第四十七章 スオミラ救出
マルスたちの一行は、レントを出発して、アルカードに向かっていた。
アンドレがレント国王から貸し与えられた兵士の数は二百人である。国王は、もっと出そうと言ったのだが、今回はアスカルファンの場合と違って、勝っても戦費の捻出が難しいので、二百人に止めたのである。
「今度は前と逆だな。こちらが城を攻める番だ」
オズモンドが言った。
「しかも、中にいる市民に被害を与えてはならないんだから、さしものアンドレも頭が痛い事だろう」
オズモンドは、考える事は自分の役目ではないと決め込んでいる。
アンドレは船室の一つで机に向かったり、ベッドに寝転んだりしてあれこれ悩んでいる。
翌日はスオミラに着くという日の夕方、彼は部屋から出てきてみんなに言った。
「やはり、正面から攻めるのは市民の被害が大きい。奇襲でいこう」
アンドレは計画を説明した。
「スオミラの町の城壁のうち、背後の川に面した側には、外からは見えないが、下水溝が川の下に開いている。河の水位が下がったら、頭一つ分は上に空間が出来て、そこから中に入れるはずだ。運が悪ければ、汚水の下を潜っていくしかないが」
男たちは、互いに顔を見合わせた。
「下水溝を潜っていくんですか?」
ジョンが情けなさそうな顔をした。
「全員ではない。誰かが入っていって、城門を開くんだ。そうすれば、兵士たちに一斉に中に突入させる事が出来る」
「俺は下水に潜るのはいやだぞ。ローラン家の者が、そんな事できるか」
オズモンドが早速断った。
「君には期待していないよ」
アンドレも冷たく答える。
「僕がやろう」
と言ったのはマルスである。
「私も行きます」
とオーエン。
「では、僕を入れて三人だ。ジョンは、安全な所で、トリスターナさんとマチルダさんを守っていてくれ。オズモンドは、中から合図があったら、兵たちを指揮して、中に突入するんだ」
アンドレの言葉に、女たちは文句を言った。
「そんな。私たちも働かせてください」
「いや、気持ちは嬉しいんですが、あなたたちは、離れたところにいてください。もし、負傷者が出たらその看護をして頂きたいのです」
アンドレは二人を押し止めて言った。
翌日、夕日が沈む頃、船はスオミラの町から二キロほど離れた所に停泊した。
そこから歩いて、スオミラの町が目に入った所で、トリスターナ、マチルダ、ジョンの三人は待機し、残る兵士たちは監視兵に見つからないように、姿を隠しながらスオミラの町に近づいていった。
町から数百メートルの所に兵士たちを潜伏させ、マルス、アンドレ、オーエンの三人は、川に身を沈めた。初冬の川水は、身を切るように冷たい。
一面の星空だが、月は無く、監視兵には見つかりにくい夜である。
先頭のマルスがアンドレに教えられた下水溝を探す。なるほど、人間の頭が僅かに出るくらいの隙間が見つかった。
その下は、人が四つん這いになってやっと歩けるくらいの穴である。もしもこの中に閉じ込められて、水位が上がったら、溺死するしかない。
幸い、この時間には城内から下水が流れることもなく、三人は無事にその穴を通って城内に入ることが出来た。
中に入ったマルスは、持っていた弓で、まず城壁の上の監視兵を射殺した。星明りの中だが、マルスの視力には十分な明るさである。監視兵は、城壁の上に崩れ落ち、あるいは下に転落した。
その間に、アンドレは城内の様子を探りに走って行き、オーエンは城門を開いた。
マルスは城門の上に立って、合図の火縄を振った。
外に待機していた兵士たちが城内に駆け込んでくる。城内にいたグリセリードの兵士たちは、その物音に驚いて飛び起きたが、兵士たちの先頭を切って走り込んできたクアトロに、たちまち五、六人が真っ二つにされた。他の兵士たちもそれぞれグリセリードの兵士を切り殺し、城内にいた百五十人のグリセリード軍兵士のうち半数ほどは、最初の数十分間で死体になった。そして、残る半分は、相手兵士の数を見て、降参したのであった。
マルスたちの一行は、レントを出発して、アルカードに向かっていた。
アンドレがレント国王から貸し与えられた兵士の数は二百人である。国王は、もっと出そうと言ったのだが、今回はアスカルファンの場合と違って、勝っても戦費の捻出が難しいので、二百人に止めたのである。
「今度は前と逆だな。こちらが城を攻める番だ」
オズモンドが言った。
「しかも、中にいる市民に被害を与えてはならないんだから、さしものアンドレも頭が痛い事だろう」
オズモンドは、考える事は自分の役目ではないと決め込んでいる。
アンドレは船室の一つで机に向かったり、ベッドに寝転んだりしてあれこれ悩んでいる。
翌日はスオミラに着くという日の夕方、彼は部屋から出てきてみんなに言った。
「やはり、正面から攻めるのは市民の被害が大きい。奇襲でいこう」
アンドレは計画を説明した。
「スオミラの町の城壁のうち、背後の川に面した側には、外からは見えないが、下水溝が川の下に開いている。河の水位が下がったら、頭一つ分は上に空間が出来て、そこから中に入れるはずだ。運が悪ければ、汚水の下を潜っていくしかないが」
男たちは、互いに顔を見合わせた。
「下水溝を潜っていくんですか?」
ジョンが情けなさそうな顔をした。
「全員ではない。誰かが入っていって、城門を開くんだ。そうすれば、兵士たちに一斉に中に突入させる事が出来る」
「俺は下水に潜るのはいやだぞ。ローラン家の者が、そんな事できるか」
オズモンドが早速断った。
「君には期待していないよ」
アンドレも冷たく答える。
「僕がやろう」
と言ったのはマルスである。
「私も行きます」
とオーエン。
「では、僕を入れて三人だ。ジョンは、安全な所で、トリスターナさんとマチルダさんを守っていてくれ。オズモンドは、中から合図があったら、兵たちを指揮して、中に突入するんだ」
アンドレの言葉に、女たちは文句を言った。
「そんな。私たちも働かせてください」
「いや、気持ちは嬉しいんですが、あなたたちは、離れたところにいてください。もし、負傷者が出たらその看護をして頂きたいのです」
アンドレは二人を押し止めて言った。
翌日、夕日が沈む頃、船はスオミラの町から二キロほど離れた所に停泊した。
そこから歩いて、スオミラの町が目に入った所で、トリスターナ、マチルダ、ジョンの三人は待機し、残る兵士たちは監視兵に見つからないように、姿を隠しながらスオミラの町に近づいていった。
町から数百メートルの所に兵士たちを潜伏させ、マルス、アンドレ、オーエンの三人は、川に身を沈めた。初冬の川水は、身を切るように冷たい。
一面の星空だが、月は無く、監視兵には見つかりにくい夜である。
先頭のマルスがアンドレに教えられた下水溝を探す。なるほど、人間の頭が僅かに出るくらいの隙間が見つかった。
その下は、人が四つん這いになってやっと歩けるくらいの穴である。もしもこの中に閉じ込められて、水位が上がったら、溺死するしかない。
幸い、この時間には城内から下水が流れることもなく、三人は無事にその穴を通って城内に入ることが出来た。
中に入ったマルスは、持っていた弓で、まず城壁の上の監視兵を射殺した。星明りの中だが、マルスの視力には十分な明るさである。監視兵は、城壁の上に崩れ落ち、あるいは下に転落した。
その間に、アンドレは城内の様子を探りに走って行き、オーエンは城門を開いた。
マルスは城門の上に立って、合図の火縄を振った。
外に待機していた兵士たちが城内に駆け込んでくる。城内にいたグリセリードの兵士たちは、その物音に驚いて飛び起きたが、兵士たちの先頭を切って走り込んできたクアトロに、たちまち五、六人が真っ二つにされた。他の兵士たちもそれぞれグリセリードの兵士を切り殺し、城内にいた百五十人のグリセリード軍兵士のうち半数ほどは、最初の数十分間で死体になった。そして、残る半分は、相手兵士の数を見て、降参したのであった。
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