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怒りをもって振り返れ

「晴耕雨読」記事から抜粋転載。
清沢洌の「暗黒日記」は著名な書だが、私は未読である。下に書かれた内容から見ると、かなり啓発的な書物であるようだ。ここに書かれたことは、今でもそのまま通用する。
特に、末尾に書かれた日本人像は、カレル・ヴァン・ウォルフレンが日本人大衆の政治的欠陥として挙げた「シカタガナイ」というキーワードを想起させる。要するに日本人の大半にとって「政治は他人事」であり、せいぜい仲間内で政治の悪口を言うだけで、政治にまったく参加しない。政治の内実について自ら調べることもせず、国政選挙で平気で棄権して恥じようともしないのである。そのような国の政治がどの程度のものになるのかは自明だろう。
国民はその大衆のレベル以上の政治は持ち得ないのである。
では、それで話は終わりか。
あなたたちの未来の子孫たちにこのような国をあなたたちは残したいのか。私は嫌である。
啓蒙という言葉を嫌う人は多いと思う。偉そうに上段からお説教されるのは嫌だ、ということだろう。しかし、啓蒙以外に、すべての人民を救う道は無い、と私は思っている。
大人が子供から啓蒙されることもある。大学の先生や学者などが愚劣な発言をするのは日常茶飯事だ。その発言をした者の身分地位年齢に関わらず、「正しい言葉」に耳を傾けるという習慣が日本人の間に根付いた時に、日本は生まれ変わるのだと私は思っている。
インターネットが普及したことで、「無名の言葉」の持つ力はかつてないほど強くなっている。もちろん、それを利用した洗脳活動もどんどん強力になっていくだろう。しかし、表マスコミを信じない人間の比率がどんどん高くなっていることは疑いない。少なくともこれは明るい兆しではないだろうか?


「昨夜も、焼き出されたという男二人が、僕の家に一、二時間来ていたが、「しもた家が焼かれるのは仕方がない、戦争なんだから。工場が惜しい」と話していた」


これが一部の日本人が絶賛する「秩序ある日本人像」である。私はここに骨の髄まで奴隷化した精神を見る。日本人は自分の感情を抑圧することが習い性になっているため、「社会的演技」の上手な連中に大人しく支配され、国民一般は家畜化しているのである。もちろん私も同じだ。怒りのコントロールができないから喧嘩もうまくできない。まして演技などできない。要するに、「和をもって尊しとなす」日本の、その「和」とは、実は「怒ることが苦手」な大衆の我慢によって成り立っているのであり、怒るべき対象に対して怒れない、というのは美徳でも何でもなく、卑怯卑劣な家畜的根性にすぎない。それが日本を家畜国家にしているのである。


 「日本人の戦争観は、人道的な憤怒が起きないようになっている」


怒りの中には「人道的憤怒」がある。戦争に限らず、世の中のあらゆる不正(原発問題などもその一つだ。)に対し、人々はなぜ人道として怒らないのか。不正義に対し怒りを抑えることは不正義への加担なのである。




(以下引用)*色字部分は夢人による強調。

 

清沢洌「暗黒日記」

「物を知らぬものが、物を知っている者を嘲笑、軽視するところに必ず誤算が起こる。大東亜戦争前にその辺の専門家は相談されなかったのみではなく、いっさい口を閉じしめられた」


「この戦争において現れた最も大きな事実は、日本の教育の欠陥だ。信じ得ざるまでの観念主義、形式主義そのものである」

「日本の指導者は「学問」などというものの価値を全く解しない。無学の指導者と、局部しか見えない官僚とのコンビから何が生まれる! 」


 「毎朝のラジオを聞いて常に思う。世界の大国において、斯くの如く貧弱にして無学なる指導者を有した国が類例ありや。国際政治の重要なる時代にあって国際政治を知らず。全く世界の情勢を知らざるものによって導かるる危険さ

「暗黒日記」1943年7月14日

「日本国民は、今、初めて「戦争」を経験している。戦争は文化の母だとか、「百年戦争」だとかいって戦争を賛美してきたのは長いことだった。僕が迫害されたのは「反戦主義」だという理由からであった。戦争は、そんなに遊山に行くようなものなのか。それを今、彼等は味わっているのだ」

「だが、それでも彼等が、ほんとに戦争に懲りるかどうかは疑問だ。結果はむしろ反対なのではないかと思う。彼等は第一、戦争は不可避なものだと考えている。第二に彼等は戦争の英雄的であることに酔う。第三に彼等に国際的知識がない。知識の欠乏は驚くべきものがある」

「日本で最大の不自由は、国際問題において、対手(あいて)の立場を説明することができない一事だ。日本には自分の立場しかない。この心的態度をかえる教育をしなければ、日本は断じて世界一等国となることはできぬ。総ての問題はここから出発しなくてはならぬ」

「暗黒日記」1945年1月1日

「これ等の空爆を通して、一つの顕著な事実は、日本人が都市爆撃につき、決して米国の無差別爆撃を恨んでも、憤っても居らぬことである。僕が「実に怪しからん」というと、「戦争ですから」というのだ。戦争だから老幼男女を爆撃しても仕方がないと考えている」

「「戦争だから」という言葉を、僕は電車の中でも聞き、街頭でも聞いた。昨夜も、焼き出されたという男二人が、僕の家に一、二時間来ていたが、「しもた家が焼かれるのは仕方がない、戦争なんだから。工場が惜しい」と話していた」

「日本人の戦争観は、人道的な憤怒が起きないようになっている」

「暗黒日記」1945年4月16日





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