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドから成る立憲君主制の連合王国。
② 略史
先住民族ケルト人は、4世紀から5世紀のフン族の西進に伴うゲルマン民族の大移動でイギリスに渡ったアングル族、サクソン族によって支配され、イギリスはアングロ・サクソン人の島となった。(ケルト人は、日本のアイヌ民族のような存在である。)9世紀のノルマン人の侵略に対してはアルフレッド大王がアングロ・サクソン諸勢力をまとめて防いだが、11世紀にはデンマーク王クヌートがイギリスを支配下に置き、同じ11世紀にノルマンディー公ウィリアムがアングロ・サクソン勢力を征服してノルマン朝を開始した。彼を征服王ウィリアムと言う。(ノルマン人は、ロシアでもスラブ人を征服してヨーロッパによるロシア支配の起源となっている。)ノルマン朝は中央集権的性格が強い王朝だったが、それを継いだフランス出身のプランタジネット朝は、さらに集権的性格を強め、強大な王権のもとで貨幣経済が発達した。しかし、その3代目の国王ジョンは、ローマ教皇の破門への許しを乞うて献上した領土の回復のために貴族や都市への多額の課税を決めたため、それに反抗した貴族たちは同盟して国王にマグナ・カルタ(大憲章)を承認させた。これは、聖職者と貴族の会議の承認がなければ課税されないこと、法による手続きがなければ逮捕されないことなどを定めたもので、17世紀の「権利の請願」の際にイギリス人の歴史的権利の根拠とされ、議会の国王への抵抗の支柱となった。13世紀には、議会の原型ができ、17世紀にはピューリタン革命と名誉革命の二つによって国王の王権は著しく制限され、「国王は君臨すれども統治せず」という原則ができあがった。16世紀のスチュアート朝の国教強制に反撥した清教徒たちがアメリカに渡り、アメリカ植民地を形成し、やがて独立戦争によってイギリスはアメリカを失う。18世紀の産業革命で世界の工場となったイギリスは、原料と市場を求めて世界に植民地を広げ、近代の弱肉強食の国家間政治闘争の主役となる。以後は、近現代史の項目で書いたとおりである。
イギリスという国自体は、現在では大国とは言えないが、その政治経済的支配者とアメリカの政治経済的支配者は重なっており、この両国は政治経済的には同一の国と見なすことができる。政治的面では、アングロサクソン民族とは、(一部の人間と民族全体を同一視するのはいけないことだが)要するに海賊であると考えれば間違いはない。
③ 産業・経済
世界でもっとも早く工業化の進んだ国だが、二十世紀前半にアメリカに抜かれ、第二次世界大戦後はドイツやアジア諸国にも抜かれて工業面では斜陽化している。しかし、18世紀から19世紀にかけて世界から収奪し、蓄積された金融資本は、国を超えて活動しているため、イギリスという国は目に見えない形で世界経済を支配しているとも言える。たとえば、日本が日露戦争の際にイギリスから借りた金というのは、実はユダヤ人富豪ロスチャイルドの金である。その償還が行なわれたのは、昭和であるから、フランス革命の前の時代から現代に至るまで、一貫して歴史を動かしているのは一部の人間の持つ金であると言える。ロシア革命にもユダヤ人富豪が出資していることは、世間では知られていない。
また、南アフリカ(1961年、イギリス連邦離脱)は世界でもっとも貴金属資源に恵まれた国だが、その国を実質的に支配するのはイギリスであり、ユダヤ人資本である。世界のダイヤモンド市場を支配するデ・ビアスはユダヤ人の会社であり、世界の金価格は、幾人かのユダヤ系会社の代表が集まって勝手に決めているものである。
もっとも、ユダヤ人とは何かという定義さえできないのだから、ここで言うユダヤ人とは、ナチスの人種差別政策の対象のような民族としてのユダヤ人ではなく、特定の富豪集団を言うと考えてもらいたい。ロスチャイルド、ロックフェラー、モルガンなどの世界的財閥が経済界の意思を主導し、政治を動かすと考えれば、真実に一番近いだろう。それらの富豪が対立関係にあるのか、協力関係にあるのかは、不明である。(私としては、ある一族が自分の正体を隠すために資本を分散しているという説を取るが。つまり、ロックフェラーもビル・ゲイツも、日本のIT成金たちも某一族のダミーであると考えている。この一族はイギリスやオランダなどのヨーロッパ旧王室をも支配していると思われるが、その支配関係は、あるいは逆かもしれない。)
イギリスは石炭、石油を産出し、特に石油産出はヨーロッパ第一である。
戦後しばらく社会主義的政策をとり、鉄鋼、電力、石炭、石油などの基幹産業が国営化されていたが、経営不振のためサッチャー時代に民営化転換が行なわれた。
国土の4分の3が農地で、労働生産性、土地生産性ともすぐれているが、食糧の大半は輸入されている。
④ 社会
アメリカに劣らず貧富の差の激しい社会であり、貴族制度を残す階級社会でもある。世界に先駆けて議会制政治が発達した国、社会主義思想が形成された国でもあり、「揺り籠から墓場まで」の社会保障制度、福祉政策が発達したが、近年、福祉政策は大幅に退歩し、教育費も削減されて、社会全体がアメリカ的な「残酷な自由競争主義」に向かっている。
国民性は、他民族に対する収奪を何とも思わない残酷さと同時に、自分自身を冷静に眺めるユーモアを持ち、現実主義的である。生活の面では、あまり新奇なものを好まず、伝統的生活を楽しむ保守的傾向が強い。
隣国アイルランドは、1152年以来、長い間イギリスに支配されていたが、1922年にアイルランド自由国となり、1949年に完全独立した。しかし、イギリス統治下に残された北アイルランドでは、多数派のプロテスタント信者が少数派のカトリック信者を差別、迫害したため武力紛争を生じ、カトリックのIRA(アイルランド共和国軍)とプロテスタントのUDA(アルスター防衛軍)の抗争は現在まで続いている。アイルランドは貧しく、19世紀半ばの大飢饉で人口の3分の1に当たる160万人が移民として海外に渡ったが、そのほとんどはアメリカへの移民である。ところが、そのアメリカでもアイルランド人は差別され、警察官になるかギャングになった人間が多い。(警察や軍隊は、被差別階級が、唯一出世できる社会である。)
かつての植民地、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドは、イギリス国王を主君として戴く同君連合を形成している。