夕暮れに城に帰ると、少女らが笑いさざめく声が、石門の外まで聞こえる。馬車を停めたところへ、はや馴染みになった末の姫が走って来て、「姉君たち、クロケット(クローケー)の遊びをしてなさるので、あなたも仲間に入りませんか」と私に勧めた。大隊長が「姫君の機嫌を損じなさるな。私一個人としては、服を着替えて休みたい」と言うのを後にして姫に従って行くと、尖塔(ピラミッド)の下の庭園で姫たちが今遊びの最中である。芝生のところどころに黒鉄(くろがね)の弓を伏せて植えおいて、靴の尖(さき)で押さえた五色の球を、小槌を揮(ふる)って横ざまに打ち、その弓の下をくぐらすと、上手い者は百にひとつも失敗しないが、下手な者は誤って足などを打ったとあわてふためく。私も正剣を解いてこれに混じり、打っても打っても球はあらぬ方向へだけ飛ぶのが不本意である。姫たちが声を併(あわ)せて笑うところへ、イイダ姫がメエルハイムの肘に指先を掛けて帰ってきたが、うち解けていると思われる様子も見えない。
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