元2ちゃんねる管理人・ひろゆき氏といえば、毀誉褒貶の激しい人物として知られている。1999年に巨大掲示板2ちゃんねるを開設して以来、独特のセンスで2ちゃんねるを運営・牽引し、現代日本のネット文化の礎を築いたエポックメイキングな存在だ。その一方、幾度となく訴訟に見舞われ、名誉毀損等の裁判を繰り返し、賠償金の請求にも「支払わなければ死刑になるのなら支払うが、支払わなくてもどうということはないので支払わない」と法廷無視の姿勢を貫いて、現在、フランスへ移住して暮らしている。良くも悪くも型破りで、率直な人物だといえるだろう。
そんなひろゆき氏がこのたび上梓したのが、『このままだと、日本に未来はないよね。』(洋泉社)。実業家であるひろゆき氏が、お金も人材も集まらない“オワコン日本”の行く末を予測し、その中で幸せに生きるための方法を記した本だ。話題は政治、経済、国際情勢、テクノロジーなど多岐にわたり、諸問題をシンプルな言葉でわかりやすく説明している。
ITの専門家だけあって、特にテクノロジーについての言及が興味深い。AIについての考察は鋭く、多くの紙幅を割いて語っている。
「AIが普及したら、かつて人間がやっていた作業の多くで人間がいらなくなります。(中略)一般の人たちは働かなくてもよくなるという人もいますが、これは誤解です。たとえば、ある会社がAIで儲けた場合、株主や取引先には利益が還元されますが、その会社にかかわっていない大多数の人は、より貧乏になります。AIの導入でクビにした従業員たちに補填はしませんし、ましてや一般の人に利益を配ったりは当然しません。だから、AIが普及したら、バラ色の人よりもキツい人のほうが増えて、全体としては貧乏な社会に突入するでしょう」(本書P83-85)
AIについては「映画『ターミネーター』のようなAIの暴走は起きる」「AIが人類の知能を超えるとされる『シンギュラリティ』はすでに起きている」など、空恐ろしい予測もしている。詳しくはぜひ本書で確認してほしい。
もちろん、未来予測だけにとどまらず、国民全員に現金を定額支給する“ベーシックインカム”の導入や、“保育園への補助金を廃止して育児世帯に現金を支給する”など、政策への提言も行っている。中でも面白いのが、「キモくて金のないおっさん“無敵の人”にはウサギを配る」という提案。家族も恋人もいない孤独な低賃金中年労働者に対し、「人は、弱い存在から頼られることで幸せを感じたりする生き物です。だから、キモくて金のないおっさんにウサギを配ってみると、『自分が社会からいなくなったら、ウサギの世話をする人がいなくなって、ウサギがかわいそうだから』と、ウサギの世話をし続けるために社会に居続けてくれるんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか」(本書P167-171)
食糧危機政策として、貧困地域の国民にウサギを配布した南米のベネズエラを例に挙げ、突飛なアイディアを打ち出している。有効かどうかはともかく、ウサギがいっぱいいたらファンシーで愉快な国になりそうだ。
バブル崩壊から平成不況、リーマンショックを経て、東日本大震災と、この国がゆっくりと下り坂を下っているのは間違いない。本書を読んで感じたのが、ひろゆき氏は事実を客観的に見つめながらも、ものすごくポジティブだということだ。本稿で挙げた他にも、ひろゆき氏の情報収集術や、物の見方、心の保ち方など、役に立ちそうな項目がたくさんある。冷静かつポジティブなひろゆき流思考法で、明日のディストピア日本を生き抜こう。
(文=平野遼)