聞き終わって眠りに就くころは、東窓の硝子(ガラス)は早くもほの暗くなって、笛の音も絶えたが、この夜、イイダ姫が面影に見えた。その騎(の)った馬がみるみる黒くなったのを怪しく思ってよく視ると、人面で欠唇である。しかし、夢の中の気持ちでは、姫がこれに騎っているのが世間普通のことのように思われて、しばらくまた眺めていると、姫と思ったのは「スフィンクス」の首で、瞳の無い眼を半ば開いている。馬と見たのは前足をおとなしく並べた獅子である。さてこの「スフィンクス」の頭の上には鸚鵡が止まって、私の顔を見て笑う様子が実に憎々しい。
早朝に起きて、窓を押し開けると、朝日の光が対岸の林を染め、微風はムルデ河面に細紋を描き、水に近い草原には、一群の羊がいる。萌黄色の「キッテル」という服を裾短く黒い脛をあらわにした子供でとても背の低い者が、赤毛の蓬髪をふり乱して、手にした鞭を面白そうに鳴らした。
早朝に起きて、窓を押し開けると、朝日の光が対岸の林を染め、微風はムルデ河面に細紋を描き、水に近い草原には、一群の羊がいる。萌黄色の「キッテル」という服を裾短く黒い脛をあらわにした子供でとても背の低い者が、赤毛の蓬髪をふり乱して、手にした鞭を面白そうに鳴らした。
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