(以下自己引用)
社会の遠近法
第二回 ホリエモン流の金儲け(物の価値とは何か)
資本主義社会の落とし子というか、金の亡者というか、金、金、金で世間を騒がせたホリエモンこと堀江貴文が逮捕された。
逮捕されるまではマスコミの寵児であり、若者のヒーローでもあった男の転落を、ジェラシー交じりにいい気味だと喜ぶ人間も多いだろうが、この逮捕は法的には不当な行為であるように見える。マンション耐久偽装問題や狂牛病牛肉輸入問題から世間の目を逸らすとか、あるいはもっと大きな問題が水面下で進行している可能性もある。
それはともかく、今回のテーマは、ホリエモン流の錬金術である。詳しくは別紙資料を見てもらうが、そちらは難し過ぎるので、私が直感的に捉えたホリエモン流錬金術の基本原理を書いてみよう。とは言っても、金儲けに縁の無い貧乏人の考えだから、あまり信頼できないかもしれない。また、仮に私の理解が正しかったとしても、今回の事件を契機に法律改正が行われるはずだから、君たちが将来ホリエモンと同じ事をしようとしても多分無理だろう。しかし、やったことの是非はともかく、金儲けに彼くらい頭を使えば、金儲けができるのは確かである。世間の人間のほとんどは、彼ほど真剣に金儲けに取り組んではいない。
さて、ホリエモンの金儲けの極意は簡単である。「自分で自分の会社の値打ちを決めればいい」というものだ。会社の値打ちとは、具体的には株価である。株価は、会社の営業実績とは無関係に世間の人間の思惑で決まる。100円の値打ちしかない物を、1億円の値段で買ったとしても、それは買った当人の責任である。たとえば、古ぼけた汚い茶碗を、千利休が愛用した物だとかいう理由で1000万円で買うといったことはごく当たり前に行われている。つまり、物の価値とは、基本的に主観的なものでしかないのである。ある物の価値が世間全体の共通判断になった時、それを「相場」という。いわゆる「通り相場」という奴だ。
さて、物の価値が主観的なものであるなら、自分の会社の価値は自分で決めればいい、というのがホリエモンの考えの基本である。その際に、会社の実態を知られたら、世間の「相場」に落ち着いてしまうので、いかにも将来性ありげな「IT企業」を名乗り、会社の業務内容は躍進を続けているように粉飾決算を行う。ただそれだけのことで、世間の多くの馬鹿な金持ちはライブドアという無内容な会社の株を買ってくれたのである。アメリカにおけるIT企業も、そのほとんどは赤字企業であるが、やはり日本と同様に、「IT企業」であるというだけで株価は高値を更新し続け、やがてバブルがはじけたのである。だが、日本の投資家のほとんどは、その程度の社会的知識も無く、ただ金だけがあるという連中だったのである。
もう少し詳しくホリエモンの手法を説明しよう。少し金と度胸(または無謀さ)があれば誰でも簡単にできる方法だ。
まず株式会社を作る。これをAとする。次に、別の株式会社を別人名義で作るか買収する。これをBとする。このどちらも、事業実態が無くてもいい。ただし、世間的には、成長しそうな会社の印象を与えるものであること。「オンザエッヂ(端っこ)」などという会社名は、すぐにも倒産しそうだから駄目である。
次に、会社の決算(事業成績)を粉飾して、証券取引所の資格審査をくぐり抜け(ここは少し難しい。証券会社内部の人間と手を組むこと。)、一部上場する。つまり、一流企業の肩書きを手に入れる。ここで、ポイントは、上場前に、先に書いたAB二つの会社の間で株式の売買を行うことである。この二つの会社は同一人物の会社だから、右手から左手に物を移動させるようなもので、現金すらいらない。もとのAの株価が100円だとすれば、それをたとえば一株1万円で売ったことにする。つまり、この取引で、Aという会社の株が一株1万円で売られたという取引実績ができたわけだ。ということは、Aという会社の世間での相場は、いきなり100倍になったのである。これ以降、世間の人間がAの株を買う場合は、「現在の株価」である1万円が基準になる。で、会社の実態も知らずに、Aの株価が短期間で100倍になった、これは成長企業だと思って、慌ててAの株を買う馬鹿が無数にいるわけである。それでAの株価はさらに上がることになる。
まさか世間の人間はそれほど馬鹿ばかりじゃないだろう、と思うかもしれないが、世間にはかなりな割合で馬鹿がいるのである。大会社の社長や政治家の中にも馬鹿は無数にいる。(また、世の中の金の回り方は、上に行けば行くほど丼勘定になるものなのだ。たとえば、ジェット戦闘機一機の相場なんて誰も判断できないのだから、売る側が10億円だと言えば、それで買うのである。どうせ政府の金であり、どうせ馬鹿な国民の税金から出る金なのだから、それを支払う役人の懐が痛むわけではない。それに、国が高い値段で買えば、当然、担当役人は、相手企業から賄賂が貰えるのである。とにかく、軍需産業ほど丼勘定で、儲かる仕事はない。問題は、世の中が平和になると困ることだが。)
ホリエモンの手法に戻ろう。
彼の錬金術のもう一つの手段が株式分割である。株には詳しくないから、適当な推測で書くが、多分こんなことだろう。
さて、Aの株価は前に書いたように100倍になって1万円になった。ここで、会社が発行する株式の数を100倍にする。つまり、一株当りの実質価値は当然、100分の1に下がったはずだ。しかし、「自分の会社の価値は自分が決める」という原則に従って、それを元の値段で売ることにする。前の段階で、株式総数が100株だったとして、それを100分割すれば、株式総数は10000で、この時点で、会社の見かけの価値はさらに100倍になったわけである。最初の一株100円で100株の段階から考えれば、会社の「価値」は1万倍になったわけである。
これがホリエモンの錬金術である。細かい間違いはともかく、原理としてはこれに近いものだと思われる。
株式投資というのは、基本的にギャンブルである。もともとは、成長しそうな企業の株を買って、その会社が成長すれば、株の配当を受けるというのが、本来の株式投資の在り方である。だが、現在の株式投資は、安値で買って、高値で売り、その差額で儲けるという、短期的なギャンブルになっている。金に余裕のある連中の遊びであり、そんな連中が株で損したところで世間の真面目な人間が困るわけではない。ライブドアに投資して損したと騒ぐのは、自分の馬鹿さ加減を世間に示すようなものである。
(おまけ) 会社用語の基礎知識
1 株主:会社の株(分割された所有権と思えばいい)を買うことで、会社に事業資金を提供している人。つまり、実質的な会社の所有者である。普通は複数の株主がいて、定期的に株主総会を開いて会社全体の経営方針を決定する。
2 社長:会社を経営する最高責任者。会社の事業の最終的判断は彼が行うが、会社の所有者でもあるオーナー社長と、雇われ社長の区別がある。最近は、社長の業務を現場業務に限定してCOO(最高執行責任者)と呼び、社長の上にCEO(最高経営責任者:会長に相当)を置く企業が増えている。
3 取締役:株主総会で選任され、株主の意思を代行する形で会社業務の意志決定に加わり、経営監督を行う。業務を実行する人間と監督する人間が同じであると、経営がルーズになりがちなので、最近は、社外の人間を取締役にすることも多い。業務の監督を仕事の中心とするのは、監査役という。しかし、現実には取締役と監査役の区別はあいまいなようである。
4 損益計算書:一会計期間の企業の経営成績を表示する計算書。つまり、会社がその間赤字だったか、黒字だったかを示す計算書である。
5 貸借対照表:企業の一定時点における財政状態を示す計算書。バランスシートと言う。つまり、持っている金や物(資産)と、借りている金とを対照して並べた表である。普通は、借金(プラス自己資本)と手持ち資産・資本は同額である。というのは、人から金を借りたら、その金は自分の手元にあるので、借金と手持ちの金は同額だからである。仮に、その金を物に替えても、その物も資産として計上されて、借金と釣り合うことになる。つまり、まともな経営をしている限り、バランスシートは、まさしくバランスがとれていることになる。もしも経営者が、借りた金を競馬にでも使ったら、借りた金の一部が行方不明になって、このバランスは崩れるわけである。ただし、こうした「使途不明金」はけっこう巨大なもののようだ。というのは、たとえば暴力団に脅されて金を出すなど、企業には表に出ない費用が結構あるものだし、また、会社の金を盗む社員や役員も結構いるからである。
社員:会社で働く労働者を言う場合と、株主を言う場合がある。