急性硬膜下血腫の原因や症状
編集部:
急性硬膜下血腫とはどのような病気ですか?
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫とは、頭部外傷により脳を覆っている硬膜と脳の間に出血が起こり、血腫が生じることを指します。受傷直後から意識障害を伴うことも多いのが特徴です。血腫量が多く、脳への圧迫が強い場合には血腫除去術や開頭減圧術などの治療を行います。
編集部:
発症する原因を教えてください。
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫の主な原因は、頭部外傷によるものです。例えば、交通事故や転倒した際の頭部に強い衝撃を与えるなどの頭部外傷が挙げられます。また、高齢者の場合は外傷だけでなく、血管壁が硬いことや高血圧も血管破裂の原因となります。
編集部:
どのような症状がありますか?
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫の症状には以下の6つがあります。
・頭痛
・呼吸困難
・意識障害
・呼吸停止
・舌や手足の麻痺
・瞳孔散大
それぞれについて以下で詳しくみていきましょう。
1つ目の代表的な症状に頭痛が挙げられます。最も一般的な初期症状が急激な頭痛で、強い痛みや圧迫感を覚えたりします。
2つ目は呼吸困難です。血腫発生の影響により中枢神経系のバランスが崩れ、呼吸中枢に影響を与えます。その結果、呼吸困難を引き起こします。
3つ目は意識障害です。呼吸障害と同様に中枢神経のバランスが崩れることにより、意識障害が起きます。意識障害は急性硬膜下血腫の症状の中で最も深刻な症状です。
4つ目は呼吸停止です。重度の頭蓋内圧亢進により、最終的に呼吸が停止します。
5つ目は舌や手足の麻痺です。発生した血腫が脳神経や脊髄神経を圧迫し、障害を与えることで、舌や手足に麻痺を生じることがあります。
6つ目は瞳孔の散大です。症状のひとつとして、瞳孔の散大を生じることがあります。この場合、重度の脳圧の上昇を示しています。
急性硬膜下血腫の検査や治療
編集部:
急性硬膜下血腫が疑われるときに行われる検査は?
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫ではCT検査とMRI検査が一般的に行われます。以下でそれぞれについて詳しく解説していきます。
1つ目のCT検査は、最も一般的な急性硬膜下血腫の診断方法であり、高精度で迅速な診断が可能です。CT検査は頭蓋骨内のX線像を数多く撮影し、パソコンで三次元的な画像を生成するもので、異常腫瘤と異常血管や血流量の増減を確認できます。
2つ目のMRI検査(磁気共鳴画像法)は、CT検査よりも高い解像度で、組織の柔らかい部分の検査に適しています。MRI検査は磁気を利用して、脳の内部構造の詳細な画像取得が可能です。硬膜下血腫の診断にも使用されていますが、CT検査に比べて撮影に時間がかかるため、緊急性のある診断にはあまり使用されません。また、脳血管撮影検査が行われる場合もあります。
脳血管撮影検査は、異常な血流量・血流速度・血管の形状を調べられ、硬膜下血腫の診断に役立ちます。血管造影剤を用い、X線装置で撮影された脳血管を詳細に調べられます。
編集部:
どのように診断されますか?
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫は、CT検査やMRI検査などの検査結果と症状を総合的に評価し、診断されます。急性硬膜下血腫の症状は、急性の頭痛・意識障害・嘔吐・片麻痺・瞳孔異常(散大・対光反応遅延)などです。これらの症状と、患者の過去の病歴や現在の症状、脳神経検査などを総合的に評価して診断がなされます。
編集部:
治療方法を教えてください。
甲斐沼先生:
治療方法には3つの方法があります。
1つ目は手術です。急性硬膜下血腫の初期段階で発見され、症状が進行していない場合には、緊急手術が行われます。手術は病変部を肉眼で確認しながら、血腫を切開して除去することが可能です。病状の回復のためにも、可能な限り早期の手術を行うことが重要です。
2つ目は穿頭(せんとう)です。血腫発生部の穿頭を行い、硬膜下洗浄を行います。血腫の広がりや大きさによっては開頭手術が必要となりますが、穿頭の場合は、大きく開頭する必要がないのがメリットです。
3つ目に硬膜下ドレナージが挙げられます。硬膜下ドレナージとは、硬膜下血腫腔にドレーンを挿入し、体外へ血液を導く方法です。この方法は治療時間が短く、入院期間を短縮するのがメリットです。また、硬膜下ドレナージは手術や穿頭と併用して行われることもあります。
編集部:
どのような方法で手術が行われますか?
甲斐沼先生:
手術は開頭血腫除去術と呼ばれる血腫を取り除く方法です。全身麻酔をかけた後、血腫の発生部の頭皮をメスで切開し、頭蓋骨を取り除きます。その部分から手術用顕微鏡を使用して血腫を除去します。一時的に取り外した頭蓋骨を戻し閉頭したら、手術が終了です。
急性硬膜下血腫の予後や後遺症
編集部:
急性硬膜下血腫の予後について教えてください。
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫の予後は、以下の要素によって左右されます。
1つ目は症状の重篤度です。急性硬膜下血腫の症状は、場合によっては失神・意識障害・痙攣など重篤なものとなるため、症状の重篤度が高いほど予後は悪くなる傾向にあります。
2つ目は治療の素早さ・適切さです。急性硬膜下血腫の早期発見・適切な治療が行われた場合、予後は比較的良好となることが多いです。しかし、適切な治療が遅れた場合、脳に重大な障害が残る場合もあります。
3つ目は患者の年齢や基礎疾患です。高齢者や基礎疾患のある患者の場合、予後が良くない傾向にあります。
4つ目は病変の大きさ及び位置です。血腫の大きさや位置によって、脳への圧迫や損傷が生じ、予後に影響を与える場合があります。
編集部:
急性硬膜下血腫の余命について教えてください。
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫の余命は、一般的に入院時の意識障害の程度によって異なります。なお、昏睡状態で重症度が高かった場合の死亡率は70%程度です。また、脳の損傷が強い傾向にあることから、受傷後半年~1年経過すると症状は固定し、それ以上の回復は見込めず後遺症となって残るケースが多いです。
編集部:
後遺症が残ることはありますか?
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫の治療が適切に行われた場合、後遺症を残さずに完全な回復を期待できることが多いです。しかし治療が遅れた場合や、病変が大きかった場合は、後遺症が残る可能性もあります。
具体的な後遺症は、脳機能の障害・運動麻痺・感覚障害・認知症・言語障害などです。また病気や手術によるストレスや、入院生活の影響によって、睡眠障害・うつ病・不安障害などの精神的な後遺症が残る場合もあります。
編集部:
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
甲斐沼先生:
急性硬膜下血腫の予後は、症状の重篤度や治療の適切さなど、多くの要素によって影響を受けます。そのため早期の診断と治療が重要であり、患者自身も症状の早期発見・医療機関での適切な治療を受けることが大切です。
後遺症が残った場合でも、早期のリハビリテーションやストレスマネジメントなどで、後遺症を改善することが可能です。治療後も定期的な検査やフォローアップを受けることで、再発や後遺症の予防にもつながります。
編集部まとめ
一般的に頭部外傷によって発生する硬膜下血腫は、発症後の迅速な対応が重要となります。
急性硬膜下血腫は、患者の症状・病歴・病変の大きさ及び位置・年齢によって治療方法や後遺症の状態は異なりますが、いずれにせよ早期の診断や治療が最も大切です。
また発症後の再発や後遺症の予防にも、早期のリハビリテーションなど、早い段階での介入が重要となります。
【この記事の監修医師】
甲斐沼 孟 先生(上場企業産業医)
甲斐沼 孟 先生(上場企業産業医)
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。