だが、そういう現場叩き上げの人間より、大卒の肩書の方が給与も地位も高いのが日本である。医療業界だけの話ではない。
(以下引用)
なぜ多くの医者は「分からない」と正直に言えないのか 絶対にダマされてはいけない
現代ビジネス 5/21(日) 0:01配信
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「特定の病気については、専門外の医者より、患者や看護師のほうがよく勉強していて、知識をもっている場合があります。でも医者というものは、それを絶対に認めたくない生き物なんです。これは医者の性でしょう」(医師で医療ジャーナリストの富家孝氏)
本当は知識がないのに見栄を張る医者がいる。なぜ、医者は患者や看護師の前では決して「分からない」と言えないのだろうか――。
「それは多くの医者が看護師を下に見ているからです。なかには看護師の話を聞かないどころか、意見すら許さない雰囲気を出している医者もいます」(大学病院に勤務する内科医)
こんな振る舞いをされれば、患者は「この医者は当然、看護師以上に知識があり、自分の病気を理解してくれているのだろう」と誤解しがちだ。だが実は何も分かっていない可能性がある。
「患者や看護師の言うことに耳を傾けない医者は、間違った治療をしてしまったり、大きな病気を見逃しやすい傾向にある」と、前出の富家氏は指摘する。
「患者や看護師から『いつもと違う症状だから、別の病気ではないですか』と言われた際の対応には要注意。そこで意地を張って知ったかぶりするような医者は危ない。分からないなら、分からないと素直に言うべきです」
特に研修医の場合だと、ベテラン看護師のほうが頼りになることも多々ある。
東京有明医療大学教授で一般社団法人東洋医学研究所付属クリニックの川嶋朗氏が語る。
「医者と看護師の関係ですが、専門的に経験を積んだ看護師はやっぱり生半可な医者よりも知識があると思います。
私が研修医だったころ、ある入院患者さんの心臓モニターに不正脈を認めました。私がモニターを見つめていると、後ろから専門ナースが、『単発だし、カップリングタイム(心電図の波の間隔)が長いから大丈夫』と的確なアドバイスをしてくれて、驚いた記憶があります」
須磨スクエアクリニック院長で心臓外科医の須磨久善氏も「新人の頃は夜勤の時に、ベテランのナースから教科書より濃い知識を教えてもらいました」と振り返る。
「そりゃ医者のほうが看護師より偉いと思うのもわかるし、病院がそういう構造になっているのは確かです。最終的に責任を負うのは医者ですから。
でも患者さんのことを一番よく分かっているのは看護師ですよ。看護師は基本、患者さんの味方ですからね。優秀な医師はそれをよくわかっているので、『あの患者さん回診の時に何も言わなかったけど、どんな感じ? と常に聞き取りをしています」
海外では日本以上に看護師の存在が大きい国もある。医療ジャーナリストの松井宏夫氏が語る。
「たとえば、オーストラリアでは慣れたベテラン看護師が手術現場で頻繁に医師に指示やアドバイスをします。実際それで手術がうまくなったという日本の外科医もいます。
日本では看護師が医者と同じ医療行為を行うことは法的にできませんが、イギリスでは診察ができる看護師がいる。その現場を見た日本の医師は、あまりの的確さに舌を巻いたそうです。
このような優秀な看護師は、海外だけでなく、もちろん日本にもいます。現在の医療はチームで行うことがほとんど、その中でいかにコミュニケーションを円滑にできるかがミスを減らし、適切な医療に繋がるのです」
最近は病院サイドからも、分からないことは分からないと患者に伝えるよう指導が進んでいる。
「間違った情報を伝えると医療訴訟に発展する可能性があるためです。変なプライドに固執するほうが医者にとってはリスクが高くなる時代になっている」(フリーの麻酔科医・筒井冨美氏)
子宮系の病気を患う50代の女性患者が言う。
「私の主治医はベテランの先生ですが、いつも医学書を机に置いて診察してくれます。私が質問すると、その場で医学書を確認しながら、的確に答えてくれるのです。
医学書を見ながらの診察と言えば、一見、頼りなさそうにも思えますが、私は逆だと思っています。分からないことを誤魔化したり、うろ覚えの知識で話すより、分からないことを認めた上で、きちんと調べて治療方針を決めてくれる先生のほうが信頼できますよ」
自信満々に答える医師が名医というのは誤解で、自分の判断に常に疑問を抱えている医者こそ本当の名医なのだ。
「週刊現代」2017年5月20日号より