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仮想教室:「ドリトル先生航海記」を読む (その3)

(前回の続き。全3回ではなく全4回になりそうです。)




第二回目の授業 (第一章の続き)



 



先生「じゃあ、前回の続きを行こうか。前回は、語り手の少年、トミー・スタビンスが、



見たことのない世界にあこがれていた、という所までだったね。例によって、A君、B君、Cさんの順に、一文ずつ読んで、訳してもらおうか」



生徒A「『Three great friends I had in Puddleby in those days.』」



生徒B「『三人の偉大な友人を、その当時私はパドルビィの町で持っていた。』?」



先生「『great』は、『偉大な』ではなく、『大人の』か、『大きな』がいいだろうね。後でわかるけど、その三人のうち二人はまったくの貧民だからね。英語の『great』には、我々が思うほどの賛嘆の気持ちは無いようだよ。プラターズの歌にも、『great pritender』ってのがあるけど、これも『偉大な嘘つき』とすると変だしね.次行こうか」



生徒C「『One was Joe ,the musselman ,who lived in a tiny hut by the edge of the water under the bridge.』」



生徒A「『そのうちの一人はジョーで、彼は『mussel-man』で、川沿いの、例の橋の下の小さな『hut』に住んでいた。』」



先生「A君、『hut』は何だと思う?」



生徒A「小屋でしょうね。橋の下にあるんだから」



先生「多分ね。『mussel-man』は私も分からない。ええと、辞書では『mussel』しかないけど、『イガイ科二枚貝の総称』となっている。わけがわからないね。しゃくだけど、本の後ろの注釈に頼ろう。ええと、『貝を掘る男』だって。なあんだ。でも、なあんだ、と言っちゃあ、本当はいけない。「解体新書」の「フルッヘンド」の話にもあるように、初めて翻訳する時は、意外な、単純なところに苦労するものだし、後から来た人間がそうした先人の苦労の遺産の有難味を忘れてはいけないんだ。おっと、次に行こう」



生徒B「『This old man was simply marvellous at making things.』」



生徒C「先生、この『simply』は、『単純に』と訳していいんですか?」



先生「よくないだろうね。次の『marvellous』と矛盾する。これは強調の副詞だろうから、『とても』とでもすれば?」



生徒C「『この老人は物を作ることにかけてはとても素晴らしかった。』」



先生「OK、次」



生徒A「『I never saw a man so clever with his hands.』」



生徒B「『手仕事については、これほど優れた人間を私はかつて見たことがない』」



先生「いいね。『clever』を『賢い』としなかったところは偉い。多くの生徒の欠点は、自分が知っている訳語にこだわって、文脈をまったく考えない訳をしてしまうことだ.『hands』を『手仕事』としたのもいい」



生徒C「『He used to mend my toy ships for me which I sailed upon the river ;he built windmills out of packingcases and barrelstaves ; and he could make the most wonderful kites from old umbrellas.』」



生徒A「『彼は私のために、私が川の上を走らせるためのおもちゃの船をいつも修繕してくれたし、荷箱や『barrelstaves』から風車を作ってくれたし、古い傘から最高に素晴らしい凧を作ってくれた』」



先生「『stave』は『樽板』だと辞書にはあるね。まあ、『barrel』が樽だということくらいは分かっていただろうけど。ここで、“out of”を『~から』としたのはいいね。まあ、常識だろうけど、“of”自体が、“out”を起源としているという説があるね。つまり、その物が何から出て来たかを表す前置詞だ。“チーズは牛乳から出来る”とかね。だから、ある人間の出身地や、帰属する集団なども“何とかof何々”というように表すね。……これは脱線だな。次いこうか」



生徒B「段落が変わります。『Another friend I had was Matthew Muggthe catsmeetman.』」



生徒C「『catsmeetman』の訳は『猫肉屋』でいいんですね?」



先生「それしかないね。井伏先生の名訳だからね。これを『ペットフード屋』としちゃあ、この話の雰囲気が変わってしまう」 



生徒C「『私の持っていたもう一人の友人は、猫肉屋のマシュー・マグであった。』」



生徒A「続けますよ。『He was a funny old person with a bad squint.』」



生徒B「『彼は『bad squint』な面白い老人だった』」



先生「辞書では、『squint』は斜視、やぶにらみの事だな。それに、ここでのoldは、語り手のトミーから見ての話だから、『老人』とするよりは『大人』とするほうがいい」



生徒B「『彼は、ひどいやぶにらみの面白い大人だった』」



生徒C「続けます。『He looked rather awful but he was really quite nice to talk to.』」



生徒A「『rather』は『やや』ですか、『かなり』ですか?」



先生「困ったな。辞書には両方出ている。『やや』と『かなり』は正反対だのに、二つとも『rather』の訳になるってのが問題だよな。こうしたことから英語が嫌いになる生徒も多いんだけどね。まあ、『ひどい斜視だ』とあるから、『かなりawfulだ』にしておこう」



生徒A「『彼はかなり恐ろしい顔をしていたが、話してみるととても素敵な人間だった』それとも『話すには素敵な人間だった』がいいですかね」



先生「どっちかな。まあ、どっちでもいいさ。それより、『nice』を『素敵』とするのはどうかな。どうも女性的な感じの表現だから、『感じのいい』くらいがいいかもしれない」



生徒B「先生、『nice』には、『愉快な』という訳もありますよ」



先生「えっ、そうなの? なら、マシュー・マグのキャラクターなら、そっちがいいな」



生徒A「『彼はかなり恐ろしい顔をしていたが、話すととても愉快な人間だった。』」





 

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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