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科学と医学

別ブログにも引用して載せた文章だが、作家山本弘の脳梗塞体験記の一節である。
これほど健康に気をつけている人間でも脳梗塞になる理不尽を彼は「確率の問題だろう」と結論しているが、あまり論理的な結論とは思えない。たとえば、親や祖父母や近親者に脳梗塞になった人はどのくらいいたか、という遺伝的な部分も考察すべきだろう。
邪推すれば、血糖値を抑える薬や、テクネシウムシンチという、「放射性元素を血管に入れて調べる」手法が原因になった可能性もあるわけだ。たとえ半減期が1日だろうが、その間に体に重篤な影響を与えないと断言はできないのではないか。山本氏は科学に強いことを自負しているSF作家だが、医学は科学ではない。科学まがいのものでしかない。現在行われている先端的医療そのものが人体実験みたいなものだ。医学論文の多くが後になっていい加減なものだったとされているのである。ただし、西洋医学の基礎的部分(と言うか、効果が長年の間に検証されている治療)はもちろん信頼していい。
なお、この文章の後の部分で山本氏が、脳梗塞の前兆だったのではないか、と書いている、物忘れが多くなったことや尿失禁など、単なる老化現象でしかない、と私は思う。



(以下引用)





 僕がこんな事態を招いたのには、何か決定的な前兆があったのだろうか。



 僕は数日に一度、美月の帰りが遅い日など、自宅での一家団欒の夕食をあきらめ、外食で済ませている。だが別に暴飲暴食をしているわけじゃない。近所のラーメン屋や鉄板焼の店、あるいはコンビニで売っている夜食ぐらいのものだ。



 普通の日は家で食べている。普段食べないような豪勢な食事なんて、月に一度くらい、東京に行ったときに食べるささやかなご馳走ぐらいのものだ。(秋葉原の『肉の万世』のロブスターは特にお気に入り)



 妻はかつて、僕がポテトチップスを食べるたびに渋い顔した。塩分の取りすぎだと。確かに一袋に一グラムの食塩は多すぎる。最近、僕はその悪癖をあらため、いっぺんにポテトチップスを食べないことにした。



 甘いものが昔から好きだ。医師から血糖値が高いとよく警告されていた。だが常人に比べて何倍も高いわけじゃないし、血糖を抑える薬も飲んでいる。何にせよ、いきなり破滅的な影響が出るとは考えにくい。



 それに僕は酒も煙草もやらない。信じられないほど健康な人間のはずなのだ。僕より不健康な暮らしをしている人間はいくらでもいる。





 しかも僕は、今年の一月、吹田市の国立循環器病研究センターで、レントゲン、CTスキャン、MRIなどで徹底的に検査を受けた。脳などの機能に異常がないことを確認してもらうためだ。



 そう言えば、テクネシウムシンチという珍しい検査も受けた。テクネシウムという特殊な放射性元素を血管に入れ、詳しく調べるものだ。テクネシウムの半減期はきわめて短く、たった一日で使えなくなってしまう。シンクロトロンなどで作ったものを運んできて、その日のうちの使い切るのだそうだ。そんなに半減期が短いということは、たちまち他の元素に変わってしまうので、安全なのだ。



 しかし、テクネシウムシンチを行っている部屋に気になるところがあった。部屋の入り口には「RI室」と書いてあるのに、RIとは何の略なのか書いてないのだ。ラジオアイソトープ(放射性同位元素)の略に決まってるのに。



 それに看護婦が血管に注射する時に、「お薬の注射を入れます」としか言わなかった。世の中には科学にうとい人もいる。「放射性同位元素を入れます」と正直に言うと、不安に思う人もいる。それを警戒したんだろう。



 僕みたいに、『日経サイエンス』を毎月読んでいて、テクネシウムシンチなんて言葉を知ってる人間の方が少数派だろう。放射線は大量に浴びると危険だが、X線など医療に用いる程度の量なら心配はいらない。僕などはむしろ、あまり聞いたことのない珍しい元素を体内に入れられると知って、わくわくしてしまったのだが。



 何にしても、精密検査では何も発見されなかった。



 脳梗塞は医師にも予知できない突然の出来事だったのだ。




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