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天国の鍵12

その十二 作者のお説教や言いわけなど

 山脈を越えるまでに、本当はずいぶん時間もかかり、いろんな出来事もあった(ハンスやグスタフが崖から落ちかかったり、ジルバが雌猿を見つけてのぼせてプロポーズしてふられたり、パロが行方不明になったり)のですが、少し話を飛ばします。起こったことのすべてを書いていては、たった一日の出来事を書くだけでも世界一長い小説になりますからね。それをやろうとした文学者もいますけど。
 さて、ハンスたちはやっとのことで大山脈を越えてグリセリードに到着(とうちゃく)しました。グリセリードといってもひじょうに広くて、今のアジア大陸全体だと考えてください。つまり、中国もインドもソビエト連邦もすべてふくむ広大な国です。もっとも、そのほとんどは砂漠や草原、北のほうやずっと南のほうは大森林ばかりで、人間が住むところはわずかなものです。
 グリセリードを治めているのはシルヴィアナという女王ですが、本当はロドリーゴという宰相(さいしょう、総理大臣みたいなものです)が政治のすべてを行い、女王はかざりみたいなものでした。こういうことはよくあることで、みなさんが大きくなったら、世の中はうわべと中味のちがいがずいぶん大きいことにおどろくでしょう。うたがいを持たないすなおな気持ちはたしかに美しいものですが、はっきり言ってこの世は、だます人間とだまされる人間、そしてだましもだまされもしない人間の三種類がいます。みなさんは前の二つではなく、最後の種類の人間になってください。つまり、かくれたものを見抜ける人間になることです。汚いものだけではありません。愛情や、他人の本当の人間性も、見えない人には見えません。サン・テグジュペリという人が言うように、見えないものこそが大事なのです。ついでに言っておくと、ものが見えない、わからないというのは、自分のせいであって、だから相手が悪いとか無価値(むかち)だと考えないことです。見えるまで、わかるまでには時間がかかることが多いのです。あわてて答えをだすのはテストの時だけです。人生の答えはゆっくりだすこと。
 さて、グリセリードにはいってもしばらくは人里は見えません。山を下りてずいぶん歩くと、やがて小さな村が見えましたので、三人と四匹(ジルバ、ピント、グスタフと、やっともどってきたパロです)はその村にはいりました。
 断っておきますが、この話はあくまでお話ですから、たとえアジアがモデルでも、本当のアジアの風俗(ふうぞく、人々のようすやくらしかたです)とはだいぶちがいます。アジアの人間がシルヴィアナとかロドリーゴなんて名前じゃあ本当はおかしいのですが、これは自分の気に入った名前をつけただけのことです。
 だから、グリセリードのようすを想像するなら、知識のある人は、中国がスペインかどこかに征服されていたら、と想像してください。つまり、地形的にはアジアですが、文化や風物はアジアとヨーロッパの混合です。そして、どこの世界でも同じですが、支配者がいて、庶民(しょみん、ふつうの人々です)がいるわけです。

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酔生夢人
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男性
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仙人
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考えること
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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