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人前で話すこと

「逝きし世の面影」から、是枝裕一監督の発言(文章)引用部分を一部転載。

「23年の間に気付いたことは、映画を撮ること、映画祭に参加すること自体が既に政治的な行為であるということだ。」

というのは、鋭い発言だと思う。映画を撮ることはともかく、映画祭に参加することは、その映画の社会的認知(公認)の拡大を求める、非常に政治的な行為だろう。商業的な成功にも関係する「経済的行為」でもある。それはその映画の製作に関わった人々の生活にも関係する。

私が、沢尻エリカという女優を社会人失格、いや、人間失格だと見做したのは、彼女が、自分が主演した映画のオープニング上映でこの映画についての感想を記者から聞かれて「別に」と答えた、あの出来事のためである。「感想は無い。この映画はその程度の、つまらない、見るに値しない映画である」と言ったも同然である。その映画の出来がどうだったかはともかく、この発言は、この映画の製作に関係したすべての人間の営為を一瞬で崩壊させるものだった。実際、映画公開後、まったく観客は入らなかったと思う。つまり、彼女は、その無思慮さによって多くの人の生活にダメージを与えた。だから、人間失格だ、と言うのである。
沢尻本人はたまたまその時不機嫌だったのかもしれない。このような質問に答えるための「答案」を予め準備していなかったのかもしれない。しかし、人前で発言することは、政治的な行為なのであり、女優は映画宣伝の場では政治家であることを要求される。

たった一言がすべてを崩壊させる。人前で何かを言うということは、それほど恐ろしいものだ。であるならば、「お座敷に出せない人間」を座敷に出してはいけないのである。私自身そういう人間だから、人前にはほとんど出ず、言いたいことはブログに書くだけだ。無名人のネットでの発言など、水の泡のようなものであり、「かつ消えかつ結びて久しく留まりたるためしなし」である。


(以下引用)




映画監督なのだから政治的な発言や行動は慎んで作品だけ作れというような提言?もネット上でいくつか頂いた。僕も映画を作り始めた当初はそう考えていた。95年に初めて参加したベネチア映画祭の授賞式でのこと。ある活動家らしき人物がいきなり壇上に上がり、フランスの核実験反対の横断幕を掲げた。会場にいた大半の映画人は、立ち上がり拍手を送った。正直僕はどうしたらいいのか…戸惑った。立つのか立たないのか。拍手かブーイングが。この祭りの空間をそのような「不純な」場にしてもいいのか?と。しかし、23年の間に気付いたことは、映画を撮ること、映画祭に参加すること自体が既に政治的な行為であるということだ。自分だけが安全地帯にいてニュートラルであり得るなどというのは甘えた誤解で不可能であるということだった。
 映画祭とは、自らの存在が自明のものとしてまとっている「政治性」というものを顕在化させる空間なのである。目をそむけようが口をつぐもうが、というかその「そむけ」「つぐむ」行為自体も又、政治性とともに判断される。しかし、このようなことは映画監督に限ったことではもちろんなく、社会参加をしている人が本来持っている「政治性」に過ぎない。日本という国の中だけにいると意識せずに済んでしまう、というだけのことである。少なくともヨーロッパの映画祭においては、こちらの方がスタンダードである。今僕はその“しきたり”に従っている。もちろん公式会見や壇上のスピーチではそういった行為は避ける。「作った映画が全てだ」という考え方がやはり一番シンプルで美しいと思うから。しかし、これは個人的な好みの問題でしかない。個別の取材で記者に問われれば、専門家ではないが…と断りを加えた上で(この部分は大抵記事からはカットされる)自分の社会的・政治的なスタンスについては可能な限り話す。そのことで自分の作った映画への理解が少しでも深まればと思うからである。これを「政治的」と呼ぶかどうかはともかくとして、僕は人々が「国家」とか「国益」という「大きな物語」に回収されていく状況の中で映画監督ができるのは、その「大きな物語」(右であれ左であれ)に対峙し、その物語を相対化する多様な「小さな物語」を発信し続けることであり、それが結果的にその国の文化を豊かにするのだと考えて来たし、そのスタンスはこれからも変わらないだろうことはここに改めて宣言しておこうと思う。その態度をなんと呼ぶかはみなさんにお任せいたします。

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
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