第三十一章 有為転変
それから三年が経った。今では、エルマニア国の政治の実権はローラン国から連れてきた宰相のケスタが一手に握っていた。最初の王妃であったジャンヌは、第二夫人のマリカの策謀で毒殺され、今はマリカが第一王妃となっていた。
年を取って容色の衰えたカーミラはフリードの寵を失い、アリーは存在を忘れられた。何しろ、フリードの後宮には、前国王の時代に国中から集められた選りすぐりの美女が百人近くいたからである。フリードの仕事は毎日毎晩違う女と寝ることだけであり、これはケスタの思う壺だった。
そして、エルマニア国の人々は重税と苦役にあえいでいた。
かつて自分たちが苦しめられた事を、今は自分が原因となってしていることに、フリードは気づいていなかった。それほどに国王の暮らしは安逸に満ちていたからである。
ある日、宰相のケスタが報告をした。
「フリード様の弟御のヴァジル様が殺されました」
フリードは顔色を変えた。
ヴァジルはフリードの後のローラン国王となっていたのである。
フリードは気持ちを落ち着けて、強いて冷静に聞いた。
「どういう事情だ?」
「お后の密通相手の大臣に殺されたようです」
「そいつの名は?」
「エドモンとかいう男です」
「よし、すぐにそのエドモンを討伐に行くぞ」
「それはおやめになったほうが」
「何故だ?」
「ヴァジル様の悪政のために、国民はヴァジル様を恨んでおりました。エドモンはまるでシーザーを殺したプルータスのように、ヴァジル様の悪政を殺害の理由とし、国民の人気と支持を得ています。しかし、どうしても討伐に行かれるなら、軍勢は二千人までに願います。なにしろ、国家財政が不如意なもので」
「そうなのか?」
「はい。今年は不作のため、税収が少のうございます」
「そうか。なら、二千人の軍勢で行こう」
三年間の殿様暮らしですっかり頭の鈍ったフリードは、ケスタの言う通り、僅か二千の軍勢だけを引き連れて出陣した。
彼がローラン国との国境近くまで来た時、ケスタが即位し、新国王となったという噂が流れて来た。
フリードは呆然となった。
しかも、ケスタはフリードを追討するために二万の軍勢を差し向けたということである。
ケスタが自分に二千の軍隊しか与えなかったのはこのためか、とフリードは地団駄を踏んで悔しがったが、後の祭りである。
フリードはローラン国との戦争をあきらめ、古馴染みのライオネルの治めるビンデン郡に向かった。
それから三年が経った。今では、エルマニア国の政治の実権はローラン国から連れてきた宰相のケスタが一手に握っていた。最初の王妃であったジャンヌは、第二夫人のマリカの策謀で毒殺され、今はマリカが第一王妃となっていた。
年を取って容色の衰えたカーミラはフリードの寵を失い、アリーは存在を忘れられた。何しろ、フリードの後宮には、前国王の時代に国中から集められた選りすぐりの美女が百人近くいたからである。フリードの仕事は毎日毎晩違う女と寝ることだけであり、これはケスタの思う壺だった。
そして、エルマニア国の人々は重税と苦役にあえいでいた。
かつて自分たちが苦しめられた事を、今は自分が原因となってしていることに、フリードは気づいていなかった。それほどに国王の暮らしは安逸に満ちていたからである。
ある日、宰相のケスタが報告をした。
「フリード様の弟御のヴァジル様が殺されました」
フリードは顔色を変えた。
ヴァジルはフリードの後のローラン国王となっていたのである。
フリードは気持ちを落ち着けて、強いて冷静に聞いた。
「どういう事情だ?」
「お后の密通相手の大臣に殺されたようです」
「そいつの名は?」
「エドモンとかいう男です」
「よし、すぐにそのエドモンを討伐に行くぞ」
「それはおやめになったほうが」
「何故だ?」
「ヴァジル様の悪政のために、国民はヴァジル様を恨んでおりました。エドモンはまるでシーザーを殺したプルータスのように、ヴァジル様の悪政を殺害の理由とし、国民の人気と支持を得ています。しかし、どうしても討伐に行かれるなら、軍勢は二千人までに願います。なにしろ、国家財政が不如意なもので」
「そうなのか?」
「はい。今年は不作のため、税収が少のうございます」
「そうか。なら、二千人の軍勢で行こう」
三年間の殿様暮らしですっかり頭の鈍ったフリードは、ケスタの言う通り、僅か二千の軍勢だけを引き連れて出陣した。
彼がローラン国との国境近くまで来た時、ケスタが即位し、新国王となったという噂が流れて来た。
フリードは呆然となった。
しかも、ケスタはフリードを追討するために二万の軍勢を差し向けたということである。
ケスタが自分に二千の軍隊しか与えなかったのはこのためか、とフリードは地団駄を踏んで悔しがったが、後の祭りである。
フリードはローラン国との戦争をあきらめ、古馴染みのライオネルの治めるビンデン郡に向かった。
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