第四十六章 妖魔の宮殿
「では、お前たちにグラムサイトを与えよう」
ロレンゾは物々しげに言った。
「グラムサイトとは?」
マルスが聞いた。
「妖魔を見る力じゃよ。同時に、お前らは魔物の世界の住人となる」
ロレンゾは一人一人の目を覗き込みながら、呪文を唱えた。
「どうじゃな」
「世界が灰色になりました。色がすっかり無くなったみたいです」
四人は外に出た。
まだ昼間だというのに、あたりは薄暗く、世界はすっかり色を失っている。そして、注意して見ると、木陰や家の陰に様々な幽体がいた。多分、死んだ人間や動物の霊だろう。
また、時々ちょろっと動く姿は、小人のように見えるが、その顔はぞっとするほど醜い物がいる。幽霊とは違って、透き通った影ではなく、はっきりとした実体を持っているように見える。
「グールじゃよ。食人鬼じゃ。低級な魔物じゃ」
「ううっ。毎日こんな連中と一緒に暮らすのは御免だわね」
ヴァルミラが言った。
一同は、ある川べりに来た。もっとも、日照りで水はすっかり涸れているが。
「あったな。あそこに魔物の宮殿がある」
なるほど、乾いた川の上に宮殿のようなものが浮かび、岸から橋がかかっている。
「ずいぶん簡単に見つかるんだな」
「入り口はあちらこちらにあるが、どれも同じ場所に続いておるのじゃ。この橋がこの世から魔界へ渡る橋じゃよ。さて、覚悟はいいかな。気をしっかり持てよ」
橋を渡りながら、ロレンゾが最後の訓戒を与えた。
「悪とは、結局は善の欠損に過ぎん。しかし、自分の中に弱い物があると、相手はそれを拡大して、こちらを潰しにかかる。わしがヤクシーとヴァルミラの二人を連れてきたのも、この二人の精神の強さのせいだ。この中で、霊能力という点で魔物に一番弱いのは、もしかしたら、マルス、お前かもしれん。気をつけるんだぞ。まあ、戦うときは、形こそ異形だが、力が強く、生命力の強い巨大な動物を相手にするつもりで戦えばよい」
橋を渡ると、宮殿の門があり、その先は中庭だった。
門の側にいた牛面人身の怪物が、四人を見て、その前に立ちふさがった。
「お前らの親分に用がある。ここを通して貰うぞ」
マルスはガーディアンを抜いて、斬りかかった。
怪物は腕を切り落とされたが、もう一方の手に持った大剣でマルスを横殴りに斬ろうとした。マルスは飛び退ってそれをかわす。
ヴァルミラとヤクシーが両側から怪物に斬りつけ、怪物は地響きを立てて倒れた。
「今のはドモヴォイじゃな。これから、もっと強い奴がどんどん出てくるじゃろう」
ロレンゾが言った。
宮殿の中庭は、ペルシャ風の雰囲気である。しかし、よく見ると、噴水の水は血であり、池の周りの装飾は人の頭蓋骨を並べたものである。おそらく足元の砂も、元は人骨だったものだろう。
池の周りには、向こうの世界でも見たグールたちがあちこちにたむろしているが、特にマルスたちに興味も示さない。死体以外は興味が無いのだろう。
宮殿は粗雑な石造りであり、ほとんど醜いと言っていい奇妙な形態のものである。
一階の大広間に入ると、そこはまるで洞窟の内部であった。
天井からは奇妙な熱帯性のつる草が垂れ下がり、蛇やトカゲがあちらこちらで蠢いている。そして、そこここに白骨化した人間の死体が転がり、草木がそれにまとわりついている。
大広間の中央には、地下への入り口があった。
「いよいよ地獄行き、という感じね」
ヴァルミラが言った。
四人は地下への坂道を下りて行った。周りは光苔のようなものでぼんやりと明るい。
長く続く洞窟は、鍾乳洞にも似ている。実際、天井からは時々水が滴り落ちてくる。
やがて、遠くから、獣の唸り声のような音が響いてきた。
四人は顔を見合わせ、しばらく進むのをためらった。
「では、お前たちにグラムサイトを与えよう」
ロレンゾは物々しげに言った。
「グラムサイトとは?」
マルスが聞いた。
「妖魔を見る力じゃよ。同時に、お前らは魔物の世界の住人となる」
ロレンゾは一人一人の目を覗き込みながら、呪文を唱えた。
「どうじゃな」
「世界が灰色になりました。色がすっかり無くなったみたいです」
四人は外に出た。
まだ昼間だというのに、あたりは薄暗く、世界はすっかり色を失っている。そして、注意して見ると、木陰や家の陰に様々な幽体がいた。多分、死んだ人間や動物の霊だろう。
また、時々ちょろっと動く姿は、小人のように見えるが、その顔はぞっとするほど醜い物がいる。幽霊とは違って、透き通った影ではなく、はっきりとした実体を持っているように見える。
「グールじゃよ。食人鬼じゃ。低級な魔物じゃ」
「ううっ。毎日こんな連中と一緒に暮らすのは御免だわね」
ヴァルミラが言った。
一同は、ある川べりに来た。もっとも、日照りで水はすっかり涸れているが。
「あったな。あそこに魔物の宮殿がある」
なるほど、乾いた川の上に宮殿のようなものが浮かび、岸から橋がかかっている。
「ずいぶん簡単に見つかるんだな」
「入り口はあちらこちらにあるが、どれも同じ場所に続いておるのじゃ。この橋がこの世から魔界へ渡る橋じゃよ。さて、覚悟はいいかな。気をしっかり持てよ」
橋を渡りながら、ロレンゾが最後の訓戒を与えた。
「悪とは、結局は善の欠損に過ぎん。しかし、自分の中に弱い物があると、相手はそれを拡大して、こちらを潰しにかかる。わしがヤクシーとヴァルミラの二人を連れてきたのも、この二人の精神の強さのせいだ。この中で、霊能力という点で魔物に一番弱いのは、もしかしたら、マルス、お前かもしれん。気をつけるんだぞ。まあ、戦うときは、形こそ異形だが、力が強く、生命力の強い巨大な動物を相手にするつもりで戦えばよい」
橋を渡ると、宮殿の門があり、その先は中庭だった。
門の側にいた牛面人身の怪物が、四人を見て、その前に立ちふさがった。
「お前らの親分に用がある。ここを通して貰うぞ」
マルスはガーディアンを抜いて、斬りかかった。
怪物は腕を切り落とされたが、もう一方の手に持った大剣でマルスを横殴りに斬ろうとした。マルスは飛び退ってそれをかわす。
ヴァルミラとヤクシーが両側から怪物に斬りつけ、怪物は地響きを立てて倒れた。
「今のはドモヴォイじゃな。これから、もっと強い奴がどんどん出てくるじゃろう」
ロレンゾが言った。
宮殿の中庭は、ペルシャ風の雰囲気である。しかし、よく見ると、噴水の水は血であり、池の周りの装飾は人の頭蓋骨を並べたものである。おそらく足元の砂も、元は人骨だったものだろう。
池の周りには、向こうの世界でも見たグールたちがあちこちにたむろしているが、特にマルスたちに興味も示さない。死体以外は興味が無いのだろう。
宮殿は粗雑な石造りであり、ほとんど醜いと言っていい奇妙な形態のものである。
一階の大広間に入ると、そこはまるで洞窟の内部であった。
天井からは奇妙な熱帯性のつる草が垂れ下がり、蛇やトカゲがあちらこちらで蠢いている。そして、そこここに白骨化した人間の死体が転がり、草木がそれにまとわりついている。
大広間の中央には、地下への入り口があった。
「いよいよ地獄行き、という感じね」
ヴァルミラが言った。
四人は地下への坂道を下りて行った。周りは光苔のようなものでぼんやりと明るい。
長く続く洞窟は、鍾乳洞にも似ている。実際、天井からは時々水が滴り落ちてくる。
やがて、遠くから、獣の唸り声のような音が響いてきた。
四人は顔を見合わせ、しばらく進むのをためらった。
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