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蜜の味 #1

第一幕

情景1


舞台は、マンチェスターの居心地の悪いフラット(安アパート)。外に街路が見え、ジャズが流れる。ヘレンが入ってくる。半娼婦。その娘ジョー。二人は引っ越しの荷物を持っている。

ヘレン:さて、ここが新居よ。
ジョー:そして、私はここが嫌い。
ヘレン:部屋を探す時にはあんたの気持ちなんかより大事なものがあるの。……家賃よ。
ここ以外に借りられる場所は無いの。
ジョー:この古い廃墟よりマシな場所もあったと思うわ。
ヘレン:自分で稼ぐようになってからたっぷり自分で苦しみなさい。
ジョー:ここに満足するのはすぐには無理ね。寒いし、それに私の靴は水がしみ込んでいるの。
……なんて場所だろう。……おまけに、母親が体を売ることで生活するなんて。
ヘレン:警察なら大丈夫よ。注意するから。何にせよ、ここのどこが不満なの? 確かにあちこち壊れているし、暖房は無いわ。でも、ガス工場の眺めはいいし、共用のバスルームもあるし、壁紙は今風だわ。それ以上に何が必要なの? いずれにせよ、あたしたちにはここで十分よ。メガネを頂戴。
ジョー:どこにあるの?
ヘレン:あたしは知らないよ。
ジョー:あなたが荷造りしたのよ。(小声で)メガネを無くしたなら、頭も一緒に無くしたんでしょ。
ヘレン:ここにあったわ。自分のバッグにしっかり入れてあった。ボトルを頂戴。そのカバンの中よ。
ジョー:なんで私があなたの言うとおりにばかりしないといけないんだろう。(カバンからウィスキーのボトルを取り出す。)
ヘレン:子供は親にたくさん借りがあるからさ。
ジョー:私は一つも借りは無いわ。
ヘレン:あんたは親を少しも尊敬しないんだね。
ジョー:飲むことしか頭に無い親をどう尊敬しろと言うの? 吐き気がするわ。
ヘレン:ほかの家の子は日々のパンを神に祈るのだよ。私は……
ジョー:ここは寝室なの?
ヘレン:そうだよ。……私が祈るのはあんたの健康さ。




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HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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