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少年マルス 26

第二十六章 戦いの終わり 

ギーガーは今はたった三名だけで敵と戦っていた。もはや疲労の限界であり、目も見えなくなりそうである。
(もはやこれまでか……)
その時、
「ギーガー、助けにきたぞ!」
声とともに飛び込んできたのはマルスだった。
今にもギーガーに止めを刺そうとしていたシルヴェストルは、横から猛烈なマルスの剣の一撃を受けて、よろめいた。マルスの剣は相手の鎧に当たって跳ね返ったが、打撃は与えている。
「おのれ、小僧め」
シルヴェストルは横殴りに剣を払ったが、マルスはさっとそれをかわし、相手の喉首めがけて突きを入れた。剣は深々とシルヴェストルの喉に刺さり、その体は地に崩れ落ちた。
「シルヴェストルはこの俺が倒したぞ。他に相手になる者はいるか!」
マルスは大声を上げた。
戦闘の指揮者を失った敵兵たちは動揺した。
そこへ町のあらゆるところから手に武器を持った町人たちがわっと現れ、彼らを取り囲んだので、野盗たちは観念した。
盗賊たちは手にした武器を捨てて降伏した。

アンドレは城壁の上に立って、堀の外からこちらを眺めている盗賊の残党に向かって呼びかけた。
「盗賊ども、これが見えるか」
アンドレの合図で、横にいたギーガーが、槍を掲げてみせる。
その槍の先に突き刺さっているのは、……シルヴェストルの首である。
「見てのとおり、城内に入ったお前らの仲間はすべて討ち取った。お前らは、ここから立ち去るなら良し、立ち去らねば、同じ目にあわせよう。さあ、どうする」
赤髭ゴッドフリートは槍の先の首が本物のシルヴェストルであることを確認すると、傍らの「血まみれジャック」に向かって、肩をすくめてみせた。
「やれやれ、シルヴェストルもついに年貢を納めたか。さて、どうする。もう一丁やってみるか、それとも退散して捲土重来といくか?」
ジャックは頭髪の薄い貧相な頭を少しかしげて考え、ぺっと地面に唾を吐いて言った。
「この人数ではちょっとな。まあ、忌々しいがしばらくよそに行って小遣い稼ぎでもすることにしよう。そのうち、仲間を増やして、今度はこの町の人間を皆殺しにしてやろうぜ」
「俺もそいつに賛成だ。おーい、その首預かっときな。今度来た時返してもらうぜ」
高笑いを上げて、赤髭ゴッドフリートは馬に乗り、残った五十人ほどの仲間を引き連れて悠々と去っていった。

「さて、こいつらをどうする」
イザークが言った。こいつらとは、捕虜にした敵兵である。その数は戦闘の間もアンドレが正確に把握していたとおり、シルヴェストルを除いて二十六名である。
「殺すべきだ」
と言ったのはヨハンセンである。
「生かしておいて、町の兵隊にしてはどうだ。わしが鍛えてやるぜ」
とギーガーが言う。彼は、この戦闘で部下のほとんどを失っており、手下が欲しいのである。
「そいつは危険すぎる。狼は人に飼われても犬にはならん」
他の参事が言った。
「しかし、降伏した者を殺すというのは、道義に外れる」
イザークが言ってアンドレを見た。
アンドレは黙っている。
(殺すべきだ)
とマルスは思ったが、何も言わなかった。参事の一人が言ったように、悪に染まった人間の性根は変わらないものだという気がしたのである。しかし、イザークの言うとおり、降伏した者を殺すことは、道義には外れている。もともと道義と無縁な野盗相手に道義を守る必要があるかというのも疑問ではあるが。
「私には分かりません。人生経験の豊富な参事会の皆さんで決めてください」
アンドレは言った。
参事会の決定は、生かして町の傭兵にする、というものだった。ギーガーは失った部下の代わりが手に入って大喜びだったが、マルスの心には一抹の不安が残った。
「お前らの命はこの俺が預かった。いいか、これからは真人間として町のために働くんだ。少しでも悪事を働いた者、町の者に迷惑をかけた者はその場で俺が殺す。それでよけりゃあ俺の手下になれ。それがいやなら、この場で処刑だ」
こう言われて処刑を選ぶ人間はいない。捕虜たちはすぐさま、ギーガーの部下になることに同意した。
マルスはギーガーを側に呼んで言った。
「あの者たちに決して気を許すなよ。しばらくは囚人として扱って、武器も持たすな。少しでも危険そうな奴はすぐに殺すんだ」
「大丈夫だ。俺はこういう連中の扱いは慣れている」
ギーガーは思いがけないマルスの厳しい言葉に驚いたが、笑って答えた。
マルスはギーガーの顔を見た。その顔は自信に溢れていた。

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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