第十五章 魔法の剣
ザイードの宮殿を脱出したマルスたちは、ロレンゾの登った山に自分たちも向かうことにした。それはロレンゾの言った七日間の期限が今日で終わるからであり、もう一つには、マルスたちを追う追っ手を避けるためである。
マルスたちが山に登り始めた時、町の方からこちらに向かってくる軍勢が見えた。
「こっちが町を出た事が分かったらしいな」
はるか彼方の砂埃を見ながら、ピエールが言った。
「あと二、三時間でこっちに来るな」
マルスも言った。
「弓は?」
ピエールの言葉に、マルスは首を振った。
「弓は持っているが、矢が二十四本しかない」
「追っ手の数がどのくらいかが問題だな」
「あれは百人以上いる」
例によって、マルスがその驚異的な視力で彼方を見て言う。
「早く山に登って、こちらに有利な場所を探そう」
駱駝は山の中腹に繋ぎ、グレイだけを引っ張って、山頂を目指すうちに、道は馬では登れない地形になってきた。人目につかない場所にグレイも隠し、さらに登る。
「いったいぜんたい、ロレンゾの奴はどこにいるのかな」
ピエールがぶつぶつ言っていると、マルスが手を上げて指差した。
「あそこだ」
マルスの指した所は、山頂であった。そこに祭壇を築き、何かを燃やしながらロレンゾはその前に身を屈めて、何かを祈っている。
ピエールやその他の者がロレンゾのその姿を認めた丁度その時、青空に雷鳴が轟き、雲一つ無い天の一角に一筋の稲妻が走り、その稲妻はロレンゾのいる山頂の祭壇に落ちてきた。
その稲妻にロレンゾが跳ね飛ばされたのを見て、マルスとピエールはその側に駆け寄った。
「大丈夫ですか」
マルスはロレンゾを助け起こした。
「おお、マルスか、丁度いい時に来たな。見ろ、大天使ミカエルの力が今、この剣に下りてきたのだ」
ロレンゾは祭壇を指した。
石で作った祭壇は稲妻で黒焦げになっていたが、その上には青く輝く一振りの剣があった。それがガーディアンであることは分かったが、剣の輝きはこれまでとは全然違う。
「この剣を持てば、まず大抵の妖魔には勝てるだろう」
マルスは剣を天にかざして感動している。
「人間にはどうだ」
あまり感動もしていないピエールの言葉に、ロレンゾは首を捻った。
「それは分からん。これは妖魔と戦うための剣であり、人間相手のものではない。まあ、普通の剣と同じだろう」
「何だ。今の俺たちには、人間相手の武器の方が必要みたいだぜ」
「興ざめな奴だ。わしの折角の労作だのに、もう少し感心せんか。人間相手とはどういう事だ?」
「俺たちは百人の軍勢に追われているって事さ」
「百人か。大した事は無い。だが、軍勢に追われているという事は、宮殿に潜入したという事じゃな。で、賢者の書は?」
「取ってきたみたいだぜ」
「ほう、それはよくやった。後でゆっくり見せて貰おう。どれ、百人の軍勢などわしが追っ払ってやるわい」
マルスたちを追ってきた軍勢は、今や山頂から二百メートルの地点に迫っていた。もちろん、馬では来られないから、皆徒歩で登ってきている。
「あれがその軍勢だな。よし、わしがあれを半分くらいに減らしてやろう」
ロレンゾは胸の前で手を組んで印を結び、何やら呪文を唱えて精神を統一した。
敵兵はマルスたちを前方に発見し、気勢を上げて前進しようとしていたが、その時、奇妙な事が起こった。
兵士たちの前で数個の小石がふわふわと浮き上がったのである。
その小石は、呆然としている兵士たちの前を生き物のように漂っていたが、やがてスピードを上げて、兵士たちの顔や体に叩き付けられた。
「うわっ」
兵士たちは顔面を手で覆って、小石を避けようとするが、小石は次々と飛来する。
やがて、兵士たちは、上方から無気味な物音がしてくるのに気付いた。その物音はやがて地鳴りとなり、上から地響きを立てて大小様々な岩石が雪崩れ落ちてきたのであった。
兵士たちは半分以上がこの地崩れの下敷きになり、あるいは岩石に跳ね飛ばされて死に、あるいは重傷を負い、残りはこの不思議な現象に恐れをなして、そのまま我先に逃げ去ってしまったのであった。
「やるねえ、爺さん、あんたが魔法使いだってのは本当だったんだ」
ピエールが感心して声を上げた。
「あまりこういう事はやりたくないんじゃ。疲れるのでの」
ロレンゾは息を切らし、額に脂汗を滲ませて言った。そして、こう続けた。
「なにはともあれ、これでここでの仕事は終わりじゃ」
ザイードの宮殿を脱出したマルスたちは、ロレンゾの登った山に自分たちも向かうことにした。それはロレンゾの言った七日間の期限が今日で終わるからであり、もう一つには、マルスたちを追う追っ手を避けるためである。
マルスたちが山に登り始めた時、町の方からこちらに向かってくる軍勢が見えた。
「こっちが町を出た事が分かったらしいな」
はるか彼方の砂埃を見ながら、ピエールが言った。
「あと二、三時間でこっちに来るな」
マルスも言った。
「弓は?」
ピエールの言葉に、マルスは首を振った。
「弓は持っているが、矢が二十四本しかない」
「追っ手の数がどのくらいかが問題だな」
「あれは百人以上いる」
例によって、マルスがその驚異的な視力で彼方を見て言う。
「早く山に登って、こちらに有利な場所を探そう」
駱駝は山の中腹に繋ぎ、グレイだけを引っ張って、山頂を目指すうちに、道は馬では登れない地形になってきた。人目につかない場所にグレイも隠し、さらに登る。
「いったいぜんたい、ロレンゾの奴はどこにいるのかな」
ピエールがぶつぶつ言っていると、マルスが手を上げて指差した。
「あそこだ」
マルスの指した所は、山頂であった。そこに祭壇を築き、何かを燃やしながらロレンゾはその前に身を屈めて、何かを祈っている。
ピエールやその他の者がロレンゾのその姿を認めた丁度その時、青空に雷鳴が轟き、雲一つ無い天の一角に一筋の稲妻が走り、その稲妻はロレンゾのいる山頂の祭壇に落ちてきた。
その稲妻にロレンゾが跳ね飛ばされたのを見て、マルスとピエールはその側に駆け寄った。
「大丈夫ですか」
マルスはロレンゾを助け起こした。
「おお、マルスか、丁度いい時に来たな。見ろ、大天使ミカエルの力が今、この剣に下りてきたのだ」
ロレンゾは祭壇を指した。
石で作った祭壇は稲妻で黒焦げになっていたが、その上には青く輝く一振りの剣があった。それがガーディアンであることは分かったが、剣の輝きはこれまでとは全然違う。
「この剣を持てば、まず大抵の妖魔には勝てるだろう」
マルスは剣を天にかざして感動している。
「人間にはどうだ」
あまり感動もしていないピエールの言葉に、ロレンゾは首を捻った。
「それは分からん。これは妖魔と戦うための剣であり、人間相手のものではない。まあ、普通の剣と同じだろう」
「何だ。今の俺たちには、人間相手の武器の方が必要みたいだぜ」
「興ざめな奴だ。わしの折角の労作だのに、もう少し感心せんか。人間相手とはどういう事だ?」
「俺たちは百人の軍勢に追われているって事さ」
「百人か。大した事は無い。だが、軍勢に追われているという事は、宮殿に潜入したという事じゃな。で、賢者の書は?」
「取ってきたみたいだぜ」
「ほう、それはよくやった。後でゆっくり見せて貰おう。どれ、百人の軍勢などわしが追っ払ってやるわい」
マルスたちを追ってきた軍勢は、今や山頂から二百メートルの地点に迫っていた。もちろん、馬では来られないから、皆徒歩で登ってきている。
「あれがその軍勢だな。よし、わしがあれを半分くらいに減らしてやろう」
ロレンゾは胸の前で手を組んで印を結び、何やら呪文を唱えて精神を統一した。
敵兵はマルスたちを前方に発見し、気勢を上げて前進しようとしていたが、その時、奇妙な事が起こった。
兵士たちの前で数個の小石がふわふわと浮き上がったのである。
その小石は、呆然としている兵士たちの前を生き物のように漂っていたが、やがてスピードを上げて、兵士たちの顔や体に叩き付けられた。
「うわっ」
兵士たちは顔面を手で覆って、小石を避けようとするが、小石は次々と飛来する。
やがて、兵士たちは、上方から無気味な物音がしてくるのに気付いた。その物音はやがて地鳴りとなり、上から地響きを立てて大小様々な岩石が雪崩れ落ちてきたのであった。
兵士たちは半分以上がこの地崩れの下敷きになり、あるいは岩石に跳ね飛ばされて死に、あるいは重傷を負い、残りはこの不思議な現象に恐れをなして、そのまま我先に逃げ去ってしまったのであった。
「やるねえ、爺さん、あんたが魔法使いだってのは本当だったんだ」
ピエールが感心して声を上げた。
「あまりこういう事はやりたくないんじゃ。疲れるのでの」
ロレンゾは息を切らし、額に脂汗を滲ませて言った。そして、こう続けた。
「なにはともあれ、これでここでの仕事は終わりじゃ」
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