俳句 | 季語 | 出典 |
はしりきて二つの畦火相博てる | 畑焼く | 寒雷 |
かなしめば鵙金色の日を負ひ来 | 鵙 | 寒雷 |
枯れゆけばおのれ光りぬ枯木みな | 枯木 | 寒雷 |
蟻殺すわれを三人の子に見られぬ | 蟻 | 寒雷 |
道問へば露地に裸子充満す | 裸 | 寒雷 |
鰯雲人に告ぐべきことならず | 鰯雲 | 寒雷 |
さむきわが影とゆき逢ふ街の角 | 寒し | 寒雷 |
寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃 | 寒雷 | 寒雷 |
長き長き春暁の貨車なつかしき | 春曉 | 寒雷 |
蟇誰かものいへ声かぎり | 蟇 | 颱風眼 |
蝸牛いつか哀歓を子はかくす | 蝸牛 | 颱風眼 |
白地着てこの郷愁の何処よりぞ | 白絣 | 颱風眼 |
炎天下くらくらと笑わききしが | 炎天 | 颱風眼 |
蚊帳出づる地獄の顔に秋の風 | 秋風 | 颱風眼 |
灯を消すやこころ崖なす月の前 | 月 | 颱風眼 |
山蟹のさばしる赤さ見たりけり | 蟹 | 穂高 |
本売りて一盞さむし春灯下 | 春灯 | 穂高 |
さえざえと雪後の天の怒濤かな | 雪 | 雪後の天 |
春愁やくらりと海月くつがへる | 春愁 | 雪後の天 |
春寒く海女にもの問ふ渚かな | 春寒 | 雪後の天 |
牧の牛濡れて春星満つるかな | 春星 | 雪後の天 |
鳥雲に隠岐の駄菓子のなつかしき | 鳥雲に入る | 雪後の天 |
春田打つかそかな音の海士郡 | 春田 | 雪後の天 |
隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな | 木の芽 | 雪後の天 |
春陰や巌にかへりし海士が墓 | 春陰 | 雪後の天 |
牡丹の芽炎となりし怒濤かな | 牡丹の芽 | 雪後の天 |
十二月八日の霜の屋根幾万 | 霜 | 雪後の天 |
生きてあれ冬の北斗の柄の下に | 冬北斗 | 雪後の天 |
毛糸編はじまり妻の黙はじまる | 毛糸編む | 火の記憶 |
燕はやかへりて山河音もなし | 燕帰る | 火の記憶 |
子がかへり一寒燈の座が満ちぬ | 寒燈 | 火の記憶 |
冴えかへるもののひとつに夜の鼻 | 冴返る | 火の記憶 |
火の奧に牡丹崩るるさまを見つ | 牡丹 | 火の記憶 |
九十九里の一天曇り曼珠沙華 | 曼珠沙華 | 野哭 |
雉子の眸のかうかうとして売られけり | 雉 | 野哭 |
飴なめて流離悴むこともなし | 悴む | 野哭 |
死ねば野分生きてゐしかば争へり | 野分 | 野哭 |
凩や焦土の金庫吹き鳴らす | 凩 | 野哭 |
死や霜の六尺の土あれば足る | 霜 | 野哭 |
天の川怒濤のごとし人の死へ | 天の川 | 野哭 |
炎昼の女体のふかさはかられず | 炎昼 | 野哭 |
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる | 鮟鱇 | 起伏 |
蜥蜴交るくるりくるりと音もなく | 蜥蜴 | 起伏 |
猫と生れ人間と生れ露に歩す | 露 | 起伏 |
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ | 木の葉 | 起伏 |
霜夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び | 霜夜 | 起伏 |
黴の中言葉となればもう古し | 黴 | 山脈 |
税吏汗し教師金なし笑ひあふ | 汗 | 山脈 |
チンドン屋枯野といへど足をどる | 枯野 | 山脈 |
落葉松はいつめざめても雪降りをり | 雪 | 山脈 |
しづかなる力満ちゆきばつたとぶ | 飛蝗 | 山脈 |
玉虫はおのが光の中に死にき | 玉虫 | 山脈 |
春の暮暗渠に水のひかり入る | 春の暮 | 山脈 |
原爆図唖々と口あく寒鴉 | 寒鴉 | まぼろしの鹿 |
大き茶碗よわが鼻入れて冬温し | 冬暖 | まぼろしの鹿 |
掌にありて遠くはるかに春の貝 | 春 | まぼろしの鹿 |
墓二三桜と光る深田打ち | 田打 | まぼろしの鹿 |
夜の椿果肉のごとき重さもつ | 椿 | まぼろしの鹿 |
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく | 猫の恋 | まぼろしの鹿 |
力尽きたる色独楽の色わかれゆく | 独楽 | まぼろしの鹿 |
つぎつぎに子ら家を去り鏡餅 | 鏡餅 | まぼろしの鹿 |
花を拾へばはなびらとなり沙羅双樹 | 沙羅双樹 | まぼろしの鹿 |
まぼろしの鹿はしぐるるばかりかな | 時雨 | まぼろしの鹿 |
葱きざむこの音とわが四十年 | 葱 | まぼろしの鹿 |
霧にひらいてもののはじめの穴ひとつ | 霧 | 吹越 |
はこふぐの負ひて生きたる箱のさま | 河豚 | 吹越 |
青虫のひたゆくは言持たぬため | 青虫 | 吹越 |
きらきらと目だけが死なず鬼やんま | 鬼やんま | 吹越 |
湯に透きて寒九の臍ののびちぢみ | 寒の内 | 吹越 |
口見えて世のはじまりの燕の子 | 子燕 | 吹越 |
水を出て白桃はその重さ持つ | 桃 | 吹越 |
いなびかり女体に声が充満す | 稲妻 | 吹越 |
おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ | 朧夜 | 吹越 |
鬼おこぜ石にあらずと動きけり | 鬼おこぜ | 吹越 |
バビロンに生きて糞ころがしは押す | 黄金虫 | 吹越 |
チグリスのうつつの蛙鳴きにけり | 蛙 | 吹越 |
ぽこぽこと暗渠出できし茄子の馬 | 茄子の馬 | 吹越 |
吹越に大きな耳の兎かな | 兎 | 吹越 |
おぼろ夜の鬼なつかしや大江山 | 朧夜 | 怒濤 |
ありまきの雌だけの国あをあをと | 蟻巻 | 怒濤 |
こぼれねば花とはなれず雪やなぎ | 雪柳 | 怒濤 |
降りだして雪あたたかき手毬唄 | 手毬 | 怒濤 |
牡蠣の口もし開かば月さし入らむ | 牡蠣 | 怒濤 |
牡丹の奥に怒濤怒濤の奥に牡丹 | 牡丹 | 怒濤 |
ふくろふに真紅の手毬つかれをり | ふくろう | 怒濤 |
天の川わたるお多福豆一列 | 天の川 | 怒濤 |
たそがれや蹠はなれし瓜の種 | 瓜 | 怒濤 |
つながれてゐて風船の土を打つ | 風船 | 怒濤 |
朧にて昨日の前を歩きをり | 朧 | 怒濤 |
霜柱どの一本もめざめをり | 霜柱 | 怒濤 |
どこまでも丸き冬日とあんこ玉 | 冬日 | 雪起し |
百代の過客しんがりに猫の子も | 猫の仔 | 雪起し |
羽抜鶏目玉ふたつの夕焼くる | 羽抜鶏 | 雪起し |
風鈴とたそがれてゐしひとりかな | 風鈴 | 望岳 |
目ひらけば母胎はみどり雪解谿 | 雪解 | 望岳 |
双六の母に客来てばかりをり | 双六 | 望岳 |
日本語をはなれし蝶のハヒフヘホ | 蝶 | 死の塔 |
熱沙上力尽きたる河は消ゆ | 夏の河 | 死の塔 |
熱風や土より湧きし仏陀の顔 | 熱風 | 死の塔 |
千年の泉ごぼりとたなごころ | 泉 | 死の塔 |
北村薫の「山眠る」(何シリーズというのか分からないが、国文学のネタが多い、「日常の推理」小説である。)の中に、山本健吉が、「百人一句」の中で加藤楸邨の代表句に
日本語を離れし蝶のハヒフヘホ
を選んでいる、と書かれていて、驚いたのだが、加藤楸邨にはそれ以外に名句は無いのか、と探してみると、有名な句がたくさんある。学校教科書に載るような句も5つ6つある。それが、何で意味不明の「蝶のハヒフヘホ」が代表句なのか。
下のリストで言えば、
鰯雲ひとに告ぐべきことならず
寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃
雉子の眸のかうかうとして売られけり
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ
しづかなる力満ちゆきばつたとぶ
などは特に有名であり、私も名句だと思うが、「蝶のハヒフヘホ」はまったく意味不明であり、私の日本語読解力では、何が「ハヒフヘホ」なのか分からない。ついでに言えば、同じ「山眠る」の中で「にこにこせりクリスマスケーキ買ふ男」が加藤楸邨にしか詠めない名句だとされているが、どこが名句なのか。その辺の素人俳人が詠んだ駄句だとしか思えない。まあ、「俳句が詠じる対象や俳句の言葉づかいなど、こんなものでいいのだ」と放り投げたような境地が素晴らしい、とでも言うなら、俳句というジャンルそのものの否定ではないか。舌頭に千転した結果が「にこにこせりクリスマスケーキ買ふ男」か。芭蕉が真っ赤になって怒るだろう。
これもついでに言えば、芭蕉の名句「海くれて鴨のこゑほのかに白し」を「海暮れてほのかに白し鴨のこゑ」のほうがいいといい、しかも、どちらにしても駄句だと言い切る文学者が出て来るが、キチガイだろう。
(以下引用)
日本語を離れし蝶のハヒフヘホ
を選んでいる、と書かれていて、驚いたのだが、加藤楸邨にはそれ以外に名句は無いのか、と探してみると、有名な句がたくさんある。学校教科書に載るような句も5つ6つある。それが、何で意味不明の「蝶のハヒフヘホ」が代表句なのか。
下のリストで言えば、
鰯雲ひとに告ぐべきことならず
寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃
雉子の眸のかうかうとして売られけり
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ
しづかなる力満ちゆきばつたとぶ
などは特に有名であり、私も名句だと思うが、「蝶のハヒフヘホ」はまったく意味不明であり、私の日本語読解力では、何が「ハヒフヘホ」なのか分からない。ついでに言えば、同じ「山眠る」の中で「にこにこせりクリスマスケーキ買ふ男」が加藤楸邨にしか詠めない名句だとされているが、どこが名句なのか。その辺の素人俳人が詠んだ駄句だとしか思えない。まあ、「俳句が詠じる対象や俳句の言葉づかいなど、こんなものでいいのだ」と放り投げたような境地が素晴らしい、とでも言うなら、俳句というジャンルそのものの否定ではないか。舌頭に千転した結果が「にこにこせりクリスマスケーキ買ふ男」か。芭蕉が真っ赤になって怒るだろう。
これもついでに言えば、芭蕉の名句「海くれて鴨のこゑほのかに白し」を「海暮れてほのかに白し鴨のこゑ」のほうがいいといい、しかも、どちらにしても駄句だと言い切る文学者が出て来るが、キチガイだろう。
(以下引用)
句集別加藤楸邨100句 岩井善子選
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