第四十七章 誘惑の洞窟
「こうしていてもしょうがないわ。ここまで来て逃げるわけにもいかないんだから、進みましょう」
ヴァルミラが言った。他の三人もうなずく。
やがて、洞窟は広がってきた。獣の匂いがあたりにたちこめている。
「久し振りだね、マルス、あたしに会いに来てくれたのかい」
女の笑い声が響き、洞窟の奥から一人の女が現れた。ペルシャ風のその美女は、魔女アプサラスである。
「こんな獣臭いところで会うなんてつや消しだけど、あんたたちも死んで私たちの仲間になったら、この匂いも気に入るよ」
アプサラスは再び笑い声をたてる。ロレンゾが三人の前に進み出た。
「アプサラスめ、懲りもせずまた現れおったか」
「おっと、呪文は無しだよ。お前達、あいつらをやっつけておしまい!」
洞窟のどこから現れたのか、三匹の魔物がマルスたちの前に飛び出した。羽の生えた猿のような魔物で、それぞれ、体は人間ほどだが、動きが素早い。
マルスたちはロレンゾを囲んで三匹の魔物の攻撃を防ぎ、ロレンゾが思念を凝らす事ができるようにした。
ロレンゾは、光輝の書にあった、魔物を倒す呪文を唱えた。
ロレンゾが魔物に精神を集中して呪文を唱えると、魔物たちは消え去った。
「ちっ」
アプサラスは身を翻して洞窟の奥に逃げた。
四人はその後を追ったが、洞窟の通路はそこから二つに分かれていて、アプサラスの姿を見失った。
「どうしよう。二つとも行ってみるかい」
「二人ずつ、二手に分かれて行こう。その方が早い」
マルスの提案に、他の三人はほとんど考えることなくうなずいた。
ロレンゾとヤクシー、マルスとヴァルミラが組みになって進む事になった。
薄暗い洞窟の中を、ヴァルミラと共に進んでいると、マルスは不思議に胸苦しくなった。
後ろから聞こえるヴァルミラの息遣いが、マルスに官能的な気分を与えるのである。それは、ヴァルミラも同じであるようだ。二人はそれに必死で耐えていたが、やがて、
「マルス……」
ヴァルミラがかすれ声で言った。
「マルス……なんだかおかしい。これは妖魔の罠だ」
マルスは耐え切れず、ヴァルミラの手を握った。二人は闇の中で互いの情欲を感じ、互いに獣となって求め合いたいと願うばかりであった。
同じ頃、ロレンゾとヤクシーも、マルスとヴァルミラと同じような状態になっていた。
「なぜ、こんな老木のような自分が、このような情欲に捉えられるのじゃ」
ロレンゾはヤクシーの体を今にも抱こうとしながら痺れる頭の中でそう考えた。ヤクシーは相手が老人であることも構わず、もはや情欲で我を忘れている。
「しまった! これはアプサラスの仕業じゃ」
ロレンゾは痺れる頭を懸命に集中させ、腕の中のヤクシーから体を突き放した。辺りは先ほどまでの獣の匂いから、濃厚な花の香りに変わっている。しかし、その香りの中には、明らかに人を情欲に誘う成分がある。
ロレンゾは理性を取り戻す呪文を唱えた。ヤクシーもはっと我に返り、なぜ自分がこんな老人にあれほどの情欲を覚えていたのか分からず、きょとんとしている。
「マルス、ヴァルミラを抱いてはいかん! 交わりの絶頂でお前たちの自我は崩壊し、魔物に体を乗っ取られるぞ」
ロレンゾとヤクシーは、マルスとヴァルミラの所に駆けつけた。二人がマルスたちを発見した時、二人は洞窟の地面に横たわり、濃密な口づけをしているところだった。
ロレンゾの呪文で二人は理性を取り戻し、互いに赤くなってそっぽを向いた。
「マルス、何てことをするのよ! マチルダに言いつけるわよ」
ヴァルミラは照れ隠しにマルスに言葉を投げつけた。
「自分だって……」
マルスも反論しようとしたが、言葉にならない。
「さっきマルスが二手に分かれようと言った時には、すでにアプサラスの術にはまりかけていたのじゃな」
四人は少しぎくしゃくした気持ちのままで先に進んだ。
通路はやがて行き止まりになった。その行き止まりの所は奇妙な黒い壁になっており、ドアも何も無い。
「怪しい壁じゃな」
「もしかしたら、この壁は通り抜けられるのじゃないかしら」
ヤクシーが珍しく発言した。マルスが前に進み出た。
「よし、僕が行ってみよう」
「こうしていてもしょうがないわ。ここまで来て逃げるわけにもいかないんだから、進みましょう」
ヴァルミラが言った。他の三人もうなずく。
やがて、洞窟は広がってきた。獣の匂いがあたりにたちこめている。
「久し振りだね、マルス、あたしに会いに来てくれたのかい」
女の笑い声が響き、洞窟の奥から一人の女が現れた。ペルシャ風のその美女は、魔女アプサラスである。
「こんな獣臭いところで会うなんてつや消しだけど、あんたたちも死んで私たちの仲間になったら、この匂いも気に入るよ」
アプサラスは再び笑い声をたてる。ロレンゾが三人の前に進み出た。
「アプサラスめ、懲りもせずまた現れおったか」
「おっと、呪文は無しだよ。お前達、あいつらをやっつけておしまい!」
洞窟のどこから現れたのか、三匹の魔物がマルスたちの前に飛び出した。羽の生えた猿のような魔物で、それぞれ、体は人間ほどだが、動きが素早い。
マルスたちはロレンゾを囲んで三匹の魔物の攻撃を防ぎ、ロレンゾが思念を凝らす事ができるようにした。
ロレンゾは、光輝の書にあった、魔物を倒す呪文を唱えた。
ロレンゾが魔物に精神を集中して呪文を唱えると、魔物たちは消え去った。
「ちっ」
アプサラスは身を翻して洞窟の奥に逃げた。
四人はその後を追ったが、洞窟の通路はそこから二つに分かれていて、アプサラスの姿を見失った。
「どうしよう。二つとも行ってみるかい」
「二人ずつ、二手に分かれて行こう。その方が早い」
マルスの提案に、他の三人はほとんど考えることなくうなずいた。
ロレンゾとヤクシー、マルスとヴァルミラが組みになって進む事になった。
薄暗い洞窟の中を、ヴァルミラと共に進んでいると、マルスは不思議に胸苦しくなった。
後ろから聞こえるヴァルミラの息遣いが、マルスに官能的な気分を与えるのである。それは、ヴァルミラも同じであるようだ。二人はそれに必死で耐えていたが、やがて、
「マルス……」
ヴァルミラがかすれ声で言った。
「マルス……なんだかおかしい。これは妖魔の罠だ」
マルスは耐え切れず、ヴァルミラの手を握った。二人は闇の中で互いの情欲を感じ、互いに獣となって求め合いたいと願うばかりであった。
同じ頃、ロレンゾとヤクシーも、マルスとヴァルミラと同じような状態になっていた。
「なぜ、こんな老木のような自分が、このような情欲に捉えられるのじゃ」
ロレンゾはヤクシーの体を今にも抱こうとしながら痺れる頭の中でそう考えた。ヤクシーは相手が老人であることも構わず、もはや情欲で我を忘れている。
「しまった! これはアプサラスの仕業じゃ」
ロレンゾは痺れる頭を懸命に集中させ、腕の中のヤクシーから体を突き放した。辺りは先ほどまでの獣の匂いから、濃厚な花の香りに変わっている。しかし、その香りの中には、明らかに人を情欲に誘う成分がある。
ロレンゾは理性を取り戻す呪文を唱えた。ヤクシーもはっと我に返り、なぜ自分がこんな老人にあれほどの情欲を覚えていたのか分からず、きょとんとしている。
「マルス、ヴァルミラを抱いてはいかん! 交わりの絶頂でお前たちの自我は崩壊し、魔物に体を乗っ取られるぞ」
ロレンゾとヤクシーは、マルスとヴァルミラの所に駆けつけた。二人がマルスたちを発見した時、二人は洞窟の地面に横たわり、濃密な口づけをしているところだった。
ロレンゾの呪文で二人は理性を取り戻し、互いに赤くなってそっぽを向いた。
「マルス、何てことをするのよ! マチルダに言いつけるわよ」
ヴァルミラは照れ隠しにマルスに言葉を投げつけた。
「自分だって……」
マルスも反論しようとしたが、言葉にならない。
「さっきマルスが二手に分かれようと言った時には、すでにアプサラスの術にはまりかけていたのじゃな」
四人は少しぎくしゃくした気持ちのままで先に進んだ。
通路はやがて行き止まりになった。その行き止まりの所は奇妙な黒い壁になっており、ドアも何も無い。
「怪しい壁じゃな」
「もしかしたら、この壁は通り抜けられるのじゃないかしら」
ヤクシーが珍しく発言した。マルスが前に進み出た。
「よし、僕が行ってみよう」
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