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天国の鍵9

その九 魔法使いロレンゾ

 ハンスはこれまでこんなごちそうは食べたことがありません。しかも、食後には、砂糖のはいったケーキまででてきました。砂糖どころかハチミツだってふつうの人間にはめったに食べられないころですから、ハンスにとっては夢のようです。
 食事の前に、二階からひとりのおじいさんがおりてきていましたが、そのおじいさんはハンスを見て、少しおどろいたような顔をしました。ハンスのほうは、むこうがなんでおどろいたのかわかりません。
「そうか、お前たちはグリセリードに行くのか。わしももう少し若かったらいっしょに行ってみたいところだが、最近めっきり足腰(あしこし)が弱くなってな。もう長旅はむりじゃ」
 老人はロレンゾとよばれてましたが、そのロレンゾが言うと、ピエールが聞きました。
「若返りの魔法ってやつはないのかよ」
「あるにはあるが、人間、老いるときには老いるほうがいいのじゃよ。無理に命をひきのばすのは、やらねばならないことがある時だけだ。わしはじゅうぶん生きたから、もうまんぞくじゃ」
「そういえば、ずいぶん老いぼれたようだぜ」
「ピエール!」
とヤクシーが注意します。でも、この話だと、このおじいさんは魔法使いのようです。ハンスは思い切って聞いてみました。
「おじいさんは魔法使いなのですか?」
「そうじゃよ。この国でも一番えらい魔法使いじゃ」
「あれ? ぼくのお師匠のザラストもそう言ってましたよ」
「ザラストか、あれもなかなかやるが、賢者の書が無ければふつうの魔法使いじゃ。その賢者の書はわしがあいつにやったんじゃよ。わしにはもう用がないでの」
ハンスは部屋のすみでリンゴを食べているジルバを見ました。ジルバが言っていた魔法の本とはその賢者の書のことでしょう。
「おじいさん、ぼくに魔法を教えてください」
「お前も魔法使いであることはわかっとったよ。だが、魔法というものは、やりかたを聞いて、すぐにできるものではない。いろいろためして、そのうちにこれだ、というものを自分でつかむしかないのだ。一つができれば、次のものもやりやすくなる。そんなふうに少しずつ力をつけていくのじゃ。体を動かすのとおなじじゃよ。心の使い方を工夫するのじゃ。ある意思をもってなにかをすれば、それがある時、きゅうにできるようになる。すると、それがこれまでできなかったことのほうが不思議に思えるのじゃ」
 ロレンゾの言う事は、ハンスにはよくわかりません。ハンスのほしいのは、呪文をとなえたら、なんでもできるような魔法なのです。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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