子どもと貧困 頼れない親

 「それ、奴隷だよ」


 北関東の定時制高校のベテラン教員の言葉を、3年の女子生徒(18)はすぐにはのみ込めなかった。


 生徒は2013年から、自動車部品の加工工場に住み込みで働いていた。14年、定時制に入学し、通学しながら週5日、計30時間の勤務。給与明細はもらっておらず、手取りは月2万円弱。そこから定期代を払い、食事は1日1食、袋麺を食べていた。社長にあてがわれた家は外から施錠できず、水はさび臭くて飲めなかった。


 「時給も知らない」という生徒の話を聞き、教員は15年春、校内で支援会議を開いた。「早く今のところを出て、新しいバイトと家を見つける」と方針を決めて提案した。


 「授業に必要」と言って生徒が出してもらった給与明細で、時給は分かった。最低賃金は上回り、勤務日数も合っていたが、詳細がわからない生活費など約4万円が引かれていた。学費も「会社から納める」として1万円引かれていたが、ときどき滞納されていた。


 生徒は定時制の保証人になってくれた社長に恩を感じていた。でも、満足な食事ができないのはつらく、15年秋、黙って逃げた。


 生徒はもともと実家に住んでいたが、中学卒業と同時に追い出された。連れ子がいた継母に「高校に行きたいなら施設に入って。嫌なら一人で生きて」と言われた。児童養護施設で荒れた姉を見て一人を選んだ。


 継母に用意されたアパートに移り、飲食店でバイトした。バイト代は継母管理の口座に入り、手元に届くのは月5千円だけだった。


 実家に頼らず高校に行こうと保証人になってくれそうな親戚を探すうち、知り合った人から「働いたほうがいい」と紹介されたのが、その工場だった。


 今は交際相手(24)名義で借りた部屋に住む。スーパーでバイトし、収入は月11万円。食事が少しましになり、カレーも作る。


■リストカット繰り返す


 関東の高校1年の女子生徒(15)は2年前、東京・新宿のレンタルルームで売春し、男から5千円を受け取った。「これで上履きが買える」と思った。


 母子家庭で、母親は生活保護を受けながら、ほぼ交際相手の家で暮らす。生徒もそこで寝泊まりし、日常的に暴力や罵倒を受ける。