日本人の米の消費量は急激に低下しているのに、糖尿病患者数は激増している、というのが興味深い。下の論文(というには結論が不明確だが)に書かれているように、糖尿病患者増加の原因は米ではなく、ケーキやスナック菓子、缶ジュースや缶コーヒーの過剰摂取と、運動不足にあるのではないか。特に運動不足というのは大きな原因だろう。現代人の日常生活は、仕事も遊びもほとんど体を動かさないものだ。特に、会社ではデスクワーク、家に帰ったらネット三昧という人は危ない生活だと言えるだろう。通勤の往復の電車やバスの中くらいは立っていたほうが健康には良さそうだ。
などと言いながら、私自身、一日の運動量は、近くのコンビニに買い物に行くだけであるwww
(以下引用)
日本人の摂取総カロリー、蛋白、脂質、炭水化物比の経年変化
私が小さい頃(1950年代)を何度思い返しても炭水化物の摂取量や総摂取エネルギー(カロリー)に対する比は今よりはるかに高かった。肉や肉製品から摂取する脂質や蛋白質が現在より圧倒的に少なかった。
意外と知られていないが、いろいろな疾患、とくに糖尿病の発症を理解するために重要な日本人の栄養素と総摂取エネルギー(カロリー)の変化を図に示して、それから考えられることをまとめてみた。
摂取総カロリー、蛋白、脂質、炭水化物比の変化
図(上)は、過去60年間の日本人の蛋白(P)、脂質(F)、炭水化物(C)の総エネルギー摂取に対する比の経年変化で、出典は国民栄養調査をまとめた総説からである(1)。これは約15000人を全国の定点観察地から無作為に選んで栄養調査を行っているので、無作為化が難しい各研究機関が行っているコホート研究よりは正確であろう。これを見て小さい頃の記憶を再確認できた。この経時変化は糖尿病発生を考えるのにきわめて大切なことであるが、とくに1985年以降の高度成長期が終焉した後のPFC変化は意外に知られていない。
第二次世界大戦直後(1946年)の炭水化物比は約81%、日本人はほとんどのエネルギーを炭水化物から摂取しており、脂質からはわずか9%程度である。その後、高度成長と共に摂取エネルギーは増え続けて、1975年には2226kcal、炭水化物比63%、脂質比22%に達する。高度経済成長が終わった1985年頃には(円高不況)2088kcal、P : F : C =60 : 25 : 15となって、それ以降20年間、炭水化物摂取比も脂肪摂取比もほとんど変化はなく、ただ総摂取エネルギーは減り続けている。
食品別の年間総消費量の変化(日本全体)
図(下)にはしばしばいろいろな医学文献に引用されている食品別消費量の掲示推移で、出典は農林水産省の統計である(1)。人口は1960年(9300万人)から2005年(1億2600万人)までは人口が増え続けており、所得も増えているので脂質、肉の右肩上がりは当然であろうが、コメの消費量はかなり減っている。栄養調査で炭水化物比に変化がないのだから、パン、ケーキ、ソフトドリンクなど血糖値を上げる食品由来の炭水化物がコメ消費の減少に見合うだけ増えているはずだが、最も重要なそれらの消費量のグラフが欠けている。表2を以て肉に付随する脂質摂取や総摂取エネルギー増加が糖尿病を増やしているというのは、国民栄養調査からみて明らかに間違いである。
糖尿病発症の炭水化物(糖質)一元論は無理、その他の要因は?
翻って、糖尿病の発生は1950年頃を1とすると35倍以上の890万人になったと言われている(2)。私たちやアメリカでの食事負荷試験では食後血糖値を上昇させるのは炭水化物だけと言ってよいが(3-5)、それだけでは糖尿病発症を語れないのは、この60年間の摂取栄養素の変化をみれば明らかである。
まとめてみると、
1)炭水化物が一元的な糖尿病発症の要因なら、戦争直後がもっとも発症数が高いはず。
2)脂質に由来する総摂取エネルギーの増加が原因ならば、1985年以降に糖尿病発症は増えないはず。
このように糖尿病発症の炭水化物一元論には無理がある。常識的に考えて、私が生まれた1950年台と今の圧倒的な違いは運動量である。当時、自動車を持っている家庭は私の周囲にはほとんどいなかった。荷物の運搬はリヤカーか人力であった。
もう一つの要因も考えておくべきかもしれない。最近、ハーバード大学栄養疫学部のF.B.Huらは大規模研究の成果から、赤肉とその加工物の摂取量と総死亡、癌死、心血管死および糖尿病発生の正の相関を発表し続けている(6)。糖尿病発症と赤肉、とくにその加工食品摂取は糖尿病発症のハザード比を有意に増加させる(7-9)。表2のもう一つの読み方は、肉と加工肉食品の消費量が人口がピークに達する2005年まで増加し続けていることと糖尿病が35倍になったのは関係があるかもしれない。
引用文献
1. Tada N, Maruyama C, Koba S, et al. Japanese dietary lifestyle and cardiovascular disease. J Atheroscler Thromb 2011;18:723-34.
2. 岩本安彦他編. 糖尿病診療2010: 日本医師会, 2010.
3. Haimoto H, Sasakabe T, Umegaki H, Wakai K. Acute metabolic responses to a high-carbohydrate meal in outpatients with type 2 diabetes treated with a low-carbohydrate diet: a crossover meal tolerance study. Nutr Metab (Lond) 2009;6:52.
4. Gannon MC, Nuttall FQ. Effect of a high-protein, low-carbohydrate diet on blood glucose control in people with type 2 diabetes. Diabetes 2004;53:2375-82.
5. Boden G, Sargrad K, Homko C, Mozzoli M, Stein TP. Effect of a low-carbohydrate diet on appetite, blood glucose levels, and insulin resistance in obese patients with type 2 diabetes. Ann Intern Med 2005;142:403-11.
6. Pan A, Sun Q, Bernstein AM, et al. Red meat consumption and mortality: results from 2 prospective cohort studies. Arch Intern Med 2012;172:555-63.
7. Halton TL, Liu S, Manson JE, Hu FB. Low-carbohydrate-diet score and risk of type 2 diabetes in women. Am J Clin Nutr 2008;87:339-46.
8. de Koning L, Fung TT, Liao X, et al. Low-carbohydrate diet scores and risk of type 2 diabetes in men. Am J Clin Nutr 2011;93:844-50.
9. Pan A, Sun Q, Bernstein AM, et al. Red meat consumption and risk of type 2 diabetes: 3 cohorts of US adults and an updated meta-analysis. Am J Clin Nutr 2011;94:1088-96.