老人の誤嚥(あるいは嚥下)事故はおそらく老人の死亡原因のかなりな割合を占めるもので、その予防や注意は本人以外では無理だろう。死亡事故の多さ自体が、その不可抗力性を示している。
つまり、「馬を水飲み場に連れていくことはできても馬に水を呑ませることはできない」ということであり、何かを飲み込むのは当人しかやることも止めることもできない。周囲の人ができるのは、変なものを飲み込んだり何かを喉に詰まらせたりした時に、それを吐かせることだけだ。で、この事件の場合、その処置はしたからこそ、その時点では命が助かったのだろう。でなければ、即死したはずだ。
つまり、一か月後の死亡原因は、この「おやつ事故」のせいではない。この事故で体が弱ったのかもしれないが、死因とは言えないのである。そういう「遠因」を死亡原因だとすれば、そもそもこの世に生まれたこと自体が死亡原因だ。
この程度(まあ、人の生死に関わる話ではあるが、「不可抗力に近い過失」と言える。)の事故を犯罪だとするなら、世の中でまともにできる仕事は無いだろう。そんなものより悪質な、警察や検察や政治家や上級国民の凶悪犯罪がすべて「検察が起訴すらしない」のとの対比があまりに極端である。
(以下引用)
入所者がおやつ詰まらせ死亡、介助の准看護師に有罪判決
佐藤靖
2013年12月、長野県安曇野市の特別養護老人ホームで、女性入所者(当時85)がおやつをのどに詰まらせ、1カ月後に死亡したとされる事件があった。長野地裁松本支部(野沢晃一裁判長)は25日、食事の介助中に女性に十分な注意を払わなかったなどとして、業務上過失致死の罪に問われた長野県松本市の准看護師山口けさえ被告(58)に、求刑通り罰金20万円の有罪判決を言い渡した。
起訴状などによると、山口被告は同年12月12日午後、同ホームの食堂で女性におやつのドーナツを配った。検察側は女性には口に食べ物を詰め込む癖があったのに、被告は他の利用者に気を取られ、女性への十分な注意を怠ったほか、窒息などに備えておやつがゼリーに変更されていたのに、その確認も怠ったなどと主張した。
一方、被告側は女性は脳梗塞で死亡したと考えるのが最も合理的で、ドーナツによる窒息が原因で死亡したとの検察側の主張を否定。その上で女性の食べ物を飲み込む力には問題がなく、食事の様子を注視しないといけない状況ではなかった▽ゼリーへの変更は女性が食べ物を吐いてしまうことが理由で窒息対策ではなく、確認の義務はなかった、などとして無罪を求めていた。
食事介助中の出来事を罪に問うことは介護現場での萎縮を招くとして、裁判は介護関係者の強い関心を呼んだ。無罪を求める約44万5500筆の署名が裁判所に提出された。弁護団も結成され、公判はこの日の判決も含めて23回に及んだ。(佐藤靖)